創作フレンチ「Nœud.TOKYO(ヌー. トウキョウ)」が7月29日よりオープンする。場所は赤坂近辺の好立地。食が描く持続的な円環「食の環(わ)」をキーワードに、SDGsを意識した店舗になっているという。プロジェクトの責任者に、その狙いについて聞いてきた。

  • 創作フレンチの新店舗「Nœud.TOKYO(ヌー. トウキョウ)」が29日にオープンする

誰に向けたフレンチなのか

東京メトロ 永田町駅の9b出口から歩くこと約1分。青山通りから細い路地を1本入った先に、この店舗はある。

  • Nœud.TOKYO(ヌー. トウキョウ)(東京都千代田区平河町2-5-7 ヒルクレスト平河町B1F)

外階段から半地下に降りると、国産杉のダイナミックなカウンター席が見えてきた。客席数は、カウンターが10席、個室テーブルが6席。カウンター席に腰を掛けると、厨房のシェフと目線の高さが合った。

  • 店内イメージ(オフィシャル写真より)

このレストランを仕掛けたのは、ウエディング事業を手がけるタガヤと、クリエイティブディレクターでTOMODACHI Ltd.代表の梶友宏氏。梶氏は「そもそものコンセプトは、東京オリンピックで来日した海外のお客さんに向けて、しっかり食べられるベジタリアン専門のレストランをつくることでした」とプロジェクト開始当初を振り返る。

  • クリエイティブディレクターで、TOMODACHI Ltd.代表の梶友宏氏

もとは、ユニクロ(ファーストリテイリング)でコミュニケーション領域のデザイナーとして活躍していた梶氏。世界最貧国の1つであるバングラデシュにおける「グラミンユニクロ」に参加し、また国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)との協力事業にも従事していた。そうした梶氏の活動履歴に共感したのが、SDGsをブランディングに取り入れていたタガヤだった。

  • 兵庫県産のトマトと苺、千葉県産のきゅうりを使った前菜

ひとくちにベジタリアンと言っても、健康のため、倫理のため、あるいは宗教のためと、目的や関わり方は人それぞれ。最近は『地球と共生するため』という観点で、菜食主義になる人も増えているそうだ。梶氏は「ベジタリアンの皆さんと現代社会との関わりについて考えていくうち、サステナブルという、もっと大きな軸をコンセプトにすべきと思ったんです」と説明する。そこで、オープンする店舗のテーマを『オール・サステナブルなレストランをつくる』ことに定めた。

オール・サステナブルなレストラン作り

オール・サステナブル、には様々な想いを込めた。食材の生育環境にこだわり、地産地消・旬産旬消を心がける。食材そのものの美味しさを最大限に活かし、無理な調理はしない。また食材を無駄にせず、普通なら捨てられてしまう部位なども積極的に使っていく、といった具合だ。

  • 旬の食材に合わせて、コース料理も毎日のように変わっていく

千葉県産の鯖料理が出てきたところで、厨房に立つシェフのひとり、中塚直人さんから以下のような説明があった。「出汁は小魚でとっています。漁船の網にかかった、買い手のつかない小魚を買い取ったものです。コロナ禍で、生産者の方たちも売上が落ち込んでいるようです。少しでも手助けになれたら、という思いがあります」。これからも生産地を直接訪ね、生産者の思いを感じ取り、料理につなげていけたら、と話す。

  • フランスで研鑽を積んだ中塚直人シェフ。フランス語で、つながり、絆、結び目を意味するNœudを店名に採用した

では、オール・サステナブルなレストラン作りの難しさは、どんなところにあるのだろう。梶氏は「フレンチレストランの品格と、エコのストーリーのバランスですよね」と説明する。「つまりエコを追求しながらも、フレンチレストランの品格は保たなければいけない。エコありきで、モノを減らして、簡素な店舗で、味はそこそこで、というのでは本末転倒です。美味しい、おしゃれ、格好良い、でも実はエコにもなっている、それが理想。美味しい、格好良いといった感情が、先にあるべきだと思うんです。今回は、そこにチャレンジしました」。

  • 愛媛県 今治産のイノシシをつかった料理

次の料理が運ばれると、再び中塚シェフから説明があった。「愛媛県 今治産のイノシシを使った料理になります。現地ではイノシシがミカン畑に出没し、ミカンを食い荒らすため、農家の方たちが困っている現状があるそうです。駆除されたイノシシを食材として活かしました。イノシシの骨から出汁をとったソースをかけています。ミカンのピューレをつけてお楽しみください」。そんな裏ストーリーに、客席からは穏やかな笑いも起きる。

このような、出した料理についてシェフが説明していくスタイルを提案したのは、梶氏だという。「ボクが場をつくりますので、裏にあるストーリーをお客さんに話しかけてください、と中塚シェフにお願いしました。初めは、喋るのは苦手なんですけど、とおっしゃっていましたけどね」と笑う。「説明してもらうことで、美味しかったね、だけじゃないレストランができます。生産者の想い、シェフのこだわり、それらを理解したうえで食べると、胃はもちろん、脳でも美味しさを感じてくるでしょう」(梶氏)。

  • カウンターと厨房の距離が近く、一流シェフが調理する姿を眺めているだけでも飽きない

中塚シェフのほか、やはり海外で腕を磨いてきた秋田絢也シェフも厨房に立つ。梶氏によれば、彼らの料理の特徴はシンプリシティとコンプレックスの共存にあるという。「シンプルだけれど、奥にストーリーが含まれている、ということですね。それは料理だけでなく、店舗の内装にも言えることです」。なるほど、言われてみれば店舗の壁も雰囲気がある。聞けば、石膏ボードなどの使い捨て下地材は使わず、古来から伝承される土壁を使用しているという。その土に関しても、京都西陣にある聚楽第(じゅらくだい)跡地付近の古い蔵を解体した「聚楽土」を使っているそう。そしてレトロな玄関ドアも目をひいた。かつてこの場所で経営していた、フレンチレストランのドアをリサイクルしたという話だ。

  • 聚楽土を使った土壁(オフィシャル写真より)

最後に、梶氏は「普段、食べている料理の裏側には、こんなストーリーがあるんだ、ということを体験できるフレンチレストランになっています。話を聞いて、食べて、その育成環境にも想いを馳せてもらえたら。食を見直す、新しい食の価値を発見する、そんなきっかけになれば幸いです」と話していた。


料理はコース1種(8~10皿)で、価格は13,000円(税別、以下同)。ペアリングワインも用意している。コース例は、アペリティフ、野菜料理2種、魚料理2~3種、肉料理2種、デザート2種、お茶(コーヒー)など。営業時間は16時から22時まで、月曜日は定休。予約制となっている。