新型コロナウイルスの影響で日常の社会生活が大きく変わるニューノーマル時代。リクルートマネジメントソリューションズでは先ごろ、2020年の新入社員意識調査に基づくWeb説明会を開催した。調査・分析から見えてくる新入社員教育における注目すべきトレンドと考察をレポートしたい。

  • 新人教育について注意するべきことを把握していますか?

 10年間の意識調査から見えてくるトレンド

「企業は人なり」。言い古された格言ではあるが、不変の真理のひとつ。コロナ禍で社会生活のパラダイムシフトが起きる中、社員教育の在り方も大きく変わることが求められる。説明会はまず、同社研究員の小松苑子氏による新入社員意識調査の結果分析から始まった。

  • ※働きたい職場 提供:リクルートマネジメントソリューションズ

「注目すべき結果のひとつは、『働きたい職場』に対する意識の変化です。ここ3年間は、『お互いに助け合う』『アットホーム』『お互いに個性を尊重する』が不動のトップ3です。逆に、『活気がある』『お互いに鍛えあう』の2項目は、ポイントが下がり続けています」(小松氏)

少し前の「ゆとり教育」の時代、幼稚園の運動会の駆けっこで、みんなで手をつないでゴールするというのを聞いたことがある。行き過ぎた結果平等主義だと思うが、この調査結果から見えてくるのも、競争を良しとしない若者たちの意識だ。

  • ※上司への期待 提供:リクルートマネジメントソリューションズ

「新人教育に大きく関係する項目でも、見逃せないトレンドがあります。とりわけ『上司への期待』では、『相手の意見や考え方に耳を傾けること』や『1人ひとりに対して丁寧に指導すること』等が上昇する一方で、『言うべきことは言い、厳しく指導すること』等は過去最低になりました。つまり、熱血型リーダーではなく、丁寧に指導・傾聴・認知できる支援型のリーダーが期待されているようです」(小松氏)

上司や先輩ビジネスパーソンからすれば、少し物足りない意識かもしれない。だからといって「最近の若者は……」と言っていても問題の解決にはならない。これらの調査結果を踏まえた上で、新人に向き合う必要がありそうだ。

職場には競い合いより多様性の尊重が求められる

上記の意識調査だけでは分からない若手の特徴を測るため、仕事をする上で大事したい価値観等を尋ねる調査結果も紹介され、こちらも大変興味深いものだった。

  • 仕事をする上で重視したいこと 提供:リクルートマネジメントソリューションズ

「『仕事をする上で重視したいこと』では、『成長』と『貢献』の項目に対する関心が高く、『創造』や『仕事以外』、『金銭』、『ビジョン』、『競争』といった項目への関心は10%未満になっています」(小松氏)

この結果は、昨今言われている欲のない若者像を裏付けたものになった。一方で、自己成長や社会の役に立つ貢献に対する関心が高いことは、これからの新人の育成を考える上で、大きなヒントになるのではないだろうか。

  • 理想の職場について 提供:リクルートマネジメントソリューションズ

「また、『理想の職場』についての意識調査では、『困っているときに助け合う』や『一致団結』、『互いに個性を尊重する』といった職場を理想とする新入社員が7割を超える一方、『互いによきライバルとして競い合う』は、それほど強く求められていないという結果が出ています」(小松氏)

こうしたデータをもとに小松氏は、以下のような考察を述べる。

「新入社員の意識調査から見えてくるのは、『新しいモノを恐れず、率先して試行挑戦する』ことへ関心が低い新入社員像。仕事の経験がないため、まずは任された仕事を着実にこなすことを意識しています。『失敗から学ぶことに意味がある』と考えず、『失敗すると生産性が落ちる』という効率性を重視した判断が勝るようです。逆に、『とにかくやってみて』とヒントも無く指示すると、(上司が自分を)失敗させようとしていると誤解する危険も」(小松氏)

これらへの対処法として、小松氏は「仕事の意味や目的を明確に伝えること」や「個人のチャレンジを奨励する仕組みを作ること」等を挙げている。

コロナ時代は新人教育をアップデートする最大の機会

では、これからのニューノーマル時代、新入社員に対してどういった教育を行うべきなのか。同社の主任研究員 桑原正義氏は、After/Withコロナ時代を新人教育のアップデート機会として、育成や発想を切り替えようと説く。

「今回のコロナ問題で、リーマンショック以降に言われてきたVUCA(※)環境が加速するのは間違いありません。これまで以上に、正解がなく不確実なビジネス環境になるわけです。そのため、育成のアップデートでは、従来の『言われたことをできる力』ではなく、自分で考え、学び、探求する『Try&Learn』の力を育てる必要があります。そして、そういった力を育てるのが、共に考え、学びあう『受信・共創型育成』です」(桑原氏)

※VUCA:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語

このことは、新入社員に限らず、すべてのビジネスパーソンが肝に銘じることだろう。また、『受信・共創型育成』では、新人のトライを阻害する大きな要因である不安や恐れを取り除き、安心や信頼を醸成する対応が重要だと言う。

若者と共に組織・マネジメントを創り上げる時代

「発想のアップデートでは、従来の『若者は未熟だ』や『教育とは教えるものだ』といった発想から、『若者から学ぶ』『若者の個を生かす』といった発想への転換をしてみましょう」(桑原氏)

確かに意識調査の結果を踏まえると、従来型の発想のままでは新入社員の育成はままならないだろう。未熟と見られがちな若者にも、情報リテラシー等の強みがあり、仕事の価値を明確に示せば、やる気を持って取り組む意識がある。これらを活用しない手はない。

実際、同社では若者から学ぶ大人の特徴や事例を研究する「オトマナプロジェクト」をWebサイトで配信し、上司や先輩といった大人が新たな視点や学びを獲得することを支援している。

これからは、若者たちと共にニューノーマル時代にふさわしい組織・マネジメントを創り上げていくことが求められるようだ。