消費増税の景気対策のひとつとしてスタートした、キャッシュレス決済によるポイント還元事業。キャッシュレス決済をすると購入額の5%、フランチャイズ店であれば2%がポイント還元される仕組みだったが、今年6月を持って終了した。

現在はマイナンバーカードと連動させた「マイナポイント事業」が始まっているが、やはりこちらもキャッシュレス決済での前提。恩恵にあやかるには、やはりどうしてもキャッシュレス化は避けられない。しかし、まだまだキャッシュレス対応が追いついていない小売店も目立つ。

「withコロナ」の時代、日本の決済システムはどう変わろうとしているのか、最近の動向を見てみると、消費行動自体に大きな変化が起きつつあることがよくわかる。

コロナ禍が確実に後押しした日本のキャッシュレス事情

住信SBIネット銀行株式会社が今年6月に実施した「外出自粛期間での意識・行動変化に関するアンケート」の調査結果を見ると、なかなか興味深い内容になっている。

  • 69%が自粛中に現金の使用頻度が減った - コロナ禍で見られた決済手段の変化

コロナ禍の影響で、世界中が不況の波に飲まれようとしていることは明らかだが、外出しにくくなって以降、"お金"について「少しでも無駄を減らしたくなった」と回答した人は最多の45.0%に上った。すでに収入に影響が出ている人も多いだろうし、そうでなくても先行きが不透明な今、できるだけ節約して将来に備えたいという心理も見て取れる。

次いで「キャッシュレス決済のメリットに気付いた」と答えた人が25.5%。「こつこつポイントなどを増やしたい」と考えている人も多くなっているが、逆に「リスクをとってもお金を増やしたい」「多くの現金を手元に置いておきたい」と考える人はそれぞれ10%程度にとどまったというのも興味深い。

「資産運用は堅実に、かつオンラインで」という考えが主流になりつつあるようだ。特にこれまで「現金は安全」という意見が根強かったのに、その価値観にも変化が起きていることは明白である。

そして外出自粛期間中に「現金の使用頻度が減った」と答えた割合は69%と高ポイントをマーク。その理由は「キャッシュレス決済に慣れた」(47%)、「現金決済のお店で買物しなくなった」(22%)、そして衛生面を考慮してか、「現金を触りたくない」との回答も20%に上っている。

政府は日本のキャッシュレス化を進めようと莫大な予算を投じてきたが、図らずともこの未曾有のコロナ禍がキャッシュレス化を猛烈に後押しする結果となったようだ。

【調査概要】
「外出自粛期間での意識・行動変化に関するアンケート」
実施期間:2020年6月9日(火)~6月16日(火)
実施チャネル:アンケート専用のWEBサイト
対象者:住信SBIネット銀行の利用者から各年代ごとにランダムに抽出
回答者数:3949名

それでもキャッシュレス先進国との差は歴然

クレジット決済サービス「Square」の運営・管理事業を行うSquare株式会社は、事業者目線からキャッシュレス決済に関するデータを公表した。

公表したのは2019年6月から2020年5月までの決済データの分析結果で、これによると、キャッシュレス決済が現金決済を上回ったSquare加盟店は、1年前の2019年6月1日時点では17%だったのが、2020年のゴールデンウィーク後には27%となり、10%上昇したことがわかった。

特に昨年10月のポイント還元事業が始まった直後、そして今年4月に緊急事態宣言が出された直後は大きく上昇傾向にある。

さて、世界の国々ではどうか。

キャッシュレス先進国と言われるアメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリスでも加盟店の決済データを分析したところ、「決済の95%以上をキャッシュレス決済が占める」という中小事業者が激増したことが明らかになった。

コロナ禍の前後で比較すると、アメリカではそれまで8%だったのが31%に増加。カナダでは9%から48%に、オーストラリアでは6%から36%に、イギリスでは10%から60%へと、それぞれ4〜6倍程度も増えている。

もちろん、背景には衛生面への配慮があることは言うまでもない。日本もキャッシュレス決済が伸びているとは言え、キャッシュレス先進国との差は歴然である。

事業者が損する制度ではキャッシュレス化も進まない?

政府はかねてから、日本もキャッシュレス先進国を目指すと公言している。具体的には、日本のキャッシュレス化を2025年に40%まで推進し、将来的には世界最高水準の80%を目指すとしているが、19年時点のキャッシュレス比率26.8%にとどまっている。

鍵を握るのは、やはり小売店になりそうだ。経済産業省によると、ポイント還元事業の最終的な加盟店登録数は約115万店となったという。当初は50万店程度を予測していたので、その成果は予想以上だったと言える。しかし、それでもまだ対象となりうる約200万の中小・小規模事業者のうち、約半数は未参加となっている。

しかも、キャッシュレス決済の手数料が高いことも指摘されており、ポイント還元事業の終了に合わせてキャッシュレス対応の廃止を検討してる小売店も多いようだ。他にもキャッシュレス決済に対応する端末導入費が決して安価でないこと、入金のサイクルが長いことなど、課題は山積みだ。

終わらぬコロナ禍の影響もあって、国民の意識はますますキャッシュレス化へと向かっていく。しかし店舗側はキャッシュレス機能の維持も導入も簡単ではない。本当にキャッシュレス化を推進したいなら、政府や自治体はさらなる支援や制度づくりが急務だ。