久保九段は四間飛車で大橋六段の急戦を撃破。挑決の相手は渡辺明二冠

永瀬拓矢王座(叡王)への挑戦を目指す、第68期王座戦挑戦者決定トーナメント(主催:日本経済新聞社)の準決勝が7月27日に関西将棋会館で行われました。タイトル獲得7期を誇る実力者、久保利明九段と、デビュー以来常に好成績を残し、通算勝率が7割を超える若手の大橋貴洸六段の対決は、129手で久保九段の勝利となりました。

かつては「振り飛車御三家」の一角と呼ばれ、現在では数少ない振り飛車党トップ棋士の久保九段。先手番となった本局でも得意の四間飛車に振ります。一方の大橋六段は居飛車党。急戦で久保九段相手に真っ向から立ち向かいました。

飛車交換から両者敵陣に飛車を打ち、金銀を取り合う激しい戦いになりました。戦いの中で飛車を捕獲した久保九段は角を切って金を捨て、大橋玉を寄せにいきます。しかし、大橋六段は相手の攻めに乗じて中段玉に構え、あわよくば入玉を目指して頑張ります。

入玉されては勝ち目がなくなる久保九段は、自陣に飛車を打ってそれを防ぎます。さらには囲いの一部の銀も攻めに活用し、上下から大橋玉に迫っていきます。自陣一段目には相手の竜がいて、さらに上部から飛車と銀のコンビネーションで攻められてはひとたまりもない大橋六段は、香を打ってその銀を取り、久保九段の自陣飛車の働きを弱めます。これで大橋六段が逃げ切ったか、と思われたその時、久保九段が絶妙手を放ちました。

それは自分の飛車の頭に香を打つというもの。これだけなら普通の一手ですが、なんとその香は相手の歩の利きに打たれたのです。相手がこの香を取ってくれば、飛車が馬取りの好位置に移動し、攻めがつながります。かと言って取らなければ、香の利きが敵陣に突き刺さります。

どちらを選んでも損害を被ることになる大橋六段は、香を取らないことを選択。久保九段はこの香で相手の金を取ることに成功しました。これで久保九段の攻めがつながりました。

大橋六段は相手玉を攻めつつ、入玉を目指して粘りますが、久保九段の攻めと受けは正確でした。守るべきタイミングではしっかりと受け、相手の攻めが止まったタイミングで大橋玉の包囲網を狭めていきます。久保九段が竜を切って大橋玉に必至をかけた局面で、大橋六段は投了。129手の熱戦でした。

勝った久保九段は挑戦者決定戦に進出。挑戦権を懸けて戦う相手は渡辺明二冠です。現在久保九段は渡辺二冠に6連敗中。この連敗は第68期王将戦七番勝負第1局から始まっており、久保九段は王将位を渡辺二冠に奪われています。挑戦者決定戦という大勝負で連敗を止めることはできるでしょうか。

一方、大橋六段の快進撃はここでストップ。二次予選決勝では藤井聡太七段(当時)を破るなど、今期王座戦の台風の目となった棋士と言っていい活躍を見せてくれました。

王座戦では2011年の第59期以来の挑決へ進出した久保九段。このときの相手も渡辺二冠だった
王座戦では2011年の第59期以来の挑決へ進出した久保九段。このときの相手も渡辺二冠だった