「クールジャパン」の名の下に、日本の文化は世界へと発信されている。アニメ、マンガ、アイドル、コスプレ......好きなジャンルに熱を上げる"オタク"は、世界各地に存在しているのだ。海外に住むオタクたちはいったいどのように推しへの情熱を注いでいるのだろう。そんなオタクの生態を覗く「海外オタ女子事情」(KADOKAWA)が刊行された。

「海外オタ女子事情」は、オタク女子集団「劇団雌猫」が6人の海外にルーツを持つオタク女子へのインタビューをメインに世界各地のリアルなオタク事情をまとめている。この度、出版を記念してトークイベントを開催。イベントには本を作った劇団雌猫のもぐもぐさんとひらりささん、そして世界を渡り歩くオタク女子としてコラムを寄稿したPashimo(パシモ)さんが登壇した。

  • 劇団雌猫が「海外オタ女子事情」刊行記念のトークイベントを開催

    劇団雌猫が「海外オタ女子事情」刊行記念のトークイベントを開催

海外のアニメイベントを練り歩く猛者

Pashimoさんは、学生時代にアメリカやフランス、香港などで6つの大学に留学し、その際に世界各地のアニメイベントを渡り歩いた世界を放浪するオタク女子。ブログ「Otaku Crossing!」で各国のアニメイベントやオタク事情について発信している。そんな彼女が、リアルな海外のトレンドを紹介した。

海外のオタクはそもそもどこから日本のアニメやマンガにハマるようになるのか。Pashimoさんによると、もともと限られたテレビ放送や映像ソフト、海賊版動画でのみ楽しまれていた日本のアニメが、正規の動画配信プラットホームを通じて、各国で公式に配信されるようになったことがファン層拡大の要因として考えられるという。新作アニメが国内外で同時に配信されることも多くなり、SNSを通したボーダレスなファンの交流も活性化。世界各国に日本のアニメが進出している。

日本では大きなアニメイベントとして「AnimeJapan(アニメジャパン)」や、同人誌即売会である「コミックマーケット」が開催され、その来場者数は2019年12月に行われたコミックマーケットで累計75万人と過去最高を記録するほどの人気を博している。

このようなイベントは海外でも開催され、地域によって日本のイベントとは似て非なる特色がみられるという。世界各地のイベントを練り歩いたPashimoさんがその様子を語った。

  • アメリカで行われたアニメイベントの様子

    アメリカで行われたアニメイベントの様子

アメリカ

「商業イベントや同人即売会、コスプレイベントなどに特化した日本のイベントと違い、アニメに関するあらゆる企画を楽しむことができる総合型コンベンションです。日本の同人誌即売会は本を買うのがメインですが、アメリカではプレゼン形式で聴衆の前で推しの紹介や作品の考察をする『ファンパネル』や、ステージ上で演技をする『マスカレード』(コスプレ)、舞台上で異なるアニメ作品のコスプレイヤー同士がキャラになりきり、2人がもしもお見合いをしたら……などの設定で寸劇を演じて見せるイベントなどがあり、自己表現が盛んな国ならではの雰囲気がありました」

台湾

「自分が訪れた最初の海外のイベントです。『Comic World Taiwan(コミックワールド台湾)』という同人即売会イベントが行われています。同人誌よりグッズ主体の販売会で、日本ではこのようなイベントはジャンルごとに売り場が分かれていますが、台湾は混在しているのが特徴的でした。一方、日本と同じかそれ以上にマニアックな内容の本も売られていて、好きなものを好きなように愛でる心は万国共通と感じました」

フランス

「パリで開催される、日本でも有名な『Japan Expo(ジャパンエキスポ)』や『Paris Manga』など、ジャパンカルチャーを楽しむイベントが数多く行われています。フランスでは日本のBLマンガ翻訳専門出版社もあり、BLも高い人気を誇っている印象です。最近はイベントの商業化が進んでいることが、往時のファン主導のイベントを楽しむ人々には少し不満との声も」

香港

「ホテルや展示会場を利用した同人誌即売会に加え、大学構内でのアニメイベントも活発・学生が主体で企画をすることも多いようです。大学で行われるイベントも一般に開かれており、コスプレイベントに学生や一般人が参加していました。『アニメ専門の文化祭』といった趣です。同人イベントでは日本でもおなじみの最後尾札を見ることもでき、即売会風景は日本ととても似ています」

