ソフトバンクグループは8月11日、2021年3月期 第1四半期 決算説明会をオンラインで実施しました。それによれば、当期純利益は約1.2兆円と大きく改善。登壇した代表取締役会長 兼 社長の孫正義氏は「昨年度は、第4四半期で創業以来最大の赤字を出しました。多くの方々に、ソフトバンクは大丈夫かとご心配をいただきました」と述べつつ、赤字の最大要因だった投資ファンドのソフトバンク・ビジョン・ファンド(以後、SVF)が、すでに黒字に反転回復していると報告しました。
先行き不透明ながら、着実に最悪の状況からは改善
ソフトバンクグループの今期の売上高は(前年同期比302億円減の)1兆4,501億円、当期純利益は(同1,340億円増の)1兆2,557億円。これについて、孫氏は「第1四半期の出だしとしては、まぁまぁ良い出来ではないでしょうか」と評価します。
その一方で、「投資会社となった我々にとって『売上高』や『当期純利益』に、どれほどの意味があるのか。私にとっては甚だ疑問です」と続けます。ルールなので、『売上高』や『当期純利益』は今後も公表するものの、『営業利益』については会計上の数値が意味を持たなくなったため、今後公表しない考えを明らかにしました。
昨年度の後半の業績に大きな悪影響をおよぼしたSVFですが、その累計投資成果についても報告がありました。
SVFでは86社に投資していますが、成功したのは29社。実現益0.7兆円+評価益1.1兆円=1.8兆円の利益が出ました。逆に投資に失敗し、株式価値が減少したのは48社で、マイナス1.6兆円を計上。差し引きで0.2兆円が投資利益になったと説明します。
さらに「まだ、新型コロナウイルスの第2波が終わっていません。したがって現時点で、SVFがこの先も黒字を継続できると判断するのは、時期尚早かもしれません。しかし着実に、最悪の状況からは改善しています」と孫氏。すでに上場を果たした企業が9社あることに加え、現在、少なくとも5~6社が新たに上場する準備に入っている、と付け加えました。
ところで、孫氏のプレゼンにはときどき、謎解き要素の高いスライドが登場します。この日は冒頭で、襲いかかる武田信玄の騎馬隊を迎え撃つ、織田信長の鉄砲隊の写真(イメージ)が登場しました。
孫子の兵法ではないですが、孫氏が説明するには、「信長が勝利できたポイントは、騎馬隊の足を止めた馬防柵にあった」とのこと。ここで話は現代に置き換わり、コロナ禍で人々が不安に襲われる時代においては、しっかり防御を固めながら鉄砲を撃っていくことが肝心だと説明します。そこでソフトバンクグループでは、先行きの不安をなくすべく、純負債を4.6兆円から3.0兆円まで減らしたと報告しました。
孫氏が、投資会社の物差しとしてイチバン大切にしているのが『株主価値』。この株主価値については「4か月で2.7兆円も増加し、24.4兆円になりました。ただ、ソフトバンクグループの時価総額は13兆円前後。そういった意味では、今でも株主価値に対してディスカウントがついている状態です」として、ソフトバンクの株式は安い(買い時である)、とアピールしました。
そして最後に「我々は上場以来、株主価値をコンスタントに増やし続けています。今後も株主価値の最大化を目指して、守りを固めながら運用していきます。もっとも、単なるマネーゲームのために会社をつくったわけではありません。あくまでも我々の理念は、情報革命で人々を幸せにすること」と改めて説明。今後も、情報革命を推進する企業家、リーダーたちを支援していきたい、と話していました。
孫氏、経営継続の意向? 「わしゃ現役だ」
プレゼンが終了したあとは、記者団の質問に対して孫氏が回答しました。
営業利益の数字を公表しない方針を固めたことについて、改めて理由を聞かれると「投資会社として、アリババやウーバー(Uber)などに投資しています。そうした企業の株の価値が増減することで、我々の営業利益が増減している状況。それは営業利益と言えるのでしょうか。あくまで投資会社なので、売上、営業利益といった物差しはそぐわない」と説明します。
また、この日のプレゼンでは、投資運用子会社の設立も発表されました。流動性の高い上場株、例えばアマゾン、アップル、フェイスブックなどIT関連会社の30銘柄くらいを対象に運用していく方針です。
これについて、(SVFによる)未上場株の投資だけでは難しくなったのか、企業戦略の軌道修正か、と聞かれると「ユニコーンハンティング、という基本的な戦略は何も変わりません。SVFは2、3と継続していきたい。投資運用子会社では上場株を取り扱うということで、株の購入や売却を現金に近い感覚で実施できる。非常に流動性があり、銀行預金と変わらないような形で、自由に現金化できることを確認しました」とメリットを説明します。
そして「中・長期の情報革命を推し進めるAIの中心カンパニーの銘柄を対象に、できるだけ情報革命の分野にしぼって投資していく。我々の詳しい分野ですし、そこに理念を持っているので、そこに集中していきたい」と話していました。
英アーム(ARM)のビジネスモデルについて聞かれると「ARMの売上と利益に最も貢献しているのは、スマホ向けチップです。この数年間でスマホが人々に行き渡り、出荷数も減少傾向になりました。最近では、単価の安いIoT向けチップの出荷数が増えています。今後、売られ始める5G端末のチップは1個あたりの単価が高く、利益に対する貢献も大きい。また、Ver.9世代のARM製チップの設計も始まっています。セキュリティ、AI機能が強化されており、コンピューティングパワーが強力になる。そこで高収益が見込めます」と解説するとともに、「ARMのもうひとつの成長ドライバーはクラウドに関するもので、代表的な例はアマゾンのAWS。これがARMのチップに依拠した設計に変わり始めました。競合他社も刺激を受けています」と述べます。
このARM株について、売却もあり得るのか、という質問には「交渉相手の企業名はノーコメントですが、現在、交渉を行っているのは事実。いくつかの選択肢があります。すべてを現金化するのではなく、対価についてはミックスで考えている。一部売却も選択肢のひとつ、合併も選択肢としてあり得る。株式を持ち続け、継続的にビジョンを追求していく可能性もある」との見方を示しました。
そして、この日、63歳の誕生日を迎えたという孫氏。19歳のときに描いた事業家のビジョンについて聞かれると「人生50か年計画で、60代のどこかで引退する、としていました。その頃になったら、健康に自信がなくなって引退するかも、と思っていた。でも、現代はあの頃よりも医学がはるかに進歩していて、人の平均寿命も伸びている。ゴルフに行っても、昨年などは1年で3回もパープレイができた。まだまだ、わしゃ現役だ、とも思った。そういうわけで、もう少し、経営を続行する可能性もあります」と孫氏。いまのうちに発言の修正をしておきたい、と笑顔を見せていました。