Bloombergなどの報道では、6月22日(米国時間)から始まるWWDC 2020の目玉となるのは、「ARMプラットホームに移行するMac」だと指摘されている。筆者はこれに加えて、ARとヘルスケアも注目すべき材料になるのではないか、と考えている。

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ARMとは、iPhoneやiPad、その他Androidを含むほぼすべてのスマートフォンなどが採用するRISC系のプロセッサで、これを設計・ライセンスしている英ARM Holdingsがソフトバンク傘下となったことは記憶に新しい。

ARMは、ジョイントベンチャーとして1990年に創業したが、Appleも他の2社とともにARMの設立に参画した経緯がある。そのAppleは、ARMチップを採用したiPhoneで大きな発展を遂げることとなるが、これをMacに採用することは偶然ではないようにも感じる。

実際、Motorolaの68000を採用してMacintoshを成立させ、その後MotorolaとIBMとともにAppleは1991年にRISC系チップであるPowerPCを開発、その後Intelにスイッチしているが、2020年に自社で設計するAシリーズのARMチップによって、新たなMacへと移行する可能性が指摘されているのだ。

ARM Macに向けた準備

もし、Aシリーズを搭載するMacの計画を明らかにするなら、そしてこれを2021年に発売するのであれば、2020年6月のWWDCは絶好のタイミングといえる。むしろ、この場で発表できないのであれば、2021年中の製品発売は難しくなるのではないだろうか。

現在、Mac向けアプリは、iOS/iPadOSのアプリとコードの多くを共通化させ、特にiPadOS向けアプリのインターフェイス部分を調整することでMacで動作できるようになった。

これは、2018年のWWDCでその計画が明らかにされ、2019年に実装できるようになったMac Catalyst(Project Catalyst)によって実現しているが、この計画には続きがある。Marzipanと呼ばれる3カ年計画では、2021年にシングルバイナリでiPhone/iPad/Macでのアプリ動作を実現するといわれているからだ。

この計画の「Mac」には、もちろん現行のIntelチップを搭載するMacも含まれると考えるべきだが、ARM Macの登場、むしろMacのARM化によって、この計画をより円滑に進められるようにする、というアイディアが生まれてくる。

とはいえ、すでに2020年前半までにiMac以外のMac製品のアップデートを済ませていることを考慮すると、2020年や2021年の段階でMacのメインストリームがすぐにARMへ移行するとは考えにくい。販売を終了した12インチMacBookあたりがARM Macの初号機として目されている理由も、そのあたりにある。

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ARの発展

AppleはARKitをリリースし、「世界最大の拡張現実プラットホーム」であると宣言した。ゲームや教育の分野からアプリの実装を始めており、それ以外のあらゆる分野でもARは次の時代のアプリ体験の核となるとの姿勢を崩していない。

確かに、これまでAppleはARKit発展のなかで、さまざまな技術をソフトウエアレベルで実装してきた。

複数の人が同じ空間で体験する機能、空間の保存と読み出し、実際に存在する人物を避けてオブジェクトを描画して前後の重なりを再現するピープルオクルージョン、物体に対して同様の処理を行うオブジェクトオクルージョン、空間の地形図を作るシーンジオメトリ、モーションキャプチャなどがこれに当たる。

また、今までの広角アウトカメラだけでなく、TrueDepthカメラによる顔への装飾の実現や、前後のカメラを同時に利用して顔の表情による操作の実現、iPad Proへ搭載したLiDARスキャナによる空間を瞬時に認識する機能も、AR体験を加速させる材料となった。

Appleは、Adobeとともに開発したARオブジェクトを簡単に共有できるファイルフォーマット「USDZ」において、手軽にARオプジェクトを送信し、例えばAppleの新製品を目の前のデスクにおいてサイズを確認する、といった体験を実現できるようになった。

今後、ディスプレイ技術、具体的にはARグラスのようなインターフェイスを活用することで、アプリの中だけでなく、MacやiPad、iPhoneのディスプレイ機能としてARが活用されるようになっていく…。そんな布石を今回のWWDCで見られるかどうか注目だ。

ヘルスケアは「旬」

新型コロナウイルスの影響で、今回のWWDCは初のオンライン開催となるが、人と人の距離を保つ、込み合った場所を避けるという新しい生活様式において、スマートフォンがさほど役立っていないと感じるのは筆者だけではないはずだ。

例えば、Face IDという顔認証も当初は革新的だと思われたが、マスクを装着すると無力化され、AppleはiOS 13.5でマスクを検出してすぐにパスコード入力に移行する仕組みを取り入れたほどだ。また、Googleマップが混雑状況の表示を各国で展開しているが、移動手段の混み具合については自動車の渋滞以外知ることはできない。

AppleはGoogleとともに、暴露検出のAPIを発表し、各国の衛生当局による新型コロナ感染対策アプリへの実装が始まった。しかし、各国の政府が新型コロナ対策以外に使えないようにするための仕組みを入れる、個人情報を両者が取得しないなど、かなりセンシティブなプライバシー対策を行っており、改めて両者による神経質な「情報収集への批判対策」が浮き彫りとなった。

その一方で、デバイスのセキュリティとプライバシー性能を高めることで、健康に関するさまざまな情報を管理してもらおうとしているのがAppleである。すでに、HealthアプリやHealthKitを活用した情報の蓄積は始まっており、医療機関との連携もアプリを通じて行われ始めている。

Apple Watchを使えば脈拍数とそのパターンを検出でき、頻脈や徐脈の検出と通知を実現しているほか、米国をはじめとする認可を取得した国ではApple Watchを心電図として利用でき、そのデータも医師に提出できるようにした。日本でも認可を取得したとみられ、ほどなく機能が利用可能になるだろう。

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現在Appleは、血中酸素濃度や睡眠に関して、Apple Watchを通じた情報の取得に取り組んでいるとされている。iFixitによると、過去のモデルでも心拍数モニターは赤外線吸収量の測定が可能であり、血中酸素濃度を検出可能であるとしているからだ。

Appleが心臓疾患の早期発見に取り組んでいる理由は、米国における死因の第1位が心臓病であるからだと考えてよいだろう。健康に関するテクノロジーは恐ろしく時間がかかる分野であるため、最も効果的と思われる領域から取り組んでいる、と考えられる。