この夏、アニソンシンガー・鈴木このみがアツい。7月から3カ月連続でリリースされるシングルは、いずれも夏クール放送のTVアニメ主題歌に起用されている。そのうち本稿では、7月29日に発売されるTVアニメ『デカダンス』OPテーマ「Theater of Life」にクローズアップ。

  • 鈴木このみ。1996年11月5日生まれ、大阪府出身。全日本アニソングランプリで優勝、畑亜貴リリックプロデュース「CHOIR JAIL」で15歳でデビュー。以降、数多くのTVアニメ主題歌を担当している
    撮影:稲澤朝博

本シングルの制作秘話や、春に開催を予定していた「鈴木このみ 6th Live Tour ~Unveil~」の延期、その後の無観客配信ライブ開催など、現在の心境を率直に語ってもらった。

●ツアー延期を乗り越えるきっかけになった、ファンからの声

――この春に開催予定だったツアーは延期となり、かわりに「Unveil “ZERO”」として配信ライブを開催することとなりました(※7月19日開催、取材時は開催前)。気持ちの面では、切り替えはすぐにできましたか?

いや、最初は本当にショックで……自分の活動の中でいちばん力を入れてやっているツアーをお届けできなくなったことが、とても心苦しかったです。ファンのみんなが、「楽しみ」と言ってくれているのも知っていたので。

「みんなに元気でいてもらうことが一番」ということで、こういう判断をさせてもらったんですけど、ライブに向けて既にやりたいことも決まっていた状態だったというのもあって、しばらくショックな気持ちを引きずりました。ですが、無観客でもフルバンドで2時間ライブをさせてもらえるということで、今は完全にプラスなマインドになっています。

――プラスに切り替えられた、要因は何だったんでしょう?

「Unveil “ZERO”」を発表したとき、海外の方を含め、遠くに住んでいて東名阪のライブには来られないという方々から「今回初めて観られるので、嬉しいです」というコメントをいただけたことですね。そのおかげで、「もしかしたら、今まで以上にたくさんの人に観ていただけるチャンスになるのかも」というポジティブになりました。あと、「ライブやりたい欲」が上がりすぎて、「どこでもいいから歌いたい!」みたいな気持ちもあって(笑)。

――本業のアウトプットができない状態でしたからね。

そうなんですよね。しかも、シングルが3枚出来たので、「早くこれ、ライブでやりたい!」という気持ちにどんどんなっていきました。本当に、今は届けられること自体がすごく嬉しいです。

――その3枚のシングルのうち、1枚目としてリリースされるのが「Theater of Life」です。まず『デカダンス』1話での使われ方がアツかったですよね。

いや、あの流し方はズルいですよね!(笑)。戦闘が盛り上がるシーンでOPテーマを流していただいて、ちょっと武者震いをしましたし、映像がついて、楽曲がより生き生きとしたように感じました。映像のクオリティが素晴らしいので、それもあって歌がより輝いていて、すごく感動しましたね。

――使われ方もですし、物語として謎も残したなかでこの歌詞とのハマりもよくて。1話を観る前と後だけでも、聴こえ方が全く違ったように感じました。

この曲は主人公であるナツメの想いを歌ったものですけど、ナツメはスタンスが変わらないというか、自分の芯みたいなものを持っている子なので、1話を観ただけでも、すぐにこの歌詞の意味が理解できると思います。2話以降でガラッと印象が変わる作品ですけど、それでこんがらがることはなくて。あくまでも、一本軸になっているのは人間ドラマ。「こういう世の中でどう生きていくのか」を問われている作品だなと私は思っています。

●速い楽曲にストーリーをもたせるため、心がけたのは普段以上のメリハリ

――楽曲としては非常にアグレッシブなロックナンバーですが、歌声は強さ一辺倒ではなく、随所で柔らかさのようなものも感じました。

この曲の魅力は、「かっこいいだけで終わらない」だと思うんですよ。最初に聴いたときにパッと浮かぶ言葉は”爽快感”や”疾走感”。それこそ、照りつける日差しに青空と荒野……まさに『デカダンス』の風景が最初に思い浮かぶ楽曲なんですけど、その中に不器用だったり遠回りしたりするような人間らしい泥臭さというスパイスがある。それが肝になっているように感じたので、すごく大事にして歌いました。

――おそらくそれは、作品自体の魅力ともガッチリリンクする部分だと思います。

はい。不器用な主人公が描かれているので、より身近に感じていただけるとも思いますし、自分自身ともリンクする部分がたくさんあるのを感じながら歌った曲でもあるんですよ。

――どんな部分で、そう感じられましたか?

この曲には『デカダンス』の「サイボーグに支配された世界の中で、主人公が自分で自分の生き方を決める」というテーマが反映されていると思うんですけど、私自身もこの8年間自分でいろんな選択をしてきたというところでしょうか。

もちろんそのなかでは大きなミスをすることもたくさんあったんですけど、その経験があったから今があると思っていて。もちろんかっこいいのはいいことなんです。それだけじゃなくて。転びながら必死でやってきたけど、それが”生きている”という実感につながっていて、すごく気持ちいいんだよね……っていうところにゴールできたんじゃないかなと思います。

――なるほど。これまでの鈴木さんの歩みも歌い方に反映されている。柔らかく聴こえる部分も強さ際立つ部分も併せ持ったものになっているんですね。

そのあたりは、結構意識しました。あと、単純にリズムが速いので、油断すると一瞬で終わる曲みたいな感じになっちゃうんです(笑)。なので、そのなかでストーリーを作っていけるよう、歌の技術的にも差し引きはすごく意識しましたね。ボーカルディレクションはこの曲を作ってくださったANCHORさんにしていただいたんですけど、やっぱりメリハリをいちばん気にされていて。例えば「Aメロはサビに向けてちょっと抑えよう、みたいに提案していただいて、いつもよりはメリハリ濃いめになるように工夫をこらしました。