Appleは、新型コロナウイルスの影響を考慮し、毎年恒例の世界開発者会議「WWDC 2020」をオンラインで開催する。例年、6月上旬にカリフォルニア州サンノゼのカンファレンスホールで1万人規模で開催し、世界中の開発者が1,500ドルのチケットを求めて抽選に参加する。しかし、今年は早い段階でオンライン開催を決定し、しかも門戸をより広く開放することとした。

  • 例年とは異なり、今年のWWDCはすべてオンラインで開催する

米国時間6月11日にWWDC 2020のスケジュールが発表された。おもなイベントのスケジュールは以下の通りだ(表記の日時は日本時間)。

  • 6月23日午前2時:Special Event Keynote(基調講演)
  • 6月23日午前6時:Platforms State of the Union(Appleプラットホームの現状と展望の報告)
  • 6月23日~26日:100+ Engineering Sessions(100以上の技術セッション)

例年、基調講演はiPhone/iPadのアプリ、ウェブサイト、YouTubeで生中継され、技術セッションは開発者向けアプリやウェブサイトで視聴可能になる。これらに加えて、中国のユーザー向けには、Tencent、iQIYI、Bilibili、YouKuでも再生できるようになるという。

これらとは別に、Appleの技術者に相談できる予約制の「ラボ」が展開される予定だ。また、今回のWWDCに合わせて開発者フォーラムがリニューアルされ、1,000人以上のAppleエンジニアが開発者からの質問に答えたり、議論を加速させていくという。

注目の基調講演、ハードウエアの新製品は

多くの人が注目するのは初日の基調講演だろう。Appleが開催するスペシャルイベントの基調講演は、3月、6月のWWDC、9月のiPhoneイベント、そして10月と年に4回あるのが一般的だ。スペシャルイベントは、その時々に合わせてさまざまな「テーマ」が与えられ、Appleの最新製品やソフトウエア、サービスなどが発表されてきた。

2020年は新型コロナウイルスの影響で3月にイベントを行わず、その代わり3月から5月にかけてiPad Pro、MacBook Air、Mac mini、iPad Pro用Magic Keyboard、MacBook Pro、そして第2世代のiPhone SEが発売された。おそらく、この3月はiPhone SE 2とiPad Proを核にした大リリースイベントを計画していたはずだ。

3月はオンラインでの基調講演すらなかったため、今回は久々のイベントとなる。もちろん、新製品に期待する声も大きいが、WWDCは開発者向けのソフトウエアが中心となるイベントだ。もしハードウエアが発表されなくても、どうか怒らないでほしい。

  • 2019年のWWDCでは、高性能デスクトップ「Mac Pro」がお披露目された

とはいえ、アップデートが長らく行われていない製品が存在していることも確かだ。オールインワン型デスクトップのiMacとiMac Pro、HomePodだ。そもそも、これらは年次で刷新される種類の製品ではないが、多くの開発者が注目するWWDCのタイミングでこれらの製品をアップデートすることは一定の価値がある。

裏を返すと、それ以外の製品のほとんどは、2019年後半から2020年前半にアップデートを済ませてしまった。

刷新に一番近いところにいるiMac

Macは、アップル製品のアプリを開発する際に必ず用いる製品だ。現在のコンピュータ市場はノート型主体へと移行しているが、ディスプレイ一体型デスクトップはMacの原点である。とりわけ、初代iMacは斬新な一体型デザインを採用し、Appleの危機を救った製品でもある。

現行のiMacは、ディスプレイの下にAppleロゴ入りの“アゴ”がある、超薄型のアルミニウムとガラスのボディとなったiMacだが、このスタイルは2012年から現在の基本デザインを維持している。

  • おなじみのスタイルを継承するiMac。アーキテクチャ的にも古さが目立つ

同時に、iMacには他のMacより古い設計を引きずっている部分がある。ストレージだ。iMacには、まだハードディスク搭載モデルが用意され、フラッシュストレージとハードディスクを組み合わせたフュージョンドライブでいいとこ取りを試みたモデルもある。 しかし、ハードディスクをシステムストレージの前提としているMacはすでにiMacのみとなり、iMac Proも含めたその他のすべてのMacからはハードディスクが排除されているのだ。

その象徴的な違いは、T2チップを備えているかどうかである。現行のiMacにはT2チップは入っておらず、コンピュータ全体のセキュリティ対策も他のMacに劣る。

繰り返しになるが、WWDCはあくまでソフトウエアのイベントであり、ハードウエアが出なかった年もたくさんあった。ただ、アップデートに最も近いところにあるハードウエアがiMacであることは間違いないだろう。

重要な「一般教書演説」

WWDC 2020の基調講演も、基本的にはiOS、iPadOS、watchOS、tvOSのアップデートと、新しいアプリ開発向けAPIのダイジェストが主題になるだろう。Appleの製品やサービスに関する現状とアップデートへの報告が行われることも例年通りだと考えられる。

特に、2020年のWWDCの基調講演では、世界全体の課題でもある新型コロナウイルス対策や、進捗があったが報告するチャンスを逸してしまった環境問題への対策、そして米国を揺るがしているBlack Lives Matterについては、触れないわけにはいかないのではないだろうか。

WWDCの主役は、ソフトウエアエンジニアリングのトップであるクレイグ・フェデリギ氏だが、「総合司会」のように振る舞うティム・クックCEOに加えて、環境問題に取り組むアフリカ系アメリカ人で女性科学者でもあるリサ・ジャクソン氏、直営店と人事を担当しAppleに30年勤務する古株の女性役員ディアドラ・オブライエン氏の登壇もあるかもしれない。

  • 2019年のWWDCで登壇するクレイグ・フェデリギ氏

  • アップルストアなどを担当するディアドラ・オブライエン氏(右)

そうした基調講演ののち、米国現地時間でランチタイムを過ぎてからは、「Platforms State of the Union」が行われる。開発者にとって、また向こう1年のAppleプラットホームやそこに登場するアプリを占ううえで、最も重要なセッションとなる。

ここでは、基調講演で発表した新しいソフトウエアやAPIについてより詳しくその実装方法を紹介するほか、基調講演からは漏れたがアプリ開発にとって重要な変更などを知ることができる。日本時間で中継を見るとすると、午前6時からスタートするため、基調講演からずっと続けて見るとなると非常に辛いのだが…。

では、今回のWWDCの基調講演やState of the Unionの重要トピックは何になるのか? 注目ポイントについて、次回の後編で考えていこう。(続く)