フェンシング女子フルーレの日本代表として活躍している宮脇花綸選手。読書家でもある彼女が、ビジネス書評家で出版コンサルタントの土井英司氏の著書「『人生の勝率』の高め方 成功を約束する『選択』のレッスン」(KADOKAWA)を読み、SNSに感想を投稿したことがきっかけで両名によるオンライン対談が実現した。

一流のアスリートと、世界で1,100万部を突破した書籍『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版)の出版をプロデュースした敏腕コンサルタントという異色の組み合わせで、ビジネスとスポーツに共通する意外な思考ロジックなどについて語り合ってもらった。

  • フェンシング女子フルーレの日本代表・宮脇花綸選手

――宮脇選手は土井さんの著書をお読みになったそうですが、土井さんにはどんな印象をお持ちですか?

宮脇 本の書き出しの部分から感じていたことですが、すごく気さくな方ですよね。SNSでも気軽に土井さんの方からリプライをくださったりして。とてもお話しやすいです。

土井 宮脇さんのSNSを見ていたら、選手同士での「人狼ゲーム」を主催していて(笑) よくよく読んでいくと、フェンシングって頭脳のスポーツなんですね。僕は出版の仕事をしていて、相手の心を読んだり意図を先読みしたりすることが多いんですけど、フェンシングにもそういう要素は多いんじゃないかな。

宮脇 普段から結構、そういうゲームをやっているんですよ。チームで海外などに移動して、コーチも外国の方だったりする環境の中で、駆け引きの練習にもなるし、コミュニケーションのひとつになる。今はスマホなどで時間を潰すのには困らないですけど、そんな時代だからこそボードゲームとかを一緒にやるのがいい。特に私たちのチームはそうで、みんなけっこう負けず嫌いなので(笑)、戦略もすごく考えます。「あえて2点を取らせて4点を取る」みたいな感じで。

  • 土井氏にオンラインでさまざまな質問をする宮脇選手

――駆け引きの練習とコミュニケーションの両得ですね

宮脇 フェンシングってスピード勝負じゃなくて、攻撃権があって駆け引きをするスポーツなんです。どんなに動きが速くたって、バレていたら絶対に相手を突くことができないんです。だからほぼ、メンタル勝負になります。

土井 知れば知るほど面白くて、僕が好きなタイプの競技ですね。

――ビジネスシーンでも活用できそうな思考パターンがありそうですね

宮脇 そうですね……「相手が何をしたいのか、とりあえずやらせてみる」というのは、まさにそうかもしれません。相手のしたいことがわかったら、その裏をかいてどんどん攻め込むというのがフェンシングの基本のパターン。自分の中に「こうしたい」というのはあると思うんですけど、まずは相手が何をやろうと思っているのかが最初にわかった方が、後々やりやすくなりますよね。

土井 「やらせてみる」というのはすごく面白い。そうすることで相手の意図がわかりますもんね。

  • スポーツからビジネスまで、幅広いジャンルについて語ってくれたビジネス書評家の土井英司氏

宮脇 今の時代はビデオなどもあって、相手の情報がわかっているところとから「戦い」が始まるんです。その中で試合によっても相手の作戦が違ったりするので、