最年少複数タイトル保持と最年少八段の記録を更新。2日目は異次元の攻めで木村王位を圧倒

藤井聡太棋聖がまたしても将棋界の歴史を塗り替えました。19・20日で行われた、第61期王位戦七番勝負(主催:新聞三社連合)第4局で木村一基王位を80手で破り、シリーズ4連勝。驚異的な強さを見せつけ、ストレートで王位のタイトルを奪取しました。この結果藤井棋聖は複数冠保持の記録と、八段昇段の最年少記録を更新しました。

相掛かりの将棋となった本局。1日目は木村王位が藤井棋聖の飛車を狙う積極的な指し回しを見せました。中段飛車の利きで藤井棋聖の飛車の退路を封じ、41手目▲8七銀と上がって飛車取りをかけます。この手が1日目の最終手。この手に対し、藤井棋聖はなかなか封じる意思を見せません。封じ手時刻の18時を過ぎても考え続け、封じたのは18時19分でした。

▲8七銀に対して考えられる指し手は2つ。1つは飛車を逃がす手、もう1つが飛車を切り飛ばす手です。無難な選択は前者ですが、今まで何度もアッと驚く鋭い攻めを見せてきた藤井棋聖です。飛車切りの強手を指すのではないか、とファンの期待は高まります。

そして本日9時。立会人の中田功八段が読み上げた封じ手は、△8七同飛成でした。やはり藤井棋聖は最強の手段で攻めていったのです。飛車を取った木村王位に対し、藤井棋聖は△3三角と打ちました。この角が厳しい一手。木村王位は▲5五角と打って角成りを防ぎましたが、この手を木村王位は局後真っ先に反省していました。「▲6六角のつもりで組み立てていたが、気が変わってしまった。▲5五角は予定変更」と木村王位。この手をきっかけに藤井棋聖の攻めが加速してしまいました。

大駒を使った派手な攻めがひと段落すると、藤井棋聖は今度は歩を使った小技で巧みに攻めを繋げます。まず金取りに歩を叩いて金を無力化し、△8八歩~△8九歩成で敵陣にと金を作ったのが好手順。このと金が縁の下の力持ちとして活躍します。まずと金の利きを生かして△7九角と王手をかけ、玉が逃げる手には△9九とで香を入手。その香で木村王位の飛車を串刺しにして、藤井棋聖が優位をさらに拡大しました。

追い詰められた木村王位は、桂と飛車を切って藤井玉に迫りますが、藤井棋聖の対応は的確。玉が四段目を単身遊泳する危険極まりない形になりながらも、木村王位側にあと一押しがないのを読み切っていました。

木村王位の攻めが止まってからは電光石火の寄せを披露。反撃に転じてから3手で木村王位を投了に追い込んでしまいました。16時59分、80手にて藤井棋聖が勝利を収めました。

一気の4連勝で王位を奪取した藤井棋聖。18歳1カ月での複数タイトル保持は、羽生善治九段が持つ21歳11カ月を大幅に更新する快挙です。また規定により八段に昇段し、こちらも加藤一二三九段の持つ18歳3カ月を更新する最年少八段記録です。この大記録達成にもあくまで冷静な藤井二冠。「(記録は)意識しなかったが、棋聖戦、王位戦の2つのタイトル戦に出ることができて、結果を残せたのは収穫だった。この経験を生かして頑張っていきたい」とクールに話しました。

若き天才に敗れてしまった遅咲きの苦労人木村王位。前期初タイトル獲得最年長記録の46歳3カ月で手にした虎の子の王位を1期で手放す結果になってしまいました。しかし、百折不撓が身上の木村王位らしく、終局直後のインタビューでは「ストレート負けは恥ずかしいが実力なので仕方ない。またやり直せということでしょう。1から出直します」と返答。捲土重来は間違いないでしょう。

藤井聡太二冠と木村一基九段の対決第一ラウンドは若武者に軍配が上がりましたが、これからも幾度となく名勝負を繰り広げてくれるはずです。その時が今から楽しみです。

終局直後、インタビューに答える藤井聡太二冠(提供:日本将棋連盟)
終局直後、インタビューに答える藤井聡太二冠(提供:日本将棋連盟)