渡辺明二冠を最新形の「耀龍四間飛車」で破って、13年ぶりに王座戦五番勝負に進出
永瀬拓矢王座(叡王)への挑戦権を懸けた、第68期王座戦挑戦者決定戦(主催:日本経済新聞社)の▲渡辺明二冠-△久保利明九段戦が8月3日に東京・将棋会館で行われました。結果は122手で久保九段の勝利。13年ぶりに王座戦五番勝負の舞台に登場です。
振り駒で後手番になった久保九段は四間飛車を採用します。一方の渡辺二冠は、左美濃から銀冠に組み換えて玉を固めました。振り飛車には穴熊、というのがこれまでのセオリーでしたが、近年では振り飛車に様々な工夫があり、かつてほど簡単に穴熊には組めなくなっています。渡辺二冠が穴熊を採用しなかったのも、新型振り飛車を警戒したためでしょう。
これまでの振り飛車の囲いは、ほぼ美濃囲いと穴熊の2つだけでした。ところが最近では新たな組み合わせが登場しています。代表的な例の1つは、従来居飛車側の囲いだったミレニアム囲いを振り飛車が用いるというもの。そして、もう1つが本局で久保九段が採用した、金無双にするというものです。この構えは大橋貴洸六段によって「耀龍四間飛車」と名付けられています。ちなみに久保九段はその大橋六段を準決勝で破っています。
あと一手で「耀龍四間飛車」の布陣が完成するというところで、渡辺二冠が戦端を開きます。仕掛けた場所はなんと自玉のすぐそばの端でした。相手に端を突きこされていたのを逆用し、銀冠を崩して逆襲。久保九段も強気に応戦して、渡辺二冠の玉付近で激しい戦いが起こりました。
先に優位に立ったのは久保九段。鋭い攻めで渡辺二冠の玉を土俵際まで追い詰めます。しかし、渡辺二冠は正確な受けでギリギリのところで踏みとどまりました。絶体絶命に見えた玉がみるみるうちに固くなっていき、いつしか穴熊が完成。久保九段の攻めは息切れになり、今度は渡辺二冠がリードを奪いました。
ところがここで簡単に折れてしまわないのが久保九段です。今まで攻め続けていたのとは一転、自陣に手を入れます。渡辺二冠が待望の飛車の活用を果たす間に、久保九段も端から攻めを再開。両者ともに成駒が玉付近に迫る、難解な局面を迎えます。そこで渡辺二冠が踏み込みを欠いたようで、再び久保九段が優勢になったようです。
渡辺二冠は竜を作ったあと、豊富な持ち駒を使って久保玉を攻め立てますが、久保九段の受けは正確でした。渡辺二冠は一気の攻めを諦め、竜を自陣に引いて粘りに行きます。しかし、久保九段の鋭い攻めが粘りを許しませんでした。最後は渡辺玉を即詰みに打ち取って勝利を収めました。
激戦を制した久保九段は第55期以来、3度目の王座戦五番勝負へ進出となりました。タイトル戦登場も2018年度の第68期王将戦以来約1年半ぶりです。現在のタイトル保持者は豊島将之竜王・名人や渡辺二冠、永瀬二冠、木村一基王位、藤井聡太棋聖。彼らは皆居飛車党で、久しぶりにタイトル戦の舞台で振り飛車が見られることになります。振り飛車党総裁の久保九段が振り飛車でどのような活躍を見せてくれるのか、注目の五番勝負は9月3日に神奈川県「元湯 陣屋」で開幕します。