  • 日本でもよく見かける「最後尾札」を持つ人

    日本でもよく見かける「最後尾札」を持つ人

イスラエル

「『CAMI』と呼ばれる『Convention of Anime and Manga in Israel(コンベンションオブアニメアンドマンガ)』は、3,000~4,000人が参加する大きなイベントでした。メインはコスプレですが、同人誌やグッズの販売もあります。特徴的だったのはミリタリーのコスプレ……ではなく本物の軍服姿の参加者がいたこと。イスラエルは兵役義務がある国なので、アニメやマンガが好きな若者が休憩時間に買いに来ているようでした」

アニメ・マンガのこれからのトレンドは?

世界各地で盛り上がるアニメイベント、現在は新型コロナウイルスの影響で開催の中止が決定しているものも多い。しかし、時代はデジタル化が進み、直近ではオンラインアニメイベント「Anime Expo Lite」が7月3・4日に開催された。

日本のアニメ業界市場が2兆円を超える中、海外での売り上げが年々増加し、その規模は1兆円を超えるほどだ。海外で誕生したアニメやマンガが世界中で人気になることも。今後、世界で流行るであろう作品はあるのだろうか。

「日本原作のものはすでにアニメ化していて、人気が出ているというものが多いため、韓国や中国のマンガが伸びてくるのかなと思います。韓国の小説原作のマンガ『Only I Level Up(Solo Leveling)』やWebマンガの『The Beginning After The End』が人気を集めています。人気原作ジャンルの傾向としては異世界転生、BL、乙女系です」

  • 韓国の小説が原作となった「Only I Level Up(Solo Leveling)」(左)

    韓国の小説が原作となった「Only I Level Up(Solo Leveling)」(左)

  • 人気原作ジャンルの傾向は異世界転生、BL、乙女系

    人気原作ジャンルの傾向は異世界転生、BL、乙女系

このような作品がなぜ世界で人気になるのか、その理由はPR方法にあるとPashimoさんは推測する。

「韓国のWebマンガサイト『Webtoon』は公式サイトでファンが翻訳をすることができます。まだ翻訳されていないものはファンが自分たちで翻訳を付けることができる。多く翻訳した人は作品へ貢献したと評価されます。日本のコンテンツはどうしても言語の壁があるのでもっとフレキシブルにできたらファンも喜ぶし、一石二鳥になるのではと思います」

世界に広がるアニメ、マンガ文化。淀みなく次から次へと言葉を紡ぐPashimoさんからは、オタクの最前線を行く熱い姿勢が感じられた。

今回発売された『海外オタ女子事情』は、アニメやマンガの他、関ジャニ∞の大倉忠義さんにハマった上海出身のジャニーズオタクや、日本のバンドマンと結婚した台湾出身のバンギャル(ビジュアル系バンドのファン)、新選組の土方歳三に熱を上げ聖地巡礼に勤しむイタリアの歴女など、各国の多種多様なオタク女子へのインタビューが収録されている。

海外どころか国内でも移動が難しい今、世界のオタク女子の熱量に触れてみるのもいいだろう。

新刊『海外オタ女子事情』

『浪費図鑑』で話題のオタク女性4人組が、世界の同志のリアルを徹底調査! タイBLが世界を席巻? 中国ではロリータが大流行? ヒロアカはもはや不朽の名作? ジャニオタ、バンギャ、新選組オタなど、世界に散らばる同志のオタク履歴書とともに、各国のオタクカルチャーをまるっと紹介! KADOKAWAより上梓されており、価格は税別1,300円。


劇団雌猫

もぐもぐ、ひらりさ、かん、ユッケのアラサー女性4人組からなるサークル。インターネットで知り合い意気投合した4人が、インターネットでは語られない「周りのあの子」の本当のところを知りたい! という純粋な興味から2016年冬に同人誌『悪友』シリーズの制作を始める。主な書籍は、「浪費図鑑―悪友たちのないしょ話―」(小学館)「本業はオタクです。シュミも楽しむあの人の仕事術(中央公論新社)「だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査」(柏書房)
Twitter:劇団雌猫