ソニーがノイズキャンセリング搭載ワイヤレスヘッドホンの新しいフラグシップモデル「WH-1000XM4」を、まもなく9月4日に発売します。モバイルアプリやAI、数々のセンシング技術を満載した、ポータブルヘッドホンの頂点に君臨するモデルの実力を深掘りレポートします。

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    WH-1000XM4(プラチナシルバー)

1000Xシリーズのヘッドホンは第4世代に

ソニーの1000Xは2016年に誕生したロングランヒット・シリーズです。ヘッドホンは最初のモデルである「MDR-1000X」がルーツで、2017年発売の第2世代「WH-1000XM2(マークツー)」からモバイルアプリ「Sony Headphones Connect」による操作に対応したほか、ペアリングしたスマホのセンサーが読み取ったユーザーの行動ステータスを解析して、ノイズキャンセリング(NC)と外音取り込みのバランスを自動調節する「アダプティブサウンドコントロール」が使えるようになり、大きく進化しました。

2018年発売の第3世代「WH-1000XM3」では、ソニーが独自に開発したノイズキャンセリングプロセッサー「QN1」を搭載したことで、NC性能の底力も飛躍的に伸びています。

現行の1000Xシリーズはソニーが開発したBluetoothコーデック、LDACに対応しています。同じくLDAC対応のXperiaをはじめとする最新のAndroidスマホや、ウォークマンなどのポータブルプレーヤーと組み合わせてハイレゾ相当のワイヤレス再生が楽しめます。

ソニー独自のアップコンバート機能であるDSEEの最新技術を搭載したことや、付属するケーブルでハイレゾ音楽プレーヤーに接続して「リアル・ハイレゾ再生」に対応する点も含めて、音質レポートを紹介します。

外観は前世代を踏襲、中身は想像できないほどに進化!

その前にまず、最新機種のWH-1000XM4(マークフォー、以下M4)と、従来機種のWH-1000XM3(以下M3)の違いを整理しましょう。

WH-1000XM4の店頭価格は税別40,000円前後。カラーは従来のWH-1000XM3と同じくブラックとプラチナシルバーの2色で、M3の時点で完成度の高いデザインとカラーはM4にもほぼそのまま踏襲されています。全体の質感はマットになり、特にM3では光沢処理としていたスライダーの部分も統一感のあるマット仕上げになりました。

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    WH-1000XM4(左)とWH-1000XM3(右)。M4は全体にマットな質感になった

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    M4では、NFCのロゴマークもハウジングと一体になっている

ハウジングとアームの間に生まれるギャップも限界までなくして、頭部に装着した時にできるほんのわずかな緩みも解消。ヘッドホンを着けた状態で“小顔”に見える無駄のないフィットを実現しています。

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    頭の形に沿うように設計されているM4(左)。筆者は頭が大きいので、M3(右)とさほど変わらないように見えるかもしれない

NC機能は、M3では専用プロセッサーのQN1だけで消音解析処理を行っていましたが、M4はBluetoothオーディオのシステムICチップ(SoC)に組み込まれている高性能なチップがQN1と連係し、新しいソフトウェアアルゴリズムを載せてパフォーマンスを向上しています。

圧縮音源の再生時にハイレゾ相当の音質にアップコンバートする「DSEE HX」は、M4から最新技術の「DSEE Extreme」に進化した形で搭載されています。

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    AIのテクノロジーを取り込んだアップコンバート機能「DSEE Extreme」を使い、圧縮音源(AAC)を再生しているところ

従来のDSEE HXは、アプリの設定から機能をオンに切り替えると固定パターンで高域補完処理をかけていました。新しいDSEE Extremeでは、ソニー独自のAIによる機械学習技術をベースにした膨大な楽曲データベースをつくり、ヘッドホンで再生中の楽曲とデータベースの曲にリアルタイムにマッチング処理を行うことで、音楽のジャンルや曲調、声や楽器に合わせた最適なアップスケーリング処理をかけるところに違いがあります。AIの技術を取り込んだDSEE HXの進化版です。

同様の技術は比較的新しいウォークマンやXperiaにも搭載されていますが、ポータブルヘッドホンではWH-1000XM4が初めてこれを採用しました。機械学習のデータベースはソニーミュージックが持つ豊富な楽曲のカタログを元に、エンジニアの声も反映させてブラッシュアップを図っています。

