若いときは、会社でさまざまな頼まれごとや、やりたくない単純作業などを頼まれる機会がたくさんあると思います。また、希望しない部署に配属され、働くことを面白く感じられないときがあるかもしれません。「好きなことを仕事にしたい」とは誰しもが思うことですが、いま現実に「目の前にある仕事」を好きになる方法はあるのでしょうか? 作家・ビジネスコンサルタントとして活躍する星渉さんに、聞きました。
なぜ「目の前の仕事」がつまらないのか?
頼まれごとや、やりたくない単純作業、希望しない部署での仕事……。そんな「目の前の仕事」を、人はなぜつまらなく感じるのでしょう? それはおそらく、「人から与えられた」と感じているからです。人がやる気を出し、幸福感が上がるのは、「自分でコントロールできている」と感じているときです。つまり、「目の前の仕事」は、自分ですべてをコントロールできないからつまらなく感じるわけです。
逆にいうと、「なぜ自分はこの仕事をやるのか?」「自分のやりがいってなんだろう?」「目の前の仕事にもやりがいを見つけられないか?」というように、自分で「やる理由」を明確に見出すことができれば、「やらされ仕事」から「自分の仕事」に変わります。そうなることで、継続して努力できるようになります。
大事なポイントは、「なぜ」という気持ちに理由を見出だせるのは、それが自分のものになっている証拠だということ。これが、幸福度やパフォーマンスに影響します。でも、理由が明確でないと、「やりたくないのに上司にやれといわれたから……」と、他人のせいにするようになってしまう。そして、目の前の仕事に適当に取り組むようになり、評価が落ちていき、結局は、やりたいことをやれなくなる悪循環におちいってしまうのです。
「目の前の仕事」が好きになるふたつの方法
若いうちは経験を積む必要もありますし、本当の適正を見極めるためにも、本当にやりたいとは思えない仕事をまかされるものです。そんな状況をまずは認めたうえで、「目の前の仕事」を好きになる方法をふたつ紹介しましょう。
1 工夫する
2 解釈を変える
1は、与えられた仕事をするときに、自分なりの工夫をすることです。たとえば、気が乗らない仕事を、上司から「1週間で仕上げて」と言われたとします。そんなとき、嫌な気持ちのまま取り組めば、「やらされ仕事」になってどんどんつまらなくなってしまう。でも、それを「3日で終わらせよう」と考えれば、少しやる気が出てきませんか? つまり、「自分でコントロールできる要素」を加えていくわけです。
これはもう、小さな工夫で構いません。仕事に取り組みやすいように机まわりを整理したり、ファイリング方法を変えたりするのもいいでしょう。自分なりの工夫ができると、目の前の状況を「コントロールできている」という実感を持てるようになり、仕事は楽しくなっていきます。
2は、ものごとの解釈を変えること。わたしが好きなエピソードで、第35代アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディが、NASAに視察に行ったときの話があります。ある清掃員を目にしたケネディが、なにをしているのかを聞いたところ、その清掃員はこう答えたそうです。
「大統領、私は人類を月に届ける仕事を手助けしています」
つまり、この清掃員は、自分が施設を美しく保たなければ職員がきちんと働けないと考えた。だからこそ、自分の仕事は、人を月に届けるミッションにつながっていると解釈したのです。解釈を変えると、いま目の前にある仕事に取り組む楽しさがまったく変わります。それだけを見ると楽しいとはいえない作業も、その先につながるより大きな目標やミッションを意識すると、あり方が変わるのです。
「好きなことを仕事にしたい」と本気で思っているか?
それでも、「好きなことを仕事にしたい」「もっと自由に働きたい」とは思いますよね? しかし、「目の前の仕事」はそれとはちがいます。この理想と現実のギャップに、どのように向き合えばいいのでしょうか?
これは「心は強化できる!? メンタルを強くする⼼理学」で紹介した「自己理解」にもつながりますが、じつはそこには、「本当は好きなことを仕事にしたいとは思っていない」という大きな盲点が潜んでいます。このことに気づいていない人は、本当にたくさんいます。好きなことをして自由に働きたいと思うし、もっといえば、年収も2000万円くらいあったほうがいいのかもしれない。でも、その理想を実現するためには、代償となる努力や時間を費やす覚悟が必要です。それらがないのに、単純に「いいな」とうらやんだり、「うまくいかないかな」と願ったりしている場合がとても多いのです。
だからこそ、夢や目標を思うときには、「それって本当になりたいの?」と、ぜひ自分に問いかけてみてほしい。おそらくそう問いかける段階では、「なりたい」と思っているはず。ならば、次は「そのための代償を払う覚悟はあるか?」と考えてみましょう。
本気でその覚悟があるなら突き進めばいいし、もしそこまで思えないなら、「自分にとってちょうどいい目的地はなんだろう?」と考えることができるはずです。本当に自分が求めている目標を突き詰めて考えることで、結果として「自己理解」がさらに深まっていくのです。
すべては「自分が選んでいる」と考える
「目の前の仕事」を好きになるといっても、もちろんストレスの度合いによります。たとえば、上司や同僚との人間関係が原因で、家も出たくなくなったり、会うと震えが出たりするなら、即刻会社を辞めるか休むかしたほうがいいでしょう。
でも、そこまでのストレスがないなら、ここで社会人の仕事の真実をあえてお伝えしましょう。それは、あなたを守ってくれるのは「結果」しかないということです。
厳しい話かもしれませんが、もしほかの人から与えられる仕事がどうしても嫌ならば、「結果」で黙らせるしかありません。会社では、「結果」さえ出していれば、苦手な上司ややりたくない仕事に関わらなくても許されます。逆にいえば、社会人は「結果」を出さなければ、ストレスなどの根本的な解決はできないのです。それでも「関わらないといけないんです」という人もいますが、それは「自由にやるといろいろいわれてしまう立場だから、関わらないといけない」に過ぎません。
とはいえ、若いときに大きな結果を出せるほうがめずらしいのだから、焦ることはありません。まずは、目の前の仕事に対して「自分が選んでやっている」という感覚を持って臨めば、気持ちが楽になると思います。そして、もし石にかじりついてでも、まわりを黙らせる結果を出そうと思えないのなら、「自分はある程度のストレスを受けることを選んでいるのだ」と気づくことで、ストレスは軽減するでしょう。なぜなら、それは自分で自分の気持をコントロールできている証拠だからです。
嫌な上司がいるなら、すぐに辞めればいい。でも、辞めることができないのは、そこにいることを自分が選んでいるからです。目の前の仕事を好きになるのも、好きなことを仕事にするのも、すべては「自分の問題」だということに気づくことが大切なのです。
構成/岩川悟(slipstream) 取材・文/辻本圭介 写真/塚原孝顕