俳優の中川大志が、人気ゲーム『ソニック』シリーズのハリウッド実写映画『ソニック・ザ・ムービー』(6月26日公開)で、主人公・ソニックの吹き替えを担当。3度目の声優挑戦にして主演の大役を任された。

『ちびまる子ちゃん イタリアから来た少年』(15)と『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』(17)で声優として高い評価を受けた中川だが、本作でも、試写を鑑賞した記者たちから称賛の声が上がっており、ドクター・ロボトニック役の山寺宏一も「素晴らしい」「声優をやったらいくらでも活躍できる」と大絶賛している。

中川はどのように声優の仕事と向き合い、役を作り上げているのか。本人を直撃した。

  • 『ソニック・ザ・ムービー』で主人公・ソニックの吹き替えを担当した中川大志 撮影:蔦野裕

■テストで認められ出演決意! 喉の使い方を徹底的に研究

実力派の俳優といえど誰でもすんなりできるわけではない声優の仕事。中川は「その道のプロがいる中で、違う畑の人間がやることに対しては僕も抵抗がある」と言い、「今回に関しては『さすがにできないです』と1回お断りしたんです。二つ返事で『はい、やります』と言えないくらいの大役だったので」と一度辞退したことを明かした。

だが、「僕の人生と交わるはずがないソニックというキャラクターの声が僕のところに来たという奇跡を一晩くらい考えたら、それってすごいことだなって。だから、せっかく声をかけてもらった身としては、この段階で断るのはもったいない」と思い直し、「『1回テスト収録させてもらって、それで本当にOKならやらせてください』とお願いしました」とテスト収録で判断してもらうことに。

そしてそのテストで認められ、引き受けることを決意。「作品は僕が声優の勉強をする場ではないですし、やるからには仕上がった状態にしなければいけない。声優さんたちにも失礼にならないようにしないといけない」という強い思いで、先生の指導を受けながら声を仕上げたという。

練習では「どういう発声をしていこうか、どういう風に声を作っていこうか」を研究。「声優さんは自分の喉のことを理解されていますが、僕らは自分の声に集中して聞かないので、自分がどういう喉の使い方をしたらソニックの声に近くなるのかすごく研究しました」と振り返り、「ちょっとの差で変わってくる。同じキーでも、喉の使い方でソニックっぽい声と、ソニックじゃないなという声があり、そのイメージを音響監督さんたちと共有できていたので、その目指すところに向けて練習しました」と語った。

■映画で垣間見えるソニックの新しい一面を大事に

洋画吹き替えとも、アニメ声優とも違う、ゲームから生まれたキャラクターの声。演じるにあたり、セガの『ソニック』チームの方からキャラクター像について話を聞いたという。「子供たちが憧れる近所のお兄ちゃん」という表現が特に印象に残っているそうで、「僕の中でも、子供のときにそういうお兄ちゃんいたなって。ちょっと憧れる、ついていったら面白いことがありそうな。基本的には余裕さ、軽さ、何事にも動じないところがソニックのイメージとして常に守りたいところで、ひょうひょうとしているところがかっこいい」と従来のイメージを語った。

そして、今回の映画で垣間見える新しいソニックの一面も大事に。「これだけ精巧なCGで、毛1本1本、目の動きだったり、表情だったり、ここまで作り込まれているからこそ細かい心の動きや弱い部分も見えてくる。孤独だったり、寂しいなという気持ちだったり、そこのギャップというか、新しいソニックの一面はすごく大事にしました」と説明し、「ただ、これまでのソニックのイメージもしっかり守って、どっちも出さないといけなかったので、強弱、メリハリはすごく意識して作りました」と語った。

また、「今までアニメーションと実写映画の吹き替えで声優をやらせてもらいましたが、ソニックは何の分類にあたるのかというと、間ぐらいかなと思ったんです。ただ、実際にやっていくうちに、ほぼほぼ実写の役者と変わらない情報量があるなと。アニメーションは、口や目の動き、表情の変化など、情報量は少ないですが、ソニックは実写の吹き替えと同じような感覚なので、2次元のキャラクター的な声の出し方になりすぎず、人間味があるように。生々しさ、揺れる部分は出さないといけないと思いました」と言い、「ぼそっと心の声が漏れちゃうところとか、1人で感情が出るシーンは意識して変化をつけるようにしました」と振り返った。

■“恩師” 山寺宏一と初の声優共演「近しいからこそドキドキ」

本作では、朝のバラエティ番組『おはスタ』(テレビ東京)で共演し、恩師と慕っている声優の山寺宏一が悪の天才科学者ドクター・ロボトニック役を担当。公開アフレコイベントにそろって出席した際、山寺は中川のソニックの声を「素晴らしい。声優をやったらいくらでも活躍できる」と大絶賛した。

中川は、収録が終わったあとに山寺と食事をする機会があり、その際に「無事にアフレコを終えてきました」と報告すると、「大志なら大丈夫だよ」と声をかけてもらったという。「恩師でもあるし、お父さんみたいな存在でもあるし、中学生のときに2年間ガッツリ共演させてもらって、それからずっと見守ってくれていた方なので。ただ、山寺さんの畑での共演は今回が初めてだったので、僕のソニックを聞いたらどういう感想なんだろうと、近しいからこそドキドキしました。怖かったです」と打ち明けた。

3回目の声優挑戦となったが、「声のお仕事をするたびに声優さんへのリスペクトは大きくなりますし、声の仕事の中でも作品によって全然やり方が違ってくるし、自分の声についても知れたし、学んだことばかりです。経験として自信になったこともいっぱいありますし、自分にとって大きかったですね」としみじみ。「普通の実写作品のときも、役によって声の出し方やトーンを変えたりもするので、普段の仕事でも生かせるところはあるなと思いました」と、この経験を俳優業にも生かす。

次はどんな声の仕事をしてみたいか尋ねると、「声優のお仕事は大変なので」と笑いつつ、「またもしそんな機会をもらえるのであればやりたいです」と4度目の声優挑戦に意欲。さらに、「ラジオをやってみたい。ラジオが好きでよく聴いているんですけど、僕の仕事は基本的にはしゃべる場所がなく、役としての時間が多いので、素の自分としてしゃべる場所は楽しそうだなと思っています」とラジオへの興味も語った。

■プロフィール
中川大志(なかがわ・たいし)
1998年6月14日生まれ、東京都出身。ドラマ『家政婦のミタ』(11/日本テレビ)で注目され、『南くんの恋人~my little lover』(15/フジテレビ)、NHK大河ドラマ『真田丸』(16)、『花のち晴れ~花男 Next Season~』(18/TBS)、NHK連続テレビ小説『なつぞら』(19)、『G線上のあなたと私』(19/TBS)などに出演。映画は『きょうのキラ君』(17)、『ReLIFE リライフ』(17)、『虹色デイズ』(18)などで主演を務め、『砕け散るところを見せてあげる』(近日公開)が控えている。2019年に第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。NHKのコント番組『LIFE!~人生に捧げるコント~』でも活躍している。