新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、多くの中小企業が経営の危機に直面しています。日本の宝である中小企業が生き残っていくために、ITの力をどう活用すればよいのか、会計事務所・税理士として、士業はどんな経営支援ができるのか。本稿では、税理士でありながら幾つもの事業を立ち上げてきた連続起業家のSAKURA United Solution代表・井上一生氏が専門家と対談。

前回に引き続き、自治体が発信する補助金・助成金・制度融資などの情報をAIが瞬時にマッチングしてくれるシステム「情報の泉」を開発したグランドツーの出口グラウシオ氏に話をうかがってきました。

  • IT×士業の力でコロナ時代の経営支援を推進【後編】


要望に応じて常に改善を続ける

井上一生氏(以下、井上)――「出口さんが開発されたシステムは、私たちのような士業だけでなく、いろいろな企業でも利用されますよね」

出口グラウシオ氏(以下、出口)――「そうですね。最近では、あるビールメーカー様が飲食店のお客様を支援するためにシステムを導入してくださいました。他には、銀行・金融機関、保険会社、コンサルティング会社の皆様にも導入していただいています。

どんなビジネスでも、その根底にあるのは、どうお客様に役立って信頼関係を深めていけるか? だと思うのですが、私たちは開発者の立場ですから、導入いただいた企業様からの要望に応じて常に改善・ブラッシュアップを続けるようにしています。

提案書までワンクリックで出てくるようにしたのは、実は私のアイディアではなくてビールメーカー様からのリクエストです」

  • (左) 出口グラウシオ氏、(右)井上一生氏

支援制度は会社を強くするために活用する

井上――「出口さんとお話していると、元浦和レッズの田中マルクス闘莉王選手を思い出すのですが、実は闘莉王元選手は弊社のお客様だったんです。とても計画的な方で、サッカー選手として得た収入の一部をブラジルでの事業資金として積み立てられていたと聞いています。

なにか大きなことを成すには、資金が必要なわけですが、中小企業がもっと補助金や助成金を活用することができれば、その分を本業を成長させるための資金にできたり、財務体質をより良くしたりすることにも役立ちます。

ときどき、『もらえるなら、もらおう』と補助金や助成金を申請する方もいらっしゃいますが、本来的には会社をより強くするためにある。補助金・助成金は、あくまでも会社を強くするための手段であって、得ることが目的なわけではないんですよね」

出口――「そうですね。自社の特許取得費にも補助金を活用しているのですが、ときどき補助金や助成金をもらうために会社の在り様を変えてしまう経営者の方もいらっしゃいます。目的の達成のために補助金や助成金があるわけですから、あくまでも手段なんですよね。

地域・自治体が発信している支援情報を知るきっかけとしてシステムを活用していただければ嬉しいですし、それによって中小企業の方々が今の向かい風を乗り切るきっかけになれば、開発者としてとても嬉しいことです」

次の有事のために銀行との付き合い方を再考する

出口――「井上さんも実際にシステムを利用してみて、いかがでしたか?」

井上――「一般的な会計事務所は、帳簿代行や申告書作成しかしていないのですが、もっと本質的な経営支援がしたいと思い、私たちも日々模索しています。既存顧客の経営支援のために導入したのですが、やはり補助金や助成金、制度融資は経営者の方々の関心が高いですね。とても満足していただいていますし、新規顧客にもご提案させていただいています。

また、自社でもシステムを活用するようにしています。弊社でも、制度融資など300弱の種類が該当しました。制度融資などをもっと活用することで、今は『借りられるなら借りておく』という方針に変えています。融資をお断りすることもあったのですが、借りる練習をしているところです。キャッシュイズキングと言いますしね。潤沢な資金調達ができれば、使うべきところに資金を投入することができるようになります」

出口――「システムを活用していただけて嬉しいです。井上さんは税理士としてたくさんの経営者をみてきたと思いますが、平時と今回のような有事とでは、銀行や金融機関との付き合い方も変わるのでしょうか?」

井上――「そうですね。無借金経営を誇る方もいらっしゃいますが、経営者としては良くないことだと思います。銀行や金融機関とは、普段からお付き合いをしておくことが大切です。

今回のコロナショックのようなことが、次また起こる可能性はあるわけです。有事にこそ、銀行や金融機関との関係性が活きます。コロナショックの対応にも、また事業を拡大するにしても、経営の多角化や業種転換をするにしても、やはり資金が必要になりますから」

出口――「なるほど」

井上――「出口さんは、今後どんな展開を考えていらっしゃいますか?」

出口――「今後は、申請の完全自動化を目指しています。また、入札や引っ越し先選び、ビジネスマッチングなど、補助金・助成金などとは違った領域にもノウハウを活かして展開したいと思っています。だれかとお会いする度に刺激やアイディアをいただくので、やりたいことは尽きないですね」

井上――「ベンチャー精神と行動力のある出口さんでしたら、実現できそうですね」

執筆者プロフィール : 井上一生

税理士、行政書士、ロングステイアドバイザー。税理士でありながら、幾つもの事業を立ち上げてきた連続起業家。SAKURA United Solution代表(会計事務所を基盤に、国税出身税理士・税理士・社会保険労務士・行政書士・弁護士・銀行出身者などを組織化した士業・専門家集団)。SAKURA United Solutionのビジョンである「経営の伴走者 ~日本一の中小企業やスタートアップベンチャーの支援組織になる~」という言葉の基、"100年企業を創る"という壮大な目標をアライアンス戦略で進めている。