藤井聡太七段が強すぎる内容で渡辺明三冠に完勝! 棋聖のタイトル獲得まであと1勝に迫る
第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第2局(主催:産経新聞社)が6月28日に東京・将棋会館で行われました。挑戦者の藤井聡太七段が渡辺明棋聖に先勝して迎えた第2局は、90手で藤井七段が勝利。連勝で初タイトル獲得まであと1勝としています。
先手番の渡辺棋聖の戦型選択は、第1局と同じく矢倉でした。第1局で敗れた戦型を改めてぶつけるところに気合いを感じます。
それに対し、後手の藤井七段は序盤から細かい工夫を見せます。それは5筋の歩を突かないというもの。従来の矢倉では、角を△3一角~△6四角と使うために△5四歩と突くのが当たり前でした。ところが藤井七段は早々に△3一角と引いたものの、一向に△5四歩と突きません。これでは角が使えないままです。素人目にはすぐには意味が分かりません。
渡辺棋聖は▲4六歩と4筋の歩を突き、「米長流急戦」と呼ばれる急戦の構えをとります。米長邦雄永世棋聖がこの作戦を得意としていたため、この名がつけられましたが、当時は後手番の作戦でした。しかし、現代矢倉において先手は▲7七銀型矢倉が主流となったため、先手の作戦として復活しています。▲7七銀型矢倉は▲6六歩型矢倉とは違い、▲6六銀と出ることができ、角と銀との協力で攻めていけるのです。
やがて、「米長流急戦」が流行した30年前の将棋を先後反転させたような局面が現れました。しかし、当時とは決定的に異なる箇所が一つありました。それは後手が5筋の歩を突いていないところです。後手番で用いられる通常の米長流急戦では5筋と6筋の歩を突き捨てて攻めていきます。ところが藤井七段は5筋の歩突きを保留しているため、5筋が争点にならないのです。
5筋で戦いを起こせない渡辺棋聖は4筋から仕掛け、桂を跳ねていきました。藤井七段は角を△2二角と初期配置に戻し、攻めに備えます。先手が2筋の歩を交換し、飛車を引き揚げた局面で、驚きの一手が飛び出しました。
それが△5四金の「歩越し金」。四段目に金銀3枚を並べるという、今まで見たことがないような形です。しかし、これが好着想でした。藤井七段は「△5四金はやってみたい手だった」と局後のインタビューで答えています。5筋保留から△5四金は用意の作戦だったようです。渡辺棋聖は局後「大胆な指し方でこられた。均衡が取れるように指していたつもりだったが、一気にバタバタとダメになってしまった」と振り返りました。
その後、両者とも4筋に飛車を転回し、本格的な戦いが始まりました。銀交換から角交換が行われ、渡辺棋聖が2二の金取りに▲6六角と打ちます。ここで△5四金に続く、さらなる妙手△3一銀が放たれました。この手は持ち駒の銀を打って金取りを受けただけの手。普通に考えれば先手好調です。しかし、ここで先手の攻めを食い止めてしまえば、後手からの反撃手段が多く、後手有望になるという深い読みに基づいた一着でした。
渡辺棋聖は自身のブログでこの手をこのように振り返っています。
「△31銀は全く浮かんでいませんでしたが、受け一方の手なので、他の手が上手くいかないから選んだ手なんだろうというのが第一感でした。50分、58分、29分、23分という時間の使い方と△31銀という手の感触からは先手がいいだろう、と。(中略)感想戦では△31銀の場面は控室でも先手の代案無しということでしたし、控室でも同じように意表を突かれたと聞いて、そりゃそうだよなと納得したんですが、いつ不利になったのか分からないまま、気が付いたら敗勢、という将棋でした。」(渡辺明ブログより)
その後は藤井七段の華麗な攻めを見るばかりに。流れるような攻めで一気に渡辺玉を寄せ切ってしまいました。結局、渡辺棋聖は△3一銀以降、攻めの手を▲3四歩という1手だけしか指せませんでした。
新構想から受けの妙技を繰り出し、完勝した藤井七段。これで2連勝とし、タイトル獲得まであと1勝です。第3局は7月9日に行われます。この五番勝負で藤井七段がタイトルを獲得すれば、屋敷伸之九段の持つ18歳6カ月の最年少タイトル獲得記録の更新は達成されますが、もし次局で勝てば史上初の17歳タイトル保持者となります。
大注目の第3局の前にも、藤井七段には大きな舞台での対局が控えています。それは7月1日から始まる第61期王位戦七番勝負です。こちらは木村一基王位に挑戦する番勝負。初の2日制対局で藤井七段がどのような将棋を見せてくれるのか。楽しみでなりません。