コロナ禍により、多くの会社、学校のスタートが6月からとなった2020年。そこで懸念されているのが、新入社員や新入生に遅れてやってくる「5月病」だ。そもそも5月病とはどんな病気なのか、どんな点に注意すればいいのか。銀座で多くのビジネスマンの診療にあたっている心療内科医・羽鳥賢三さんに話を聞いてみた。
【お悩み1】最近、妙に情緒不安定。「5月病」ならぬ「6月病」?
「正式には、『5月病』や『6月病』という病名はありません」と、羽鳥さん。一般的に「5月病」は、4月に環境が変わった人が、GW明け頃から意欲の低下、不安感、不眠、倦怠感といった「うつ状態」になった場合の総称で、実際の病名は別のもの。
5月に限らず、転職や異動などから1カ月ほど経った頃に「気分が落ち込む」「眠れない」「気力がわかない」と、羽鳥さんのクリニックを訪れる人は少なくないとか。
「正式な病名としては、『適応障害』と診断されるケースが多いです。これは、社会生活上のストレスにうまく適応できないことからメンタルに不調をきたす病気。一般的に、入社、入学、異動、引越しといった環境の変化や、長時間労働、パワハラなどが原因で発症します。ただ、5月病で見られる症状からは、他にもさまざまな病気の可能性を考えられるので注意が必要です。
『うつ病』と診断される方も多いですが、これは、セロトニンやノルアドレナリンといった脳内物質のバランスの乱れから起こる病気。適応障害と違って発症の原因は不明で、『どうして自分はこんなに仕事ができないんだ』『皆に迷惑をかけて申し訳ない』と、過度に自分を責める傾向にあるのが特徴のひとつです」
セロトニンの分泌を促す方法としては、朝起きたら日光を浴びる、ウォーキングのような一定のリズムを刻む運動をする等が挙げられる。また、セロトニンの材料となるトリプトファン、ビタミンB6などを含む食品(乳製品、大豆製品、バナナなど)を適度に摂取することも心がけたい。
しかし、うつ病といえば、自殺の危険の高さでも知られる精神疾患。適応障害からうつ病に移行したり、併発したりするケースもあり、悪化すればするほど、回復に時間がかかるのは身体もメンタルも同じだ。「おかしい」と感じたら、早めに専門医に相談し、症状の原因を明らかにすることが大切だ。
【お悩み2】どうにも気力がわかなくて、「怠け者」扱いされている。
単に怠け者なのか、本当にメンタル的にヤバいのかを知る方法としては、下のようなチェックリストがメジャーだろう。ネットやテレビ、雑誌などでいろいろなものが紹介されているため、誰しも1度はやったことがあるかもしれない。複数の項目に当てはまる人も少なくないと思うが、羽鳥さんによると「症状の程度が問題」なのだという。
「チェックリストのような状態は、実は誰にでも起こるものです。例えば、社会人の多くは常時お疲れ気味だったり、イライラしがちだったりしますよね。でも、それにより社会生活に支障が出ている人となると、そこまで多くはないはず。
極端な話、多少問題はあっても、社会生活を営める程度に適応できていればいいわけです。チェックリストのような状態が2週間以上ずっと続いている人、社会生活に問題が出始めている人はメンタル不調の可能性が高いです」
とはいえ、社会生活に支障がなくても、チェックリストのような症状のある人は疲弊気味なのは間違いない。たとえば、会社の昼休みには15~20分程度睡眠を取ったり、散歩に出かけて身体を動かしたり、「心身のケアも社会人の務め」と考え、意識的に心身のリフレッシュを図りたい。
【お悩み3】すぐネガティブに考えてしまうのを何とかしたい。
「もうだめだ」とすぐにくよくよしてしまったり、反対に「なんとかなるさ」とまったく気にしなかったり。誰にでも考え方や物事の認知にクセがある。「自分にはどんなクセがあるのかを把握し、『その逆はどうだろう?』と意識的に考えることは、セルフケアのひとつにつながります」と、羽鳥さん。
「私も、患者さんと話しながら『この人はこういう考え方をしがち』というのを捉え、そうではない方向を提示するようにしています。否定的な考え方をする人なら肯定的な考え方、楽観的過ぎる人なら慎重さ。人は、ポジティブ過ぎてもネガティブ過ぎてもうまく社会生活を営めません。
考え方のクセをバランスよく調整し、一定の幅の中に納められるようにすることが、環境に適応しやすくなるコツのひとつです」
また、一般的にメンタル不調を起こしやすい人は几帳面で責任感があり、悩んでいても他人に話さず内に秘めてしまうタイプが多い。自覚がある人は、周囲にサポートを頼めるように考え方のクセを変えていくことが大切だ。家族や友人、恋人など、周囲にこういうタイプの人がいる場合にも、気をつけるようにしておきたい。
「実際、家族や会社の人から『調子が悪いのでは?』と言われて、クリニックを訪れる人もいます。大切なのは、自分だけで悩みを抱え込まないこと。身近な人になかなか言えないのなら、私たち医師でも構いません。自分なりに相談できる環境を構築していきましょう」