キリンが出資するBEER EXPERIENCE社(以下、BE)では、コロナ禍における新たな取り組みを模索している。岩手県遠野市にて、毎年恒例となっていた「遠野ホップ収穫祭」や体験型の「遠野ビアツーリズム」は、今年のコロナ禍で実施が難しい状況。そこで4月より、オンラインイベントを不定期ながら開催している。

  • BEER EXPERIENCE、今年はオンラインで「遠野ビアツーリズム」開催

    キリンおよびBEは25日、岩手県遠野市にて実施している取り組みについて紹介した

オンラインの取り組みを加速

遠野市のホップ畑から、BEの浅井隆平氏がオンラインで説明した。同社のコア事業は『日本産ホップの生産拡大と高度化』。これまで、ドイツからホップ専用の機器を輸入するなどして栽培面積の拡大に努めてきた。ホップ新品種「MURAKAMI SEVEN」や「IBUKI」を使ったビール製品は、すでに市場で広い支持を集めており、ご存知の方も多いことだろう。

  • キリンが栽培する2つの日本産ホップを使った銘柄。MURAKAMI SEVEN、IBUKIはともに人気のビールとなっている

  • キリンビール 企画部 主務であり、BEER EXPERIENCE 取締役副社長の浅井隆平氏

ここ最近、BEではホップを消費者に身近な存在にすべく、日本産ホップを使った加工品にも挑戦している。浅井氏は「ホップはハーブの一種なんです。そこで、シロップ製品のHerb Cordial HOP Syrupを開発しました」と紹介した。蜂蜜のようなとろみのあるシロップで、炭酸水で割ったり、ホットケーキやヨーグルトにかけたり、といった楽しみ方ができるようだ。

  • シロップ製品のHerb Cordial HOP Syrup

また、唐辛子に形が似ている「遠野パドロン」の栽培にも取り組んできた。「おつまみ野菜を提供することで、日本のビアカルチャーを盛り上げていきたい」と浅井氏。収穫の回数に限りがあるホップとは違い、定期的に収穫できる遠野パドロンで事業基盤を確立していく狙いもある。

  • 唐辛子に似た「遠野パドロン」。まだ栽培1年目とのことで、今後の収穫量増に期待を寄せる

ホップについて深く知ってもらう目的で2015年よりスタートしたイベントが「遠野ホップ収穫祭」と「遠野ビアツーリズム」だった。第5回 遠野ホップ収穫祭(2019年開催)では、人口2万7,000人の遠野の町に、1万2,000名もの来場者を集める盛況ぶりだった。また遠野ビアツーリズムも、昨年は800名が参加している。

  • BEでは、遠野ホップ収穫祭、遠野ビアツーリズムなどの取り組みを通じて"ビールの里"として地域活性化に貢献するビジネスモデルを描いてきた

しかしこのコロナ禍では、BEも遠野の民間企業も、軒並み苦戦を強いられた。ブルワリーは来客が途絶え、クラフトビールの出荷数も伸び悩んでいる。そこでBEでは「正直、取り組むとは考えていなかった」(浅井氏)というオンラインショップを立ち上げ(4月)、続けてYouTubeにおける情報発信を始め(4月)、さらには6月から”オンライン飲み会”とも言える「オンライン遠野ビアツーリズム」の開催をスタートした。

  • 今年4月以降、オンラインの取り組みを加速させている

浅井氏は「通算10回のオンラインイベントを通じて、全国にBEを知ってもらえたし、ビールファンをつくることができた。逆境を跳ね返すためのチャレンジでしたが、北海道から沖縄まで、お客さんと画面でつながってホップの魅力や生産者の想いをお伝えできました」と総括する。不定期で手探りながら、今後も続けていく考えだ。

  • オンライン飲み会や配信の実績

ビールにまつわる様々な商品を詰め合わせて販売する「TONO HOP BOX 第1弾」も、このコロナ禍でスタートした企画。すでに全国に向けて出荷している。「個々の民間会社では商品の製造・販売が難しい状況下ですが、ひとつのチームになってBOXに商品を詰め、現地の思いも詰め込んで配送しています。多くのビールファンに楽しんでもらえる企画です」と浅井氏。

  • TONO HOP BOX 第1弾の内容

TONO HOP BOX 第1弾は、遠野産ホップビール(2種×各3本)、遠野食材のおつまみ(燻製とうふ、干し大根、あんべのおかず味噌)、ポストカード、ビールカップなどを同梱している。数量限定ながら、現在も遠野風の丘オンラインショップ「遠野ふるさと屋」、遠野市のふるさと納税などで購入できる。なお今後、内容物を替えた第2弾、第3弾も販売していく方針だという。

実食 - どんな味?

実際に「遠野パドロン」と「燻製とうふ」を試食する機会があったので、最後に食レポをお届けしたい。遠野パドロンは、素焼き、炒め、素揚げ、天ぷら、アヒージョなど様々な調理法に適しているという。

そこで炒めることにした。フライパンに油を敷いたら、キムチと遠野パドロンを一緒に放り込んで、軽く火を通す。これで完成。試食してみると歯ごたえが良い。鼻に伝わる香りは唐辛子にもピーマンにも似ている印象。噛むとサクサクと良い音がした。茎も柔らかくてクセがない。こうして、簡単にビールのおつまみが1品できるのが嬉しい。

  • 遠野パドロンとキムチの簡単炒め。後味も爽やかだった

一方で、燻製とうふはすぐに食べられる状態でパックされている。包丁で分けて皿にあけ、上からオリーブオイルを垂らした。食べてみると、豆腐というよりはチーズに近い食感。上品な燻製の香りが鼻に抜ける。咀嚼してもある程度、口に残るので、そこをビールで一気に流し込むのが爽快。

  • 燻製とうふ。上からオリーブオイルを垂らして食べた

この日、いただいたビールは「MURAKAMI SEVEN IPA」。マスカット、蜜柑などの柑橘類を思わせるフルーティな香りが楽しめる、人気の銘柄だ。夏の暑さを吹き飛ばす、ぴったりのチョイスだった。

  • MURAKAMI SEVEN IPAを一気に流し込んだ

TONO HOP BOX 第1弾にはMURAKAMI SEVEN IPAのほか、遠野ホップ収穫祭限定ラベルの「IBUKI IPA」、ズモナビールと遠野醸造のコラボによる「ONE AND ONLY TONO LAGER」も同梱する。気になった方は、キリンが遠野市民、ホップ農家、醸造家、遠野市らとタッグを組んでいるBrewGoodの公式Webサイトから情報をチェックして欲しい。