名人戦を戦っている両者の対決は渡辺三冠に軍配。角換わりの将棋で豊島竜王・名人の粘りを振り切る

永瀬拓矢王座(叡王)への挑戦権を争う、第68期王座戦挑戦者決定トーナメント(主催:日本経済新聞社)の準決勝、▲渡辺明三冠-△豊島将之竜王・名人戦が、7月13日に関西将棋会館で行われました。名人戦七番勝負を戦っている真っ最中の両者。竜王・名人対三冠という棋界頂上対決を制したのは、渡辺三冠でした。

戦型は両者得意の角換わりに。この戦型ではおなじみの、持ち時間をほとんど使わない猛スピードでの駒組みを経て、豊島竜王・名人が新手を披露しました。前例では後手が全敗している形を、豊島竜王・名人があえてこの大舞台で採用したのは、この新手を試したかったからでしょう。

新手と言っても、従来は△3一玉としていたところを、△4一玉と一路ずらしただけ。これによって何がどう変わるのか、我々アマチュアにはすぐには分かりませんが、違いは数手後に明らかになりました。渡辺三冠の仕掛けに対し、豊島竜王・名人は△5二玉と玉を5筋に配置し、バランス重視の陣形で対応。今までは△2二玉として玉を固めて応戦していたため、全く異なる戦いになりました。

しばらく手が進んで、後手に岐路が訪れます。手待ちをして様子を見るか、仕掛けていくかです。豊島竜王・名人は約43分考えて、桂を歩の頭に捨てる強攻策を採りました。桂を犠牲にすることで8筋に拠点を作りつつ先手に壁形を強要できるので、バランスが取れていると見たのでしょう。

ところが、渡辺三冠の桂を用いた反撃が見事で、その見立ては間違っていたことが明らかになります。後手の6筋からの攻めに対して▲5八桂と自陣桂を設置。この桂は▲6六桂~▲7四桂(5四桂)とぴょんぴょん跳ねていく狙いがあります。さらには▲7七桂と自陣の桂を活用、そして▲8四桂と持駒の桂を打って、盤上左辺の3枚の桂で敵陣ににらみを利かせました。

やむなく豊島竜王・名人は銀で桂を食いちぎり、その桂を受けに投入しましたが、形勢は渡辺三冠が優勢に。豊島竜王・名人は自ら攻めていく手段がなく、渡辺三冠の攻め間違いを待つという苦しい展開になってしまいました。

しかし、さすがは渡辺三冠。真綿で首を締めるかのような、遠巻きながら着実な攻めでじわじわと優位を拡大し、豊島竜王・名人にチャンスを与えません。最後は飛車をタダで捨てる、鮮やかな決め手を放ち、勝利を収めました。

この結果、渡辺三冠は挑戦者決定戦に進出。自身初の同時四冠へ一歩前進しました。挑決の相手は久保利明九段-大橋貴洸六段戦の勝者です。久保九段は「さばきのアーティスト」の異名を持つトップ棋士。振り飛車党の第一人者であり、タイトル獲得7期の実績を誇っています。

一方の大橋六段は所司和晴七段を師匠に持つ、渡辺三冠と同門の棋士です。藤井聡太七段と同じく2016年10月に四段に昇段。毎年好成績を残し、通算勝率は7割3分を超えています。また、若手棋戦の第3回YAMADAチャレンジ杯、第8期加古川青流戦で優勝を果たすなど、着実に実績を積み重ねている若手有望株です。今期王座戦では、二次予選決勝で藤井七段を破るなど、快進撃を見せています。

名人戦、棋聖戦でタイトル戦を戦いつつ、他棋戦でも活躍を見せる渡辺明三冠
名人戦、棋聖戦でタイトル戦を戦いつつ、他棋戦でも活躍を見せる渡辺明三冠