トータル飲料コンサルタントの友田晶子氏は、「クラフトビールは製造量が少なく個性が豊かという特徴がある。その観点では、日本のビールメーカーは国内では大手といえども世界的にみると製造量が少ないため、いずれもクラフトビール的といっていいかもしれない。『大手かクラフトか』という画一的な選び方ではなく、造り手の個性や思いなどで選ぶのがビールを楽しむコツだ」と話す。

本稿では、ビールとクラフトビールの違いから、日本のクラフトビールの誕生経緯などを友田氏より解説してもらう。

  • ビールとクラフトビールの違いは?

ビールとクラフトビールの違い

クラフトビールが人気だ。ビール好きはもとより、ビールが好きじゃない人でも、クラフトビールの存在は知っているし、気になる銘柄、よく見かける銘柄があるだろう。コンビニやスーパーでもカラフルなボトルや缶がずらり並び、気軽に手に取れるようにもなった。

では、通常のビールとクラフトビール、何が違うのか。

そもそも、クラフトビールの定義とはいったいどういうものなのか。人気はあれど、あいまいに思えるクラフトビール。その実態とともにそれを踏まえた楽しみ方を考察してみよう。

クラフトビールの量は「年間600万バレルまで」

「クラフト」とは、本来、美術用語で「手造り」「手工芸」という意味がある。「クラフトマン」とは職人や熟練工を指し、そこから派生した「クラフトマンシップ」とは、職人の技とか職工の心意気や気概、プライドなどを指す。また、近代の産業革命の技術革新で大量に生みだすことができるようになった品々に対して、昔ながらの伝統技術を身に付けた人の手によって生み出される手造りの手芸品、民芸品、工芸品、また、手造りの風合いをもたせた手工業による製品を指す言葉でもある。

そのことから、近代技術で大量に提供できる「大手ビール」に対する「クラフトビール」という言葉は、数は限られるが、昔ながら、あまたは独自の技術で生み出された個性ある手造り工芸ビールであることを示している。

日本で身近な、アサヒ、キリン、サッポロ、サントリー大手4社(オリオンビールを入れ5社)のビールは非常に高い技術で製造はされているが、「手造り」「手工芸」というイメージとは少々違う。

ビールとクラフトビール、量的な区別はある。例えば、クラフトビールの本家、アメリカのブルワーズ・アソシエーションによると、クラフトビールの定義は、「仕込みが小規模(年間600万バレルまで)で、伝統的(麦芽100%など)であること」のほか、「ビール以外の酒造メーカーにコントロールされず独立していること」となっている。※ただし、ブルワーズ・アソシエーションの定義はクラフト・ブルワーの定義で、過去その条件は何度か変更され、明確なクラフトビールの定義とは言えないともされる

また、全国地ビール醸造者協議会(JBA)では「クラフトビール」(地ビール)を以下のように定義している。

1.酒税法改正(1994年4月)以前から造られている大資本の大量生産のビールからは独立したビール造りを行っている。
2.1回の仕込単位(麦汁の製造量)が20キロリットル以下の小規模な仕込みで行い、ブルワー(醸造者)が目の届く製造を行っている。
3.伝統的な製法で製造しているか、あるいは地域の特産品などを原料とした個性あふれるビールを製造している。そして地域に根付いている。
※出典:全国地ビール醸造者協議会(JBA)サイト

「地ビール」にブレイクスルーが起きる

1994年の酒税法改正で、ビールの最低製造数量基準が2,000キロリットルから60キロリットルと大幅に引き下げられ、小規模で個性のあるビール造りが可能になった。このころ日本各地で雨後のたけのこ状態で出てきたのが「地ビール」だ。

当時はまだクラフトという表現はほぼなく、観光地の特長を生かした、町おこしを狙ったお土産ビールで、いわゆる「地酒」に相当する「地ビール」として売られていた。タイプは、ヴァイツェン(小麦を使った白ビール)、アンバー(琥珀)、ブラック(黒)、IPA(ホップの苦みが強い)などと豊富だが、その味わいは、大手ビールに慣れた日本のビールファンにはなかなか受け入れられなかったようだ。

しかし、この後のブレークスルーのなかで、世界で本物の地ビールを体験してきた造り手と飲み手が増え、本格技術を投入し、情熱をもってオリジナルビールを製造する、まさにクラフトマンシップで生み出されるビールがじわじわと人気を博してきた。

ブランドとして知られるのは、例えば、1995年には、地ビール販売開始第1号としてスタートし幾つかの変遷を繰り返し生き残ってきたエチゴビール(新潟)、六本木で創業したサンクトガーレン(現在、神奈川)、1996年から97年にはヤッホーブルーイング(長野)、coedoビール(埼玉)など、今や根強いファンを持つブランドが生まれている。

著者プロフィール:友田晶子(ともだ・あきこ)

トータル飲料コンサルタント
福井県出身。1988年、アンジェ大学、エクサン・プロヴァンス大学、ボルドーにて、語学とワイン醸造を学ぶ。翌年に帰国、田崎真也氏に師事、ソムリエ、ワイン・コンサルタントとして独立。1990年、「日本酒サービス研究会(SSI)」発足サポート(現同会役員)を経て、トータル飲料コンサルタントなる。現在、お酒でおもてなしができる人1,700名を率いるSAKE女(サケジョ)の会の代表理事。