日産自動車が日本市場の新たな主力商品と位置づけるコンパクトSUV「キックス」。同社独自の電動パワートレイン「e-POWER」を搭載するモデルのみの設定で、エントリーグレードとしてのガソリンエンジン搭載車は用意しないという思い切ったラインアップだが、発売から1カ月で受注1万台超と出足は好調な様子だ。このクルマ、いったいどんな人たちが購入しているのだろうか。
グレードは事実上1種類
キックスは日産にとって、日本市場で10年ぶりに投入する「ブランニューモデル」(同社の星野朝子副社長)だ。キックス自体は2016年にブラジルで発売し、その後はメキシコ、中東、中国などで販売してきたクルマだが、日本投入にあたり大規模な新規開発を行った。日本で買える日産のコンパクトSUVという意味では、「ジューク」の後継モデルとしての役割を持ったクルマでもある。
キックスには「X」と「X ツートーンインテリアエディション」という2つのグレードがあるが、その名前から分かる通り後者は内装を2トーンにした仕様なので、選べるグレードは事実上、1種類しかない。価格は前者が275万9,900円、後者が286万9,900円だ。
このクルマのマーケティングを担当している日産 日本マーケティング本部の小木曽宏行さんによると、キックスの受注台数は発売から1カ月の時点で1万台を超えているとのこと。発売から3週間の時点における構成としては、ツートーンインテリアエディションを選択したユーザーの割合は約4割だったという。
キックス購入者の内訳をみると、2つのグループが目立つそう。1つは20~30代で、軽自動車やハッチバックなどからステップアップする形で乗り換えるグループ。もう1つは「ポストファミリー」、つまり、子供が独立したのを機にミニバンなどのクルマからダウンサイズする格好で買い換えるグループだ。ちなみに、ジュークの後継モデル的な立ち位置のキックスではあるが、キックス購入者が下取りに出すクルマに占めるジュークの割合は現時点で必ずしも高くないらしい。
廉価版の発売予定は?
コンパクトSUVは世界的に市場が拡大している人気のセグメント。キックスのライバルはトヨタ自動車「C-HR」、ホンダ「ヴェゼル」、マツダ「CX-30」とすでに多彩で、今後はトヨタ「ヤリスクロス」やマツダ「MX-30」(マイルドハイブリッドモデル)などが発売を控えている。
激戦のコンパクトSUV市場で戦うため、日産がキックスに低価格バージョンを用意する可能性はあるのだろうか。例えばC-HRは、ガソリンエンジン搭載モデルが236万7,000円から、ハイブリッドモデルが273万円からという価格設定になっている。キックスにエントリーモデルとしてのガソリンエンジンモデルがあれば、もっと販売台数を伸ばせるような気もする。
そんな疑問に小木曽さんは、「スタートプライスが高いという声があるのは承知していますが……」と前置きしたうえで、「日本はe-POWERでいきたいと思っています」と続けた。「リーフ」でEVの市場を切り拓き、今後もEVのリーダー的なポジションを狙っていきたい日産としては、「クルマの電動化」の過渡期である今だからこそ、EVのような走りが味わえる「e-POWER」というパワートレインの普及を目指していきたいのだろう。クルマの大部分がEVとなる前に、e-POWERで電気の走りに慣れておいてもらおうといった感じだ。それに、コンパクトSUVを購入する消費者の約7割はハイブリッドを選ぶそうだから、ガソリンエンジン車を用意していないがゆえに逃してしまう顧客の数は、そんなに多くないとの読みもあるのかもしれない。