新型コロナウイルス感染拡大の影響で放送開始が延期されていたTBS系日曜劇場『半沢直樹』新シリーズが7月19日、ついにスタートし、初回平均世帯視聴率22.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)という好結果を出した。最終回で42.2%という驚異的な数字を記録した人気作の続編だけに大きな期待があったが、前作同様、劇的欲求を満たしてくれるシーンが満載。SNS上でも称賛の声が相次ぎ、前作の第1話(19.4%)を上回るスタートとなった。
■市川猿之助、初回から“敵”としての存在感全開
『半沢直樹』というか、近年の日曜劇場の大きな特徴として“爽快感”というテーマがあげられる。月曜日からの仕事を前に、明るく元気で前向きな気持ちになれるというコンセプトだ。そのために重要になってくるのが“タメ”。勧善懲悪ではないが、主人公の敵が憎たらしければ、憎たらしいほど、倒したときのカタルシスが得られる。
続編の原作は、「ロスジェネの逆襲」と「銀翼のイカロス」を映像化している。堺雅人演じる半沢は、前作の最後で北大路欣也扮する中野渡頭取から、東京中央銀行の子会社である東京セントラル証券への出向を命じられている。前作以上に、最初からかなり劣勢に立たされている。
そんな半沢の前に立ちはだかるのが、市川猿之助演じる東京中央銀行証券営業部部長・伊佐山泰二。伊佐山は、前作で半沢が土下座させた香川照之扮する大和田暁元常務(新シリーズでは降格して平の取締役)の子飼いの部下。大和田の出世が頓挫したことで、自身の出世にも暗雲が立ち込めたことにより、半沢を恨んでいる人物だ。
物語がスタートした直後に登場した伊佐山は「半沢だけはぜってーに許さねー」と歌舞伎役者ならではの決め顔で“敵役”としての存在感を全開にアピール。これまで『半沢直樹』に登場してきた敵役(小物は除く)は、基本的に最初はあまり腹の底の感情を表に出さず、どちらかというと礼儀正しく半沢に接してきたが、伊佐山は最初から半沢への“敵対構図”をわかりやすく表現。その分、半沢もこれまでの相手よりも最初から“敵”として相対することができる。
先日行われた制作発表会見で猿之助は、実際の血縁関係で“いとこ”にあたる香川が、猿之助の芝居のシーンでは「マンツーマンで見ていた」と冗談ぽく話していたが、猿之助の顔芸はまさに香川のDNAを受け継いだようなデキ。ふてぶてしさはネット上でも大きな話題になっていた。
7年ぶりの新シリーズ。冒頭から明確な対立構図をビシっと明示したことで、『半沢直樹』ファンはもちろん、初めてシリーズに接した視聴者もすんなりと物語に入り込めたのではないだろうか。
■濃いキャラ同士の激突を際立たせるバランサーたち
もう一つ、本シリーズの巧みだなと感じるが、全体のバランス。前述した制作発表会で香川は登壇者を見渡し「濃すぎる」とつぶやいていたが、とにかく濃いキャラクターが次々に登場する。それでも、メリハリが感じられるのは、癒やし系(!?)キャラの存在なのかもしれない。その最大の立役者は半沢の親友・渡真利忍(及川光博)か。
前作では、一癖も二癖もあるキャラクターを演じることが得意な及川ということで「いつか半沢を裏切るのでは」という思いで視聴している人もいたようだが、本作では画面に登場するだけで安心できる存在。濃いキャラ同士がぶつかり合う物語の良いクッションとしてバランサーになっている。
もう一人、バランサーとしての役割を期待したいのが、お笑いトリオ・東京03の角田晃広演じる東京セントラル証券営業企画部の三木重行。東京セントラル証券は、銀行出向組とプロパー社員との間に確執があり、チームが一つにまとまっていない。三木は出向組であり、プロパー社員を下に見ているきらいがあるが“仕事ができない男”と揶揄されているような存在だ。
第1話でも、同じ出向組の次長・諸田(池田成志)から、伊佐山に関する不正の証拠を消すように指示され実行したものの、半沢らに問い詰められ、あっけなく悪事を白状してしまうなど、ヘタレぶりを披露。しかし、半沢側になびきそうな雰囲気満々で、今後濃いキャラが跋扈するなか、良いバランサーになる可能性がある。
26日放送の第2話では、伊佐山ら東京中央銀行に横取りされた「電脳雑技集団」による大型買収案件を取り返そうと、半沢やその部下である森山雅弘(賀来賢人)らが奔走する姿が描かれる。しかし相手は巨大メガバンク。半沢自身、その力の大きさは身に染みている。そんななか、気になるのは伊佐山に協力して東京セントラル証券から銀行に戻った三木だ。伊佐山にいいように言われて協力したものの、戻ってみれば居場所がない。小物感漂う三木だが、前述したように半沢VS伊佐山のバトルの弛緩剤としてどんな働きを見せるか。注目していきたい。
(C)TBS