なお、M4が対応するBluetoothコーデックはSBC、AAC、LDACの3種類。従来M3でサポートしていたaptX、aptX HDは、M4では非対応となっています。

1000Xシリーズのヘッドホンの大きな魅力であるスマート機能は、新規に追加されたものを含めてますます充実しています。ヘッドホンを装着したユーザーが発話すると、自動で外音取り込みモードに切り換えて人の声を聞きやすくする「Speak to Chat(スピーク・トゥ・チャット)」のほか、ヘッドホンの装着検出や、スマホとPCなど2台までの機器とヘッドホンを同時に接続して、両方で音楽/通話プロファイルが使える「新マルチポイント接続」(発売後のアップデートで対応予定)などがあります。

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    ヘッドホンを装着したまま会話がしやすくなる「Speak to Chat」

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    Speak to Chatは声の検出感度を2段階、またはオートから選べる

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    Speak to Chatを自動解除するタイミングもアプリから指定できる

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    ヘッドホンの着脱を検知するセンサーがイヤーカップの中に組み込まれている

メガネの上からでも装着しやすい

それではWH-1000XM4の装着感やNC性能を、WH-1000XM3と比べながら試してみます。なおNC機能の効果、音質のインプレッションについては速報もしていますので、合わせてお読み下さい。

まずは実機を手に取ってみた感触から。やはり遠目には見分けが付かないほど、デザインはほぼそのまま踏襲されています。ソニーは手抜きをしているわけでなく、M4にはM3のパーツが流用されておらず、どれも1から起こしたものを使っているそうです。ただ個人的には「M4を着けている証」として、色味を少し変えてみてほしかったと思います。今後、カラーバリエーションの追加があれば歓迎されるのではないでしょうか。

装着感はM4でさらに向上した手応えがあります。イヤーパッドが耳の周囲にあたる接地面積が10%ほど拡大されているため、側圧が分散されて柔らかな着け心地になっています。いくつかのセンサーなどが増えているのに本体の重さはM3より1g軽く、254gとなっています。手に持って比べてみても違いはほとんどわかりません。

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    イヤーパッドは耳の周辺の接地面積が広がっている

筆者は、M4ではヘッドホンの密着感が高まっているように感じました。メガネとマスクを身に着けた上にヘッドホンを装着してもキツくないところが良いと思います。在宅ワークでビデオ会議にヘッドホンを使う場面でも、長時間着けていて痛くならないことは重要な評価ポイントになります。

使いこなしを極めたい、極上のノイキャン機能

NC機能は消音効果のキメが細かくなった印象を受けます。静寂の品質も上がり、透明度が増しているため、音楽再生にもより深くのめり込めます。

周囲の騒音をぐっと強く消し込むのではなく、バスなど自動車のエンジン音やエアコンのファンノイズ、人の声といった、音楽再生とハンズフリー通話に不要な音以外は「スッと聞こえなくする」ような、自然な消音感が1000Xシリーズの持ち味です。

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    右側のイヤーカップに手のひらで触れている間、外音取り込み機能がオンになる「クイックアテンション」も利用できる

だからこそ屋外で使う場合や、自宅で一人テレワークに勤しむ時には上手に「外音取り込み」を使って安全に、かつスムーズにヘッドホンを役立てたいものです。ユーザーの行動に合わせて自動的にノイズキャンセリングと外音取り込みのバランスを調節してくれる「アダプティブサウンドコントロール」は、ステータスが切り替わる際にチャイムが鳴ってしまうことが気になる方もいると思いますが、安全性を考えると有用な機能です。

最新バージョンの「Sony Headphones Connect」アプリ(以下、Headphones Connectアプリ)に搭載された、アダプティブサウンドコントロールの設定を「よく行く場所」ごとに登録できる機能も活用すると、切り替え忘れを防げると思います。なお、この新しい機能は「場所」をスポットからある程度エリアを広げて登録もできるので、「電車の乗り換えで、駅の中を歩く間だけ外音取り込みレベルを最大にして、低音は抑えめにする」といった使い方ができるのでおすすめです。

  • WH-1000XM4

    本体をコンパクトに折りたたんで収納できる専用ケース(左上)。航空機用アダプターやケーブルも一緒に収められる