気温と湿度が高い日本の夏は、熱中症になりやすい環境。毎年、夏になると熱中症による救急搬送のニュースが流れ、メディアでも熱中症対策の話題が取り上げられます。もちろん今年も熱中症の予防は大切ですが、例年と違うのは新型コロナウイルス感染症への対策も必要なこと。夏を前にしたこの時期、空調メーカーのダイキンが「熱中症対策と換気の上手な方法」のWebセミナーを開催しました。

  • 帝京大学医学部附属病院で高度救命救急センター長を務める三宅康史医師(中央)、ダイキン工業の広報、野呂朋未氏(左)、重政周之氏(右(

    写真中央は、帝京大学医学部附属病院で高度救命救急センター長を務める三宅康史医師。写真左はダイキン工業の広報、野呂朋未氏。写真右はダイキン工業の広報、重政周之氏

熱中症での死亡例は、ひと夏で1,000人を超えることも!

セミナーの冒頭では、帝京大学医学部附属病院の高度救命救急センター長である三宅康史医師が登壇。救急医療に詳しい三宅医師は、現在の熱中症と新型コロナウイルスの状況について説明しました。三宅医師によると、熱中症の種類は2つ。

1つは、暑い中で運動や労働をすることでかかる「労作性熱中症」。もう1つは、暑い部屋でじっとしていてもかかる「非労作性熱中症(古典的熱中症)」です。

労作性熱中症は外で運動・労働する若者がかかりやすいのですが、若者は体力があるので重篤化しにくいとのこと。一方、とくに気を付けるべきは非労作性熱中症で、体力のない高年齢者だと、最悪の場合は死にいたります。

実際に環境省などのデータを見ると、死亡例は多いときでひと夏1,000人を超えており、その多くは高齢者です。また、三宅医師によると高齢者の熱中症の多くは屋内。このため「部屋を涼しく保つこと」は、命にかかわる重要な課題。

  • 環境省が2018年に発表した、熱中症による死亡者数の推移。2018年は1,500人以上が熱中症で死亡。三宅医師はこれをうけて、熱中症は一種の災害だとしました

  • 熱中症による死亡数の多くは65歳以上の高齢者。高齢者の熱中症は室内で起きることが多いため、部屋を涼しく保つことの重要性を語りました

窓を開けると熱風が吹き込んでくるような日本の夏において、部屋を涼しく保つのに欠かせないのがエアコン。しかし、2020年の夏は従来とは違い、新型コロナウイルス対策も必要です。

三宅医師によると、新型コロナ対策の1つは「換気によって飛沫の長期残留を抑制すること」。しかし、窓を開けるとせっかくエアコンで冷やした部屋の温度が上がってしまう……。そこでここから、ダイキンが換気とエアコンを上手に両立する方法を紹介しました。

エアコンに換気機能はある? 意外と知らない豆知識

ダイキンが2020年6月に「ほとんどのエアコンは換気している? していない?」という質問をしたところ、6割近い回答者が「している」と答えたそうです。エアコンは、室内機で部屋の空気を取り込み、冷やしたり暖めたりして部屋の中へ戻す仕組み。このため、ほとんどのエアコンに換気機能はありません。部屋を換気するには、窓を開けるなどして、室外の空気を部屋に取り入れることが必要です。

  • 約6割の回答者が、ほとんどのエアコンが換気できないことを知りませんでした。部屋の空気を入れ換えるには、エアコン以外の方法が必須なのです

  • 冷房も暖房もエアコンは「部屋の空気を吸って戻す」のが基本。室内と室外の空気を入れ換えることはできません

上手な換気

エアコンで換気ができないとすると、どうすればよいのでしょう? ダイキンはまず、住宅設備の「24時間換気」を利用することが基本といいます。24時間換気システムは、2003年以降の住宅には設置が義務化されている設備です。

  • 24時間換気システムは、シックハウス症候群への対策などのために、2003年以降の住宅には設置が義務化されています。自宅にある人も多いのでは?

