マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、いまの情勢やコロナ禍での市場について語っていただきます。
新型コロナウイルスの新規感染者数は、世界的にみれば増加傾向が続いています。先進国では総じて4月以降減少傾向にありますが、米国では南部や西部の州を中心に6月中旬以降は増加基調に転じています。日本の状況は皆さんご存知の通りです。
NASDAQ総合指数は史上最高値
そうしたなか、米国の主要株価指標であるNYダウ(ニューヨーク・ダウ、ダウ工業株30種平均)は、今年2月12日に史上最高値を付けた後、3月下旬にかけて4割近く下落。しかし、その後は順調に回復し、下落幅の約7割を回復しています(7月15日現在)。
NASDAQ総合指数にいたっては、7月10日に最高値をつけており(13-14日は小幅下落)、その時点で「コロナ・ショック」前の最高値(2月19日時点)を8%上回っていました。
NYダウとNASDAQ総合指数の違いは、後者がIT株を多く含んでいること。その中核がフェイスブック、アマゾン・ドット・コム、ネットフリックス、グーグル(現アルファベット)という、いわゆるFANGです。FANGは在宅での利用が中心なので、「コロナ」によってそれらのサービスへの需要が高まって優位性が強く意識されているのでしょう。結果的に「コロナ」に強い銘柄と言えるでしょう。
逆に、NYダウは従来型産業の株も多く含むので、「コロナ」以前の経済活動にはそう簡単に戻らないという投資家の懸念が反映されているのかもしれません。
米国の4-6月GDPは前期比年率30超のマイナス!?
もっとも、米国の足もとの経済情勢に鑑みれば、NYダウも健闘していると言えそうです。
7月30日に発表される4-6月期のGDPは、アトランタ連銀の短期予測モデルが7月9日時点で前期比年率マイナス35.5%と予測しており、誰も見たことがない悲惨な数字になりそうです。
米雇用統計のNFP(非農業部門雇用者数)は5-6月に計750万人増加しました。通常であればびっくりするほど大幅な増加ですが、3-4月の減少分(2,216万人)の3分の1しか戻っていない計算です。同様に、失業率は4月の14.7%から6月に11.1%に低下しました。しかし、第二次大戦終了以降のそれまでのピークは1982年11月の10.8%であり、依然としてその水準を上回っています。
金融緩和と財政出動
それでも株価が比較的堅調なのは、3月以降の積極果敢な金融緩和や財政出動を好感してのことでしょう。
中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)は3月に、2015年12月以来となる「ゼロ金利政策」へ回帰し、2014年10月に終了したQE(量的緩和=国債などの資産購入)も無制限で再開しました。それ以外にも、FRBは地方自治体や企業、家計に直接的に金融支援を行う、総額2兆ドル超の9つの政策プログラムを稼働させました。
一方、連邦政府も3月以降、次々と景気対策を打ち出してきました。3月下旬には、家計への一時金給付や失業保険の上乗せ、地方自治体や企業への融資を柱としたCARES法(コロナ支援・救済・経済保障法)が成立。ブルームバーグによれば、CARES法を含めてこれまでに4本の景気対策が打ち出されており、それらの総額は2.9兆ドルで米国の経済規模(GDP)の15%にも相当するとのことです。
景気は自律回復軌道に戻るか
繰り返しますが、株価の堅調は、金融緩和や財政出動を好感して景気回復の「期待」を反映しているのでしょう。株価の強気材料として最近目にするワクチン開発の「期待」も、結局はそれによって経済再開が順調に進んで景気が回復するとの観測につながっているのでしょう。
株価は将来に対する「期待」を反映します。そのため、「期待」が「失望」に変われば、それなりの反動もやむを得ないところでしょう。金融緩和や財政出動が効力を持つ間に景気が自律的な回復軌道に戻るかは不透明です。とりわけ、「コロナ」の感染が再び拡大に転じ、多くの州や都市で「経済再開」が停止したり、一部逆戻りしたりしている状況は、その不透明感を大いに高めています。
4-6月期の決算発表に注目
さて、今週(7月13日-)から米企業の4-6月期の決算発表が始まりました。上述したように4-6月期の景気は非常に悪かったので、その時期の決算も惨憺たる結果になるのは間違いなさそうです。
そのうえで、年後半に向けてどのような業績見通しが示されるかが非常に興味深いところです。「経済再開」が一進一退となるなかで、「コロナ次第」「非常に不透明感が強い」などの言葉が並ぶかもしれません。ただ、そうした中から投資家がどのようなメッセージを受け取るか。決算発表が当面の米株の行方を左右しそうです。
なお、本稿執筆時点(7月16日)で、主要企業はまだ数社しか4-6月期の決算発表を行っていません。先陣を切った大手金融機関によれば、金融市場が大きく動揺したことで過去最高のトレーディング益を計上したところもありました。また、上述の金融緩和や財政出動の影響で融資の焦げ付きはさほど膨らまなかった模様です。ただし、各金融機関とも巨額の貸倒引当金(※)を積み立てています。足もとの業績はさほど悪くなかったようですが、決して先行きに対して楽観視しているわけではなさそうです。
(※)貸倒引当金(かしだおれひきあてきん): 現時点で返済は滞っていないが、将来的な損失に備えて予め計上しておくこと