高血圧は脳梗塞や心筋梗塞などの重大な疾患につながるリスクファクターとしてよく知られている。そのため、日頃から塩分やアルコールの摂取過多などに気をつけている人も多いだろう。その一方で、実は通常よりも低い血圧、いわゆる「低血圧」の裏にも病気のリスクが潜んでいる事実はご存じだろうか。
本稿では糖尿病専門医、内分泌代謝専門医である山本咲医師の解説のもと、血圧が低い人に起きる症状や、血圧の低さが疾患リスクに及ぼす影響などを紹介していく。
低血圧の定義
血圧とは、心臓から送り出された血液が全身へ流れる際に血管の壁を押す圧力を指す。一般的に「上の血圧」と呼ばれることが多い収縮期血圧と「下の血圧」と呼ばれることが多い拡張期血圧の2つの数字が重要となる。高血圧と低血圧の定義は以下の通り。
■高血圧
診察室血圧が140/90mmHgを、家庭血圧が135/85 mmHgを超えたら、高血圧と診断される。収縮期血圧が140mmHg以上、もしくは拡張期血圧が90mmHg以上の場合、あるいはこの両方を満たすと高血圧と診断される。
■低血圧
低血圧には厳密な定義がなく、一般的に収縮期血圧90mmHg ~100mmHg未満を低血圧と呼ぶ。米国立衛生研究所では「収縮期血圧90mmHg未満またが拡張期血圧60mmHg未満」が低血圧として定義されている。
血圧が低いと出現する症状と低血圧の原因
血圧が低いと「頭痛」「めまい」「全身倦怠感」「食欲不振」「悪心」「動悸」「冷え」などのさまざまな症状が出現する。ひどいケースでは失神などを起こりうるが、無症状であることも少なくないという。
「低血圧の原因ですが、一般的に多いものでは自律神経の乱れや体内を巡る血液量の減少(循環血液量減少)、心臓から拍出される血液量の減少、薬剤性などがあります。それ以外ですと、ホルモンや電解質の異常なども低血圧の原因となりえます」
低血圧の種類
低血圧は、原因の有無により「本態性」と「症候性」に大別できる。前者は原因は不明だが、症状や病気を呈するもので、後者は原因が特定できるものだ。また、症状の経過という観点からは「急性」と「慢性」に分けられる。以下では、この分類に沿ったうえで3つの低血圧について説明していこう。
慢性持続性低血圧
慢性持続性低血圧は本態性低血圧と症候性低血圧に分けられる。はっきりした原因はないが血圧が低い状態の本態性低血圧は、症状がなければ治療が不要なケースが多い。一方の症候性低血圧は、原因があるため治療が必要となる。
「たとえば、心臓の病気(心筋梗塞、狭心症、弁膜症、不整脈など)や循環血液量の減少(脱水、貧血、出血など)、甲状腺ホルモンやストレスホルモンの異常、低ナトリウム血症、低カルシウム血症、感染症など、症候性低血圧の原因は多岐にわたります」
急性低血圧
文字通り急に血圧が下がる状態を指す。心筋梗塞や大量出血、重症感染症などが原因となるケースが多く、ショック状態により生命の危険が起きる事例も起こりうる。
起立性低血圧症
起立性低血圧症はいくつか種類があるが、寝ているときあるいは座っているときから起立して3分以内に「持続性の20mmHg以上の収縮期血圧の低下」または「10mmHg以上の拡張期血圧の低下」を示すものが代表的となる。糖尿病患者は自律神経の障害が合併症として出やすいため、起立性低血圧を起こしやすいとされている。
低血圧の治療
低血圧の治療をするか否かは、その低血圧の種類によって事情が変わってくる。
■慢性持続性低血圧
本態性低血圧は基本的に治療が不要なケースが多く、症候性低血圧は原因を調べてその病気に応じた治療が必要となる。
■急性低血圧
生命のリスクが迫っている可能性が高いため、直ちに病院を受診したうえで治療法を決定する必要がある。
■起立性低血圧症
まず原因を調べ、原因がわかればその疾患を治療するが、原因不明なこともある。基本的には、ゆっくり起き上がるように心がけるなどの対症療法が中心となるが、症状が強い場合は薬剤治療をするケースもある。
低血圧の予防法
慢性的な低血圧の人は、頭痛やめまいなどの諸症状に悩まされがちだ。そのような状態から脱するために重要なキーワードは「規則正しい生活」だと山本医師は力を込める。
「自律神経失調による起立性低血圧などは、生活習慣の乱れが原因となるケースがあります。そのため、日頃から規則正しい生活を心がけるといいでしょう。アルコールの多飲は脱水を引き起こすので、アルコールは控えて代わりに十分な水分を摂るようにしたいですね」