24時間換気をしたうえで、さらに窓を開けて換気することも重要です。ダイキンによると、換気の目安は1時間ごとに10分。ただし、換気回数が増えるほど効果的なので、「30分に5分を2回」のほうがよいそうです。

効率的な窓の開け方は、南の窓と北の窓など、対角線上の2カ所で窓を開けること。片方の窓から空気が入り、反対の窓から空気を逃がすことで、部屋の中を空気の通り道ができます。

もう1つのポイントは、空気が入る窓は細く開け、排気する窓は大きめに開けること。吸気用の窓を細く開けることで風が勢いよく部屋に入って、部屋の空気をかく拌し、大きく開いた窓から緩やかに出て行きます。

一方で、やってはいけないのが「近すぎる2つの窓を開けること」。窓から窓に空気が抜けるので、部屋の中央や窓から遠い場所の空気をうまく換気できなくなります。

  • 窓の開け方のポイントは2つ。1つは部屋を横切るように対角線上の窓を2カ所開けること。もう1つが風の入り口を狭く、出口を広くすることです

家によっては「そもそも部屋に窓が1つしかない」といった場合もあるでしょう。そうしたときは、窓に向かって扇風機やサーキュレータを動かす方法も有効です。また、オープンキッチンタイプのリビングで有効なのは、レンジフードを「強」にして換気扇を回すこと。意外なことにレンジフードは、一般的な家庭では最も強力な換気設備なんです。

  • 窓が2カ所もない場合は扇風機やサーキュレーターを活用。部屋が台所と続いている場合は、レンジフードの活用も視野にいれて

エアコンをできるだけ節電しながら換気する方法

夏は冷房を使用することが多いため、「冷房中の換気はどうすればいい?」と悩む人も多いのではないでしょうか? ダイキンの調査によると、「窓開け換気中に最も気になること」の第一位は、部屋が暑くなること。二位は部屋に虫が入ること、三位はエアコンの電気代でした。虫の侵入は網戸をうまく使うしかないので、ここからは部屋の暑さ対策とエアコンの消費電力を抑える方法を紹介します。

  • 窓開け冷房で気になること

窓開け換気中は「エアコンを付けっぱなしにする」(ダイキン)が正解。冷房は運転を始めたとき一気にパワーを使って部屋を冷やそうとします。このため、換気のたびにエアコンをオンオフすると、電力消費のピークが何度も発生してしまうのです。また、冷房を付けっぱなしにすることで、換気中に部屋の温度が上昇するのをある程度は抑えられます。

エアコン運転時に開ける窓のポイントは、エアコンの室内機から離れた窓を開けること。室内機は部屋の空気を吸って、この空気を冷やして部屋に戻します。吸気する空気の温度が高ければ高いほどエアコンに負荷がかかり、電気代もアップするのです。

  • 換気のたびにエアコンをこまめにオンオフすると、その回数だけ電気を消費するピークが発生して余計な電力を使ってしまいます

  • リビングなどは窓の近くに室内機を設置することが多いですが、換気は室内機から離れた窓を開くのが基本

このほか、エアコンの消費電力を抑制するポイントとして、室外機の周りを整理整頓して風を遮らないことを挙げました。室外機の役割は、室内の熱を室外に排出すること。室外機の周りに風を遮るものがあると熱をうまく逃がせず、消費電力がどんどんアップするのです。

  • 室外機の周辺が33℃のとき、室外機の前に障害物を置くデモンストレーション。室外機から排出される熱風がうまく逃げられないため、室外機の近くで温度が40℃まで上昇。さらに、消費電力も290Wから320Wまでアップしました

エアコンの消費電力を抑える手段として、定番ではありますが、こまめなフィルター掃除も推奨。目安は2週間に1回です。やり方は簡単で、フィルターをエアコンから外して、フィルターに付いたホコリを掃除機で吸い取るだけ。

  • 1年間フィルターを掃除しないことで、なんと25%もの無駄な電気が必要になるそうですよ

最近はフィルターの自動掃除機能を搭載したエアコンもありますが、そういったエアコンならフィルター掃除はお任せでもOK。ただし注意が必要なのは、台所の近くにあるエアコン。油を含んだ煙を大量に吸い込むと、フィルターが油分でベタベタになって、エアコンのフィルターお掃除機能では汚れが落ちないこともあるそうです。こんな場合は、フィルターを外して中性洗剤で優しく洗うのがオススメ。

以上、1つ1つのちょっとしたことでエアコンを上手に使えて節電にもなります。熱中症対策と換気の知識で、この夏をうまく乗り切りたいものです。