これまでリーダーはミーティングを開き、メンバーの顔を見ながら、重要事項を伝えたり、目標を再確認することができた。部下の様子がおかしいと察すれば、声をかけることもできた。しかしテレワークになると当たり前のように行ってきた管理ができなくなったというリーダーも多いのではないだろうか?
オンラインでミーティングを開き、一応は全員が参加していても、顔色の変化は感知しにくい。企業によっては、目的のないおしゃべりの場をオンラインで設ける動きもあるが、全員の前では話しにくいこともあるだろう。これまでのように目の前に部下がいないときにどのようにチームを率いるか、そしてオフィス再開でどのようにチームを率いるかーーForbesが「3 Ways To Lead While Isolated」としてまとめている。
執筆するのは英国University of Reading、Henley Business School教授でリーダーシップや組織行動の分野を専門とするBenjamin Lakerさん。リサーチに基づくリーダーシップ研究の著書やハーバードビジネスレビューでの執筆など、成功しているリーダーたちの資質をシャープに抜き出している。コロナ禍にある世界の都市が段階的に再開するこの時代を「リーダーシップ」が直面するの歴史的な瞬間であると述べる。Benjamin Lakerさんは、2004年から約1年間、南極大陸への遠征隊を率いた経験を持つオーストラリアの女性Rachael Robertsonさんの著書から3つのアドバイスを提言している。
オーストラリア在住のRachael Robertsonさんは、32歳のときにチーフレンジャーとして気候変動調査をする科学者たちの南極での活動をサポートする役割を担っている。電気系統のトラブルも絶えない極寒の地で、面識のない人々24人をサポートするリーダーとして約1年間を過ごした経歴を持っているが、極限の環境下では次第にチームにストレスが溜り始める。メンバーの誕生日はもちろん、停電が無い日が50日、けが人の無い日が100日と祝福する日を設定し機転を利かして孤立化させないように気を配っている。最近のForbesの別のインタビューでも明かしているが、歴代で二人目の女性で最年少でもあったというから、さぞかし大変だったにちがいない。コロナ禍における業務遂行も前代未聞のできごと。多かれ少なかれリーダーの役割を担う人は不測の事態を経験しているだろう。参考になる点もあるはずだ。
1.三角形を作らない No Triangles
その場に当人がいない時に、その人についての話はしない。上司が部下に話をする時も、その逆であっても、その人から直接話を聞いたり、その人に直接話をするようにする。リモートであっても、リモードではなくても問題や疑問解決の時間が短縮できる。テレワーク中ならなおさら、本人と直接話すことが責任を伴うリーダーにとっては重要なこと。慣れない環境でのストレスや不満が同僚や直接関係しないことに向かってしまうことは往々にしてあるが、厳しい環境下では、そんな余裕も無い。ダイレクトな関係を広げ、タスクに向かっている。
2.ベーコン戦争を管理する Manage your Bacon Wars
南極ではベーコンを柔らかく仕上げるかカリカリに仕上げるかでチームを分断する大論争が起こりステーションの閉鎖危機にまで及んだそう。一方が意図的に自分たちの嫌いな焼き方にしていると感じたことからはじまっているそうだが、Rachaelさんは片方が軽視されていると常に感じていたことが根底にあることを突き止めている。
意見のすれ違いは尊敬のなさから起こることもある。理解を得られていない、話を聞いてくれないと思ったら、指示通りのことはやりたくないという反抗心が芽生えても人間である以上不思議ではない。些細に思えることでも、同じチームでやる以上相手の意見や考え、やり方を可能な限り尊重する。敬意を払う必要がある。コミュニケーションの取りにくいテレワークではベーコン戦争の火種が見えにくいこともある。
3.協調性を上回るリスペクト Respect trumps harmony
Rachaelさんの著書のひとつ「Respect trumps harmony」ではレスペクト(尊敬)が調和よりも優先する文化が何よりも強いチームを作ることを説いている。調和を必要以上に求めることは多様化するチームでは成果が上がりにくい。それぞれの個性、専門性が活かされてこそ多様性の醍醐味である。これを必要以上にフラット化すると機能しなくなる。探検隊にいたメンバーは科学者、IT、貿易、エンジニア、パイロット、気性専門家。ここまでのダイバシティが職場に揃うことも珍しいだろうが、さらに年齢、世代、宗教、セクシャリティも異なっていたという。異なるバックグラウンドを持つと業務よりも対人圧力が強まるのは当然で、Rachaelは協調性よりも互いのリスペクトを目指すように舵を切っている。"違いを認めたうえで尊重する"ということだ。
テレワークでは、職場環境が同じではなくなる。また、ルールは当然守らなければいけないがそのなかで相手の状況を尊重する構えがリーダーには求められる。分散した環境にありながら同じ目標を持つためには、これまで以上に指示を的確に出す方がいいだろう。内容、期日などを明確にする一方で、相手の作業時間を尊重して、時間に余裕のあるコミュニケーションを心がける。簡単なことではないはずだ。リーダーの知恵が問われることになる。