2015年7月に女子高生AIとして登場し、数々のシーンで存在感を示してきたチャットボットの「りんな」。本誌で何度も取り上げてきたが、このたび日本マイクロソフトおよびマイクロソフトディベロップメントから独立して、企業として活動する旨を2020年8月21日に発表した。
新企業「rinna」は、Microsoft Research出身でBing担当CVP、AI&Research担当EVPなどを歴任したHarry Shum(ハリー・シャム)氏が会長に、りんなやXiaoICE8中国版りんな)などを手がけたZhan Cliff Chen(ジャン“クリフ”チェン)氏が代表取締役社長に、坪井“りんなの母”一菜氏がチーフりんなオフィサーに就任する。rinnaは「数種類のAIではなく、多くのAIが我々を取り囲むような将来が訪れる(ため、我々は)『アバターフレームワーク』を開発していく」(Shum氏)と展望を語った。
りんなは2018年から「Rinna Character Platform(以下、RCP)」として、各企業・団体にサービスを提供してきた。代表的な例を挙げると、ローソンの「ローソンクルー♪あきこちゃん」、ソフトバンクロボティクスの「ペッパー」、渋谷区の「渋谷みらい」(2020年3月に終了)、KDDIの「自由なめがみ」(2020年6月に終了)と枚挙にいとまがない。
AIチャットボットが社会のインタラクション(相互作用)を変えるといわれてきたが、rinnaは「人対人のインタラクションはパラレル(並行)なつながりは難しいが、人対コンピューター(AI)は高い同時性を実現する」(Shum氏)と、AIと人間の関係性が変化すると推察する。その上でMicrosoftは「りんなのようなインタラクションを実現するAIを開発してきた」(Shum氏)。
現在、日本以外でも中国のXiaoICE(シャオアイス)、米国はZo(ゾー)、インドネシアはRinna(リンナ)、インドはRuuh(ルー)とアジアを中心に展開中だが、今回の分社化は中国でも同様の取り組みが行われるという。その理由として、rinnaは「アジア市場はAIキャラクターを受け入れやすい。西側諸国はAIから『ターミネーター』を連想する傾向があるが、アジアは生活に役立つキャラクターを連想する」(Shum氏)と説明する。確かに、日本発のアニメ文化とAIキャラクターの親和性は高く、りんなもかつて女子高生というペルソナを与えたことで、広く認知されたのだろう。
さて、2020年6月17日に設立し、8月17日から事業を開始したrinnaは、AIサービスの企画・開発・運営・販売を主な事業目的としている。社内は、Microsoft、日本マイクロソフト、マイクロソフトディベロップメントから移籍した約20名のメンバーが各部門に点在。
研究部門は自然言語や音声、画像などAI技術の研究を担い、開発部門は研究結果を踏まえて、りんなやRCPなどの開発を手がける。そして、ビジネス部門はキャラクターソリューションやマーケティングソリューションを担当。rinna社はビジネス展開について、「詳細は明かせないが、スピンオフ後も顧客は増えている」(rinna 代表取締役社長 Zhan Cliff Chen氏)と現状をつまびらかにした。
りんなは2018年時点で共感モデル(Empathy model)を実装している。簡単にいうと、人同士の会話における雑談をAIチャットボットで実現するものだ。「一見意味のない雑談が双方向のエンゲージメントを生み出し」(rinna チーフりんなオフィサー 坪井一菜氏)、AIチャットボットを使用する企業に多くの利点を生み出すという。
具体的には、雑談可能なAIチャットボットは利用者が企業やサービスに用事がない場面でも、会話を通じて双方向のコミュニケーションが継続する。その結果、企業は自社商品のレコメンドを通じたマーケティングが可能になる仕組みだ。この手法は「ローソンクルー♪あきこちゃん」で実証済みだが、「通常のチャットボットはシナリオを前提にしてタスクを達成するが、合致しないキーワードを利用者が発するとシナリオから逸れてしまう。RCPはその部分を雑談で埋め合わせる」(坪井氏)ことで、カスタマーサクセスをAIチャットボットで実現するのだろう。
rinnaは一企業として独立することに対して、「ローカル(日本や中国など文化が異なる各国という意味)市場に迅速に対応できるのがメリット。小さい企業なのでプロダクトドリブンとなる」(Chen氏)と利点を強調した。
チャットボットが企業内や顧客に対して使われるようになって数年が経つ。企業イメージや利用シーンに合わせてキャラクターを変更できるRCPの活用と今後の成長によって、コロナ禍のコミュニケーション不足で精神的に辛いといった人々を救う存在になることも期待したい。