日本テレビ系ドキュメンタリー番組『NNNドキュメント’20』(毎週日曜24:55~)が「日本記者クラブ賞特別賞」を受賞し、29日、テレビ岩手報道制作局シニア・報道主幹兼コンテンツ戦略室長の遠藤隆氏が記念講演を行った。

19年公開の映画『山懐に抱かれて』のポスターを背にインタビューに応じるテレビ岩手の遠藤隆氏=同局提供

1970年に放送を開始し、今年で50周年を迎えた同番組。「社会派ドキュメンタリー番組を50年間も継続させることは、放送界の常識を超える偉業」「番組の歩み自体が戦後日本社会の歴史を網羅的に記録した貴重な映像アーカイブとなっており、今後の研究や教育にも活用できる」「地方発のドキュメンタリー番組が毎週全国放送される意義も大きく、現場の意欲と制作力の向上にも貢献」と評価され、今回の受賞となった。

遠藤氏は、これまで『NNNドキュメント』で41本を制作。酪農一家を25年取材し続けた「ガンコ親父」シリーズは計4作を同枠で放送し、昨年には『山懐に抱かれて』として映画化された。

今回の記念講演について、遠藤氏は「『NNNドキュメント』全体をプロデュースし、ラインナップしているのは、もちろん日本テレビです。しかし、『NNNドキュメント』は系列局のみんなで作っている番組だということで、ローカル局の私に講演させようということになったそうです」と経緯を説明。

その上で、「ここに『NNNドキュメント』の基本姿勢の1つが表れていると思います。制作する主人公は、NNN系列局みんなだという考え方です」と強調し、「全国津々浦々の情報を番組化しようとする姿勢が鮮明で、キー局の日本テレビが、ローカル局をもり立てています。私はドキュメントデビューのときから、そのことを身を持って感じてきました」と振り返った。

番組がスタートして10年以上経った80年代半ばになっても、まだ『NNNドキュメント』の単独制作の経験がない“空白区”があったといい、当時はその解消が大きな目標だったそう。テレビ岩手も“空白区”の1局で、「『NNNドキュメント』の落ちこぼれでした」と回想する。

そんな中で遠藤氏は、87年にALS(筋萎縮性側索硬化症)でわずかに動く足の指で絵を描き続ける主婦のストーリーで念願のデビューを果たすことに。しかし、制作のノウハウがなかったため、VTRを日テレに送ると、“編集の鬼”と言われた担当者が岩手に乗り込んできて、手取り足取り指導してもらうことになった。

こうして、ようやく放送にこぎつけたというエピソードを明かし、「『NNNドキュメント』の素晴らしい伝統は、日本テレビが縁の下の力持ちになって、系列局のレベルアップを図ってきたことだと思います」と良作を生む背景を紹介。ほかにも、年に2回開催され、互いの企画を検討しあう「ドキュメント会議」も、重要な場として機能していることを説明した。

遠藤氏はまた、「誇りに思うこと」として、「日本テレビが上にいてローカル局が下ではなく、本当に対等な関係なんです」と力説。「今月も『ふたりの旅路』のという番組を作ったんですけど、日本テレビのチーフプロデューサーの有田(泰紀)さんは非常に良く見ていただいて、私より10歳以上若いんですが、こちらが気づかないことも率直に言っていただける。こういう民主的な話し合いができている限り、ネット社会になっても生き残っていけるのではないかと思います」と胸を張った。

  • テレビ岩手が長年にわたり密着してきた山地酪農家・吉塚さん一家=同