電流センスアンプに関する考慮事項
専用の電流センスアンプは考慮すべき特別なケースです。電流センスアンプの多くは、オン・セミコンダクターの「NCS210R」のように、入力電圧を電源電圧より高くできる特別なアーキテクチャを備えています。これは多くのアプリケーションにとってである一方、数十マイクロアンペア単位の高い入力電流を引き込む必要があり、前述の理由から外付け入力抵抗の影響を特に受けやすくなります。
これを図6に図示しており、拡張コモンモード範囲を可能にする「追加回路」により、赤色の文字で記した大きな入力バイアス電流が発生します。大きな外付け抵抗を追加すると、入力バイアス電流によって各抵抗の両端に高い電圧が発生することになります。
このアーキテクチャでは、入力バイアス電流は外付け抵抗にのみ影響を与えます。内部抵抗R1とR3にはIIBは流れません。差動アンプの標準的なゲイン計算式では、外付け抵抗と内部抵抗に流れる電流が同一であると仮定しているため、ゲインは意図した値から若干ずれます。そのため、標準的な計算式は、次式で「近似的に等しい」の記号で表しているように、結果として得られるゲインの近似式にしかなりません。
また、外付け抵抗により、内部ゲイン抵抗の精密な比の一致による高いゲインの精度も損われます。このタイプの電流センスアンプのアーキテクチャでは、抵抗の絶対精度ではなく、内部抵抗の比によってゲインを設定しています。たとえすべての内部抵抗が公称値から+10%ずれていたとしても、比が一致していれば、ゲインはデータシートのゲイン誤差±1%という仕様の範囲内に収まることになります。外付け抵抗は、たとえ高精度であっても、完全な比の一致を狂わせる可能性があります。これは前の段落で説明したように、入力抵抗を追加すると実際に悪影響を及ぼし、抵抗比の不一致とIIBによるゲイン誤差が生じる可能性があることを意味しています。その上、以下の例で説明するように、IOSによってさらにオフセット電圧誤差が発生します。
オン・セミコンダクターのアプリケーションエンジニアは、電流センス回路を意図したとおり動作させるのに苦労している顧客に出会うことがあります。実際の事例の1つでは、エンジニアである顧客は、ハイサイド電流センス回路のNCS210Rの入力に1kΩ抵抗を直列に挿入して電流センスアンプのゲインを設定しようと考えていました。その回路図を図7に示します。その結果、簡潔にするために理想抵抗と標準ゲイン計算式を仮定すると、調整後ゲインは、NCS210の標準ゲインである200V/Vではなく167V/Vでした。
外付け抵抗を追加すると、IOSが内部オフセット電圧VOSをも上回る重大な影響を及ぼします。NCS210Rには、データシートに記載されているように、IOS = 0.1μA(標準値)の入力オフセット電流があるため、アンプの入力で1kΩ × ±0.1μA = ±100μV(標準値)の誤差が付加されます。この場合、標準的な入力オフセット電流によって、製品のデータシートに記載されているVOS = ±35μVの最大入力オフセット電圧よりもさらに大きな入力オフセットが発生します。これらの入力オフセット電圧はともに、基本的にゲイン倍されて出力に誤差として付加されます。
この顧客はVOSによる±6mVの出力誤差を予測していたかもしれませんが、IOSによってさらに少なくとも±17mVの出力誤差が付加されるという事実を見落としていました。IOSがデータシートに記載されている標準値よりも大きい場合、この誤差はさらに大きくなります。
この顧客の問題の解決策は、かなり簡単なものでした。NCS210Rの200V/Vという標準ゲインがアプリケーションにとって高すぎる場合、このアンプの100V/Vバージョン(NCS214R)を外付け抵抗をまったく追加しないで使用する必要があります。こうすることによって、IOSによるあらゆる誤差がなくなります。出力の電圧を同一に維持するために、状況に応じてセンス抵抗値を増やす必要がありますが、こうすることによって入力オフセット電圧による全体的な誤差も低減できます。この場合のトレードオフは、センス抵抗値を大きくすると、センス抵抗での損失が多少増加することです。
このアーキテクチャを持つ電流センスアンプを使用するときの留意点は、電流センスアンプに外付け抵抗を追加しない限り、固有のIIBとIOSは有害な影響を及ぼさないということです。
高精度オペアンプに関する考慮事項
集積化電流センスアンプでは容易に得られない特殊なゲイン値を必要とする電流センスアプリケーションの場合、ソリューションの1つがオン・セミコンダクターの「NCS21911」などの高精度オペアンプです。電流センス機能を実行するために、高精度オペアンプを外付けゲインネットワークを備えた差動アンプとして実装することができます。この方法では、必要なゲイン精度とCMRRを確立するために、ゲインネットワーク抵抗を十分に整合させることが課題となります。必要な高精度整合抵抗は高価になる場合があります。しかし、このソリューションを用いると、きわめて特殊なゲインを必要とするアプリケーションにおいて、入力バイアス電流により生じる誤差を低減できる可能性があります。
高精度アンプでは、入力バイアス電流が独自の挙動を示す可能性があることに注意してください。高精度アンプによく使用されるゼロドリフトアーキテクチャは、周期的に入力をサンプリングし、それを補正することによって実現されます。そのため、コンデンサとスイッチでの電荷注入とクロックフィードスルーにより、入力に電流スパイクが発生します。データシートに記載されているIIBは平均化されたDC値ですが、電流スパイクが存在します。この場合、非常に大きな外付け入力抵抗を使用することは推奨できません。必要に応じて、チョッピング周波数より低いカットオフ周波数を持つ単純なRCフィルタを追加すれば、電圧スパイクを最小限に抑えることができます。この挙動のため、ゼロドリフトアンプをトランスインピーダンスアンプとして使用することはできません。
しかし、ゼロドリフトアンプは、これからも電流センスアプリケーション向けの信頼性の高い選択肢となります。
まとめ
大部分のアプリケーションでは通常、入力バイアス電流は重要なパラメータとは考えられていません。それでも特定の状況において性能に重大な影響を及ぼすため、設計を成功させる上で入力バイアス電流の知識が大いに役立ちます。回路設計者は、入力バイアス電流が入力オフセット電圧の増加に及ぼす要因を把握すれば、高精度アプリケーションで最高精度を実現する方法を会得できます。
著者プロフィール
Farhana SarderON Semiconductor
Application Engineer
Linear Power & Amplifier Business Unit, Power Solutions Group