外為どっとコム総合研究所の神田卓也氏が2020年7月の為替相場レビューと、今後注目の経済指標やイベントをもとにした今後の相場展望をお届けする。

【ドル/円 7月の推移】

7月のドル/円相場は104.185~108.160円のレンジで推移し、月間の終値ベースでは約1.8%下落(ドル安・円高)した。新型コロナウイルスを巡り、米国南西部を中心に感染が再拡大した一方、各国でワクチンや治療薬の開発が進むなど、不安と期待が交錯。不安が高まる場面ではドルと円が他通貨に対していずれも強含んだ一方、期待が高まるとドルも円も弱含んだため、上中旬は方向感が出なかった。

潮目が変わったのは欧州連合(EU)首脳会議が総額7,500億ユーロの復興基金の創設に合意した21日以降。ユーロが騰勢を強めたことや、米新規失業保険申請件数の高止まりをきっかけに景気先行き不透明感が増したこと、米連邦公開市場委員会(FOMC)が極めてハト派的な姿勢を改めて示したことなどからドルが全面安となった。ドル/円は28日に節目の105.00円を割り込むと30日には3月12日以来の安値となる104.19円前後まで下値を切り下げた。ただ、31日には投機筋のポジション調整と見られる動きなどから大きく反発して105.90円台で7月の取引を終えた。

【8月の見通し】

例年、8月はドル安・円高になりやすいという季節性=アノマリーがある。特に前半は日本のお盆休暇に向けて輸出企業が前倒しでドル売り・円買いに動くとの観測などから円が買われる傾向が目立つ。15日前後の米国債の大型償還・利払いも本邦機関投資家によるドル売り・円買いの思惑に繋がりやすい。実際に、2016年以降昨年までの4年間は8月前半にドル/円が下落しており、後半はやや反発するものの戻しきれずに終わっている。この8月も前半を中心にドル安・円高への警戒が必要となりそうだ。

ただ、今年は7月にドル安・円高が進んでいただけに、円高余地はそれほど大きくないかもしれない。7月31日のドル/円の大幅反発からも104円台の底堅さが窺える。また、8月3日にはセブン&アイ・ホールディングスが米コンビニ業界3位の企業を210億ドルで買収することが発表されており、買収資金手当てに向けたドル買い・円売りの観測も今後浮上しそうだ。心理的節目の105.00円を再び割り込むことなく「円高の夏」を乗り切れば、秋から冬にかけてのドル高アノマリーへの期待が高まろう。

もっとも、8月は円高アノマリーとは別に、市場がショック商状(=円高)に見舞われやすいことでも知られている。2015年8月の中国株の急落を引き金とする「チャイナ・ショック」などが代表例だ。夏休みシーズンで取引に厚みがなくなるため、ショック商状が多方面に飛び火しやすいという面もあるのだろう。今年は、世界で新型コロナウイルスの感染が再拡大しており、香港問題を起点に米中の対立も激化している。ショックの火種はくすぶっているだけに、ドル/円が再度105円を割り込むリスクにも一定の警戒が必要となりそうだ。