先ごろ、radikoはある実証実験の成果をオンラインで発表。実験内容は、ラジオ聴取が脳にもたらす効果の検証です。発表によると、ラジオを継続的に聴くことで、記憶系などを司る脳の働きを活性化させ、脳の成長に有益な働きをもたらすことが分かりました。
本稿では、本発表会での様子をレポートします。
さまざまな通説の真偽を明らかにしたい
外出自粛やリモートワークの推奨の影響を受け、ここ1、2ケ月で160万人のユーザーが増えているというradikoですが、今回なぜこのような実証実験を行ったのでしょうか。
「ラジオは、通勤・通学、仕事中や入浴中などに『ながら視聴』をするユーザーが多いメディア。そのため、『ラジオを聴きながらだと仕事がはかどる』と言われる一方で、『ラジオを聴きながら勉強するのはよくない』といった意見もあり、ラジオ聴取の効果にはさまざまな通説が存在しています。そこで、それら通説の真偽を明らかにするために、専門家による実証実験を企画しました」と、同社業務推進室長 板谷温氏が、その背景を説明してくれました。
先行研究がなく、初めての試み
実験の監修を務めたのが、脳の学校 代表 加藤俊徳氏。脳の成長を促すための健康医療を脳科学的見地から行い、約1万人以上のMR脳画像を分析・診断してきた脳内科医です。
中でも、「脳番地」と呼ばれる独自の脳の分類法で、脳を「聴覚系/記憶系/思考系/視覚系/理解系/伝達系/感情系/運動系」の8エリアに大別し、脳を鍛えるトレーニング法も提唱しています。しかし、今回の実証実験は、非常に苦労したそうです。
加藤氏「マスメディアと脳の成長の関係を検証した研究はこれまで先行事例がなく、しかも、radiko視聴者の生活スタイル『ながら視聴』に合わせた課題を設定するなど、全てが初めての試みでした」。
実験は18〜24歳の男女大学生4名ずつ(※ラジオ経験者と非経験者が半々)が、1日2時間、1カ月間にわたりラジオを聴取。視聴する番組内容や、聴く場所・時間帯は生活スタイルに合わせて本人が自由に選べ、番組内容や感想をフリーハンドで日記に記載してもらいました。
そして、ラジオ聴取前後に、大学生の脳画像をMRIで撮影し、その変化による解析・診断が行われました。
予想外の脳の成長が観測?
検証の結果、8名全員の右脳にある記憶系エリアが成長し、聴取前後で最大2.4倍に拡大。そして、半数が聴覚系・理解系エリアの成長が観測されました。
「ラジオを聴き続けることで、記憶系脳番地などの脳を成長させることが分かりました。当初は、左脳の言語記憶を刺激すると予測していましたが、実際は、それを超えてイメージ記憶(視覚的な想像力)が強化され、私にとっては新たな発見でした」と、驚きの結果を振り返る加藤氏。
しかし、なぜ想定外の結果になったのでしょうか?
「イメージ記憶は、直接的な視覚のインプットがなくても、脳内にイメージとして視覚情報が構築されると刺激が与えられる特性があります。ラジオを聴き続けることにより、言語を想像力で補完する脳の働きが強化され、未発達の人が多い右脳の記憶系脳番地が活性したと考えられます」。
また、聴覚(系脳番地)は脳へ情報をインプットする入り口であり、思考系や感情系、運動系などの他の脳番地とも強力なネットワークが構築されており、それが脳の活性化にもつながっているようです。
「私たちは、人の話を聞くと、まず聴覚系で音声としての言葉を認識し、理解系でその意味を理解します。そして、思考系や感情系で判断を下し、伝達系を通して自分の意思を伝えたり、運動系で行動を起こしたりします。このように、人のコミュニケーションの出発点となる聴覚系が継続的に刺激されることによって、それ以外の脳番地も活性化するようになるのです」。
ラジオで好きな番組やお気入りの音楽を聴くことは、気分転換やストレス解消に有効なだけでなく、脳の働きもよくなるようです。リモートワークでの働き方が中心となっている今、生産性を高める一つの施策として、ラジオの「ながら視聴」が増えるかもしれません。
取材協力:加藤俊徳(かとう・としのり)
新潟県生まれ。脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。 株式会社「脳の学校」代表。昭和大学客員教授。脳番地トレーニングの提唱者。加藤式MRI脳画像診断法を用いて小児から超高齢者まで1万人以上を診断・治療。