渡辺二冠は成績を2勝2敗とし、豊島名人に追いついた

豊島将之名人(竜王)に渡辺明二冠が挑戦する、第78期名人戦七番勝負第4局(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)が7月27・28日に東京都「ホテル椿山荘東京」で行われました。矢倉脇システムの将棋となった本局を制したのは渡辺二冠。対戦成績を2勝2敗としています。

先手番の渡辺二冠は今シリーズ初の矢倉を採用しました。棋聖戦五番勝負の第2、4局で採用した急戦調の将棋ではなく、じっくりと囲い合う脇システムを選択。渡辺二冠の細かな工夫により、前例の少ない将棋となりました。

端の関係、玉の位置が微妙に違っていても、脇システムの基本的な攻め筋は一つです。角交換から敵陣に角を打ち込んで攻めていくのがそれ。本局でも渡辺二冠は角を打ち込み、金と交換してから、銀をさばいていきました。豊島名人も負けじと角を打ち込んで、矢倉の金に狙いを付けます。

渡辺二冠はこの角取りに▲3九金と金を自陣に打ち、角切りを催促。豊島名人は△2七銀と打って先手の飛車の働きを弱めてから、角を切って金を入手します。再び角を手持ちにした渡辺二冠は、またしてもその角を金取りに打ち込みます。対する豊島名人も自陣に△5一金と打って角切りを催促。先ほどの豊島名人と同様、渡辺二冠も▲8三銀と打って飛車の縦への利きを遮断してから、金と角を刺し違えました。

同じような攻めの応酬がひと段落した局面は、豊島名人が少しよくなったようです。先ほどまでのやりとりで、辺境に打った△2七銀と▲8三銀はどちらも働きが今一つ。角切りを催促した▲3九金と△5一金とでは、後者の方が玉に近く、守りに働いています。

渡辺二冠が敵玉付近に▲3四歩と打って拠点を作ったのに対し、豊島名人は飛車取りに角を打って応戦。飛車を逃がした手には露骨に銀を打ち込んで攻めを継続させます。この銀を桂で取るか、金で取るか。桂で取れば自陣には金が、金で取れば桂が残ります。守りのことを考えるなら桂で取るのが普通ですが、渡辺二冠はなんと金で取りました。相手に桂より金を渡した方がよいという判断でしょう。また、将来的には自陣の桂を跳ねて敵玉を寄せる展開もみています。

豊島名人は金を取ってから、歩を相手の玉頭に突いて攻めを継続します。渡辺二冠も先ほど打った3四歩の拠点を生かして▲3三金と王手をかけて反撃。この王手に対する豊島名人の2択が運命を分けました。

考えられる応手は△5二玉か△5三玉のどちらか。豊島名人は1時間1分の残り時間のうち、22分を使って△5三玉と逃げましたが、これが敗着となってしまいました。この罪はすぐに表れます。少し進んだ局面で、豊島名人には渡辺玉に必至をかける手がありましたが、なんとその局面で豊島玉には詰みが生じていました。もし△5二玉と逃げていれば豊島玉は詰まないため、必至をかけて勝ちだったのです。

豊島名人は詰み筋は看破して、別手順を選びましたが時すでに遅し。渡辺玉は安全になってしまい、攻守が逆転してしまいました。攻めに転じた渡辺二冠の寄せは的確で、以下幾ばくもなく豊島玉は受けなしに追い込まれました。渡辺二冠が豊島玉に詰めろをかけた101手目を見て、豊島名人の投了となりました。

渡辺二冠はこの勝利でシリーズ成績を2勝2敗のタイに戻しました。負ければカド番になっていただけに大きな、大きな勝利です。

一方の天国か地獄かという2択で間違えてしまった豊島名人。手痛い敗戦でリードがなくなりました。また、豊島名人は直近成績が5連敗。名人戦と叡王戦のダブルタイトル戦を戦っている最中なだけに、早く復調したいところです。

三冠復帰へ向け、負けられない一局を制した渡辺明二冠(提供:日本将棋連盟)
三冠復帰へ向け、負けられない一局を制した渡辺明二冠(提供:日本将棋連盟)