カシオ計算機は7月31日、2021年3月期・第1四半期の決算概要についてオンラインで発表会を実施。新型コロナウイルスによる影響をはじめ、時計事業の中国における成功事例や楽器事業の堅調な推移、アフターコロナの世界を見すえた2021年3月期の業績見通しについても説明した。
コロナ禍の影響大きく
発表によれば、カシオ計算機の2021年3月期・第1四半期の損益状況は売上高400億円となった。対前年比61%(▲261億円)にあたる。営業利益は▲12億円(対前年▲87億円)で、経常利益は▲11億円(対前年▲81億円)となった。
事業別では、営業利益率が11%ともっとも高い時計事業においても、売上高は222億円、増収率は44%となった。依然として猛威を振るう新型コロナウイルス感染症による国内の緊急事態宣言(2020年4月7日~5月6日)や、海外都市のロックダウンといった影響が大きく数字に表れた形だ。
カシオ計算機 執行役員 広報・IR担当の田村誠治氏は「今期もコロナ禍の影響が続くと仮定」したうえで、これからの取り組みを説明。「アフターコロナで一変する市場環境に対応する持続的価値創造企業として、今期は商品、事業構造、ビジネスモデルすべての組み直しを行う」とし、「高収益体質の基盤を今期中に必ず確立する」と宣言した。
これにより「来期(2022年3月期)の事業計画として、2,800億円の売上高、320億円の営業利益」(田村氏)を想定値として見込む。
中国市場を席捲するG-SHOCKの戦略
続いて事業概況について説明。主力商品「G-SHOCK」を持つ時計事業については、中国における成功事例を田村氏が紹介。まず「中国の時計事業は非常に好調に推移している」とし、そのポイントを「オンライン販売とオフライン(実店舗)販売の新しい適正バランスを作り出した」点にあると強調。オンライン55%、オフライン45%ほどの販売バランスとなるよう「数年前から先の市場変化を予測して手を打っていた」と語った。
また、実店舗におけるイベントなども「集客型の大規模イベントから、ユーザーに寄り添った小規模イベントを多数行う形に切り替えた」といい、「3月ごろから中国の主要ショッピングモールと商談を重ねることで、それらショッピングモールのアプリで集客をかけ、また実際の店舗に足を運ばなくとも、アプリから購入する環境を構築できた」とした。
一方、オンライン販売についても「数年前から中国のイーコマースとSNS活用を積極的に進めており、2020年9月には『京東商城(JD.com)』(※1)のスーパーブランドデーのタイアップ企業を獲得、2019年に比べ桁違いの露出量が期待できる」と語った。田村氏は続ける。
田村氏「G-SHOCKの動画コンテンツ配信に加え、消費者体験企画などで新たなG-SHOCKファンの増加を図りながら、11月11日『中国独身の日』(※2)に向けた準備を現在進めており、これらを視野に第2四半期では対前年比約145%を見込んでいます。なお、このようにオンラインとオフラインの双方で成功している企業はカシオ計算機だけ、という業界の高い評価もいただいています」
※1:ジンドン。中国第2位の規模を持つネットショッピングモール
※2:光棍節ともいう。独身者が集まってパーティーを開いたり、婚活をするなど様々なイベントが開かれる。買い物や贈り物をする日としても知られ、最近はECサイトが最高売り上げを更新することで話題になることも多い。
カシオでは、中国での成功事例を今後成長が見込まれるアジア新興国地域に横展開して、成長ドライバー市場への波及効果を狙う計画だ。時計事業ではこのほか、販売が好調なG-SHOCKのスポーツライン「G-SQUAD」による健康志向ユーザーへの新たな価値提供を図っていくことも発表された。
楽器事業好調の背景は
コロナ禍による巣ごもり需要で、楽器事業も好調だ。背景には「きわめて競争力の高い商品開発に成功している点がある」と田村氏は言う。
田村氏「2年ほど前から楽器の構造改革に本格的に着手しました。新しい音源の開発であったり、設計の見直しなど、さまざまな改革を進めてきました。世界最短奥行きの非常にスタイリッシュなデザイン、かつグランドピアノを感じさせる鍵盤タッチ、美しい音色の実現といったように、高い競争力のある商品が生まれました(編注:電子ピアノ、Privia PX-S1000 / S3000)。これが今回のコロナ禍でビギナーから経験者まで需要を再び取り込むことに成功したと思っています」
電子ピアノのスリム&スマートモデルは現在、カシオの楽器事業で約40%の規模を占めるという。このほか、自社ECサイトへの注力化や構造改革推進などへの言及もあったが、すでに発表済みの内容と大きく変わらないため、ここでは割愛する。
2021年3月期・通期の業績見通しとして田村氏は「6月から7月にかけて対前年比で上昇の傾向が見られるものの、新型コロナウイルスの第二波の可能性も高く、やや保守的な数値」としつつ、第2四半期、および下期の売上高を前年の約75%水準で推移するものと想定。金額としては上期で1,000億円(前年比69%)、通期で2,200億円(前年比78%)とした。