正確な運行と安全性で知られる日本の鉄道だが、かつては重大な死亡事故が多発する時代もあった。その中でも最悪と言われていた「西成線列車脱線火災事故」(1940年、死者189人)を超える大事故が“封印”されていた――。

日本テレビ系ドキュメンタリー番組『NNNドキュメント’20』(毎週日曜24:55~)で、きょう21日に放送される『封印~沖縄戦に秘められた鉄道事故~』では、いまだ存在すらほとんど知られていない「沖縄県営鉄道」で起こった惨事の真相に迫っている。

  • 事故唯一の生存者・糸数ヨシ子さん

沖縄県営鉄道は、大正時代に開通。沖縄の足として親しまれていたが、1944年の那覇空襲で破壊され、その後に続く沖縄戦によって完全に消滅した。

その沖縄戦直前の44年12月11日、日本軍人や女子学生を満載した列車が、糸満線の稲嶺駅付近で轟音と共に大爆発を起こし、死者は220人を数えた。

しかし、戦時中の事故のために軍は資料を残さず、新聞報道もなし。インターネットで検索しても詳細な情報は出てこず、Wikipediaにはページが設けられているものの、「戦時下にあったため、箝口令が布かれ内密に処理された。原因は今も不明である」とされている(6月20日現在)。

これで情報が終わってしまっては、55分の拡大版で放送される今回の番組は、もちろん成立しない。日本テレビの取材班は、その“封印”を解くため、事故唯一の生存者・糸数ヨシ子さんを見つけ出してインタビューを行ったほか、事故現場付近の住民から当時の目撃者を複数人探し出し、証言を得た。

事故から75年もの年月が経過し、かつ甚大な犠牲者を生んだ沖縄戦を生き抜いた人…という条件が相当厳しいことは、想像に難くない。そこに挑んだのは、「桶川ストーカー殺人事件」や「足利事件」などで真相を突き止めてきた清水潔ディレクターだ。

清水氏はTwitterで「一年近く取材してました」と明かしているが、その足で稼いだ貴重な証言と資料をもとに、事故の状況を精密なCGで再現していくのが今回の番組の特色。いつの時代も必要不可欠である地道な取材と最新技術を掛け合わせることによって、隠されていた事実がリアルに浮かび上がってくる過程に、思わず引き込まれてしまう。

こうして、Wikipediaでは「不明」とされる原因を、番組では特定。しかし、そのあまりにもお粗末な要因で220人という命が奪われたという事実に、怒りや悲しみ、そして虚しさまで、さまざまな感情が入り交じってくる。

  • CGで再現した爆発のイメージ

番組では、「沖縄戦に秘められた鉄道事故」というサブタイトルのとおり、この事故とその後起こる沖縄戦の悲劇との関連についても取材している。事故の生存者である糸数さんは、沖縄戦に従軍看護婦として志願。野戦病院で悲惨な光景を目の当たりにした彼女から発せられる「戦争なんてもうこりごりだと思っていました」という言葉は、胸に突き刺さるはずだ。

戦争体験者の高齢化が進み、年を追うごとにその記憶の継承が難しくなっていると言われている。その上、今年は終戦から75年という節目ながら、新型コロナウイルスの影響で8月15日の全国戦没者追悼式が規模を縮小するなど、「戦争」について考える場面がさらに減ってしまうおそれもある。そうした意味でも、この番組が果たす役割は大きいと言えるのではないか。

  • 保存された線路

  • 保存された台車

  • 嘉手納駅跡地