マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、いまの情勢やコロナ禍での投資家の動きについて語っていただきます。

  • 投資家の「リスク選好」は続くのか


世界経済は厳しいリセッションに

新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、世界経済は厳しいリセッション(景気後退)に直面しています。

IMF(国際通貨基金)は、6月の世界経済見通し(WEO)で、2020年の世界の経済成長率は-4.9%になるとして、マイナス成長を予測しました。とりわけ、先進国経済への打撃が大きく、米国は-8.0%、ユーロ圏は-10.2%、日本でも-5.8%が予測されています。

もっとも、主要国の政府や中央銀行が迅速かつ思い切った財政出動や金融緩和に踏み切ったため、世界経済は20年後半に最悪期を脱し、2021年には5%のプラス成長を達成するとIMFは予測しています。

金融市場は景気回復を先取り!?

そうした世界経済の回復を、金融市場は先取りしているようです。足もとで、米株は2月下旬から3月中旬の急激な落ち込みのかなりの部分を取り戻しています。IT株が多く含まれるナスダック総合指数にいたっては、「コロナ」前の史上最高値を6月に入って更新しており、さらに上値をうかがう展開です。米株ほどではないですが、世界の主要株価指数も概ね回復基調を維持しています。

為替市場でも投資家心理の変化がハッキリと見えます。主要な通貨を強い順番にならべると、3k~4月は、"円>米ドル>その他先進国通貨"と続き、新興国通貨は下位に沈みました。円や米ドルといった、いわゆる「安全通貨」が上位に来るということは、投資家のリスク回避(いわゆる、リスクオフ)が強いことを示します。

しかし、5月以降では、オーストラリアドルやニュージーランドドル、南アフリカランドなどが上位にきて、円や米ドルはほぼ最下位でした。投資家のリスク選好(リスクオン)が強いことを示しています。

投資家のリスク選好は続くのか

前出のIMF世界経済見通しは、「コロナ」の状況が重要なカギを握るとしています。そして、感染のピークが過ぎた場所で、第2波が発生して外出規制やロックダウン(都市封鎖)へ後戻りするケースを指摘し、「経済が下振れするリスクは引き続き非常に大きい」と結論付けています。

世界経済の下振れリスクが現実のものとなった場合、投資家は少なくとも一時的にはリスク回避を鮮明にするのではないでしょうか。

世界全体をみれば、新規感染者は足もとでも日々増加傾向にあります。先進国でピークアウトした感がある一方で、ブラジルやインドなどの新興国では早いペースで新規感染者が増加しています。

米国では大統領選挙も絡んで懸念すべき状況も

先進国の中でも、米国の状況には警戒が必要でしょう。初期の感染の中心だったニューヨーク(NY)やニュージャージー(NJ)などの北東部の州では感染は落ち着いてきました。しかし一方で、フロリダ(FL)やテキサス(TX)、カリフォルニア(CA)など、南部や西部の州では新規感染者数が増加傾向を強めています。実際、ニューヨークなど北東部の州は、南部や西部の16州からの来訪者に対して、2週間の自主隔離期間を義務づけています。

南部や中西部はもともと共和党の支持が強く、そのため州知事の多くは共和党です(北東部の州では民主党の州知事が多い)。そして、11月に大統領選挙の投票を控え、このことが大きな問題になってくる可能性があります。

世論調査の支持率でバイデン民主党候補の後塵を拝しているトランプ大統領にとって、再選のカギは景気回復であり、雇用や所得の復元でしょう。そのためには、外出規制やロックダウン(都市封鎖)を解除して「経済を再開させる」必要があります。そして、州や都市の首長の協力が不可欠なわけです。

南部や中西部の州知事はトランプ大統領の再選をサポートするためにも、感染状況にかかわらず強引に「経済再開」を進めるかもしれません。短期的には景気回復を早めるかもしれませんが、感染拡大に歯止めがかからなくなれば、厳しく長いロックダウンへ逆戻りすることになるかもしれません。

足もとの感染拡大に歯止めがかかるか

足もとの感染拡大を受けて、テキサスやフロリダ、カリフォルニアでレストランや映画館の営業停止やビーチの封鎖などの措置が打ち出されました。共和党の州知事であっても(カリフォルニア州知事は民主党)、州民の安全を守ることを優先したのでしょう。「経済再開」に一時的にブレーキをかけるかもしれませんが、長い目でみれば「経済再開」をより確かなものにするかもしれません。

もっとも、経済活動を再制限する今回の措置が感染拡大に歯止めをかけるのに十分なのか、その答えが出るにはまだしばらく時間がかかりそうです。