マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、米国と中国の対立について語っていただきます。
米国と中国の対立は、世界のリーダーを自認してきた国と、米国に次ぐ世界第2位の経済大国とによる覇権争いの構図であり、簡単に解消されるものではありません。とりわけ、最近では全面対立の様相を呈してきました。
現時点で金融市場は静観を決め込んでいます。トランプ政権が過激なレトリックを用いつつも、貿易交渉で一定の成果を持って矛を収めたことなどが、ある程度の安心感につながっているのかもしれません。また、中国による為替操作(人民元安誘導)や米国債売却の兆候もみられません。とはいえ、両国の対立がさらに激化するなら、金融戦争にも発展して市場が大きく動揺する事態にいたる可能性も否定できません。常に注意は怠れません。
香港の政治弾圧
国家安全維持法(国安法)の制定など香港での政治弾圧に対して、米国が香港行政長官ら11人を制裁対象とし、中国がこれに報復して米上院議員ら11人を制裁対象としました。8月10日には、香港の活動家やメディア創始者が国安法違反の容疑で逮捕されました(のちに保釈)。本件は,民主主義の根幹に関わるだけに、米国のみならず、主要先進国が厳しい対応を求められるかもしれません。
TikTokとWeChat
トランプ大統領は8月6日、動画投稿アプリ「TikTok」と対話アプリ「WeChat」に関わる取引を禁止する大統領令に署名しました。国家安全保障上の脅威が理由です。大統領令は45日後に発効。米政府はそれまでに、若い世代に人気の高いTikTokの米国事業を米企業が買収するよう求めています。現時点でマイクロソフトが米政府と協議しているとの報道もあります。一方、WeChatは米国内ではそれほど一般的ではありませんが、主に米中間のビジネスで利用されているようです。もちろん、中国は米大統領令に強く反発しています。
米中貿易合意
今年1月に米中が合意した第1段階について、8月15日ごろに米国のライトハイザーUSTR代表と中国の劉鶴(リウ・ホー)副首相が中間評価の会合を持つようです。Bloombergによれば、今年前半の段階で中国は年間輸入目標の23%しか達成していないとのこと。米国からの圧力が強まる可能性があります。
8月10日、中国の駐米大使館は、「引き続き合意の第1段階を履行する」との易綱(イー・ガーン)人民銀行総裁のコメントをツイートしました。一方、トランプ大統領は、「コロナ」のパンデミック(感染拡大)に対する中国の責任を厳しく追及する姿勢をみせており、「コロナの結果、中国との第2段階の合意は全く考えられない」との旨の発言をしています。
スパイ疑惑、5G覇権、地政学的対立も
スパイ疑惑を巡って、7月下旬に米国がヒューストンの中国総領事館を閉鎖、2日後には中国が成都市の米国総領事館を閉鎖しました。また、同じ頃に米司法省は中国人ハッカー2人を起訴。米政府は中国からの留学生や研究員のビザを制限。他にも、米中はジャーナリストの滞在制限や入国規制などを行っています。
テクノロジーの面では、米国が5G通信から通信機器大手ファーウェイの排除を進めており、友好国にも同様の措置をとるように要請しています。8月13日、米政府は、ファーウェイなど中国企業5社の製品やサービスを使う企業が米政府と取引することを禁止する規則を施行しました。
上記以外にも、中国の新疆ウイグル地区の弾圧に対する米国の批判、中国の南シナ海での勢力拡大に対する米国の牽制、米国の台湾接近と中国の反発などなど、火種はいたる所にありそうです。