スパイ in デンジャー

ウォルト・ディズニー・ジャパンが贈る最新作のアニメーション映画『スパイ in デンジャー』がディズニー公式動画配信サービス「Disney+ (ディズニープラス)」で配信中。

本来であれば初夏に劇場で公開予定だった本作。昨今の状況を顧みて「Disney+ (ディズニープラス)」での配信となった。本稿では『スパイ in デンジャー』の魅力について迫っていく。

『スパイ in デンジャー』は、その名の通りスパイの世界を描いた作品。ある事件で汚名を着せられてしまい、情報局から追われる羽目になった世界最強のスパイであるランス・スターリングは、解決の糸口を探るべく発明家ウォルター・ベケットの下へ。しかし、ウォルターの作った薬を勘違いで飲んでしまい、ランスはハトの姿に。世界最強のスパイは、ハトの姿のまま無実の罪を晴らし、しかも世界を脅かす陰謀を解決するためにウォルターとタッグを組み奮闘する。というストーリーになっている。

ランスに声を充てるのは、数々のメガヒット作品に出演する、俳優のウィル・スミス。役どころもまさにウィル・スミスといった様相で、スマートで物腰柔らかくて明るくて愛想がいい完璧超人のスパイを演じる。『スパイダーマン』などで知られる若手俳優のトム・ホランドは、ウォルター役に。こちらはランスとは正反対の性格で変わり者。しかし、ランスとはまた違った方向で才能を発揮するという主人公だ。

  • ランス・スターリング

  • ウォルター・ベケット

映画を制作するのは、日本で約20億円の興行収入を記録した『アイス・エイジ』のブルー・スカイ・スタジオ。コミカルなアクションやファミリーでも楽しめる映画といえば同スタジオに定評があり、本作にうってつけの存在と言ってもいい。事実、ハトがスパイになって陰謀を打ち砕くという突拍子もない設定を、エンタメチックにされど本格スパイ映画としても楽しめる作りに調理していた。

一見するとハトとスパイの間に関係性は何もないように思えるが、実は驚くべき事実が隠されている。ニック・ブルーノ監督曰く「鳩は世界中のどの街にもいる。鳩に気を留める者なんて誰もいない。鳩がそこにいるということにさえ気づかない。つまり鳩は丸見えの状態なのに隠れているんだ。頭部の両サイドに目があるので、鳩には360度見える。ということは、どんな時でも人々の顔と自分のお尻を同時に見ることができるということで、鳩の後ろからこっそり近づくことも出来ないんだ」とのこと。つまり、ハトにはスパイの適正があり、なるべくしてなったと言っても過言ではないのだ。

それに、ハトがスパイになるという設定は、何ともディズニーらしい作品ではないだろうか。これがもしただのスパイ映画であれば、ディズニーが手掛ける意味はなかっただろう。

一方で、ただただファンタジーな作品には仕上げたくなかったとも、ブルーノ監督は明言。子供たちが観る初めてのスパイ映画になり得る可能性があったからだ。コメディチックなだけの作品だった場合、子供にとってスパイはおもしろいという認識でしかなく、憧れる存在にはならない。故に本作は、スパイ映画らしくダイナミックでテクノロジーな演出がたくさん施されている。

作中に登場するスポーツカー「アウディ RSQ e-Tron」は武器も発射できるし、完璧な自動走行もできる。アクションシーンは、ランスの圧倒的な武力が物をいうし、ウォルターの開発する数々のスパイアイテムが隠密行動を可能にする。

ハトという思わず笑ってしまう題材やコミカルなシーンを描きながらも、そのどれもがワクワクする演出ばかりで、スパイ映画としても申し分ない仕上がりになっているというわけだ。コメディを観たい人もアクションが観たい人も楽しめるうえに、子供も大人も作品に没入できる。

もう一つ、本作を語るうえで外せないのが、ランスとウォルターの対比。ランスは完璧なスパイであり、ウォルターも天才発明家。同じ超人ながらも、その実中身はまったく違う。ランスは「火には火をもって戦うべし」という信条があり、敵に容赦なく攻撃をいれる。ウォルターは平和的解決を願っていることから、敵を傷つけずに戦意を喪失させる手りゅう弾などを開発するのだ。

この考え方の違いは、作中で何度も表面化する。たとえば、追っ手を避けるために武力行使をしようとするランスを止めてまで、ウォルターは人を傷つけないように逃れる方法を実行する。ウォルターの取った行動は時に、危機的状況に陥る場面もあり、ランスに叱咤されることもしばしば。逆にウォルターの執った指揮によって、人を傷つけずにミッションを完了することもある。

さらに言えば、ランスは一匹狼でウォルターはチームワークを大事にする。ランスはこれまでに幾度も一人でミッションをクリアしてきた実績があるからだ。何事も一人で遂行するスパイになってしまうのも当然であった。

ウォルターはどうだろうか。彼は小さい頃から「変人」として虐められてきていた。大人になっても変わらず「変人」で、誰も傷つけないスパイアイテムを作っているのがその証拠だ。しかしウォルターが自分を肯定的に受け止めここまで来れたのは、母親で警察官のウェンディ・ベケットがチームを信じ、彼の発明を支持していたからにほかならない。

今に至るまでのストーリーがあるのだ。それぞれバックボーンがあるからこそ、時に衝突することもある。考え方自体はどちらも正義であり、それをジャッジするのは2人にとっては難しいのだ。

本作では、この考えの違いがどのように成長していくのかも見どころ。ウォルターとハトになってしまったランスはいかにしてミッションをクリアし、その過程で価値観が変わっていくのかどうかに非常に注目してほしい。

●作品概要


『スパイ in デンジャー』(原題:Spies In Disguise)
監督/トロイ・クエイン、ニック・ブルーノ
ランス・スターリング役/ウィル・スミス(鶴岡聡)
ウォルター・ベケット役/トム・ホランド(田谷隼)
キリアン役/ベン・メンデルソーン(内田直哉)
マーシー・カペル役/ラシダ・ジョーンズ(佐古真弓)
アイズ役/カレン・ギラン(下山田綾華)
キムラ役/マシ・オカ(石上裕一)
「Disney+ (ディズニープラス)」で配信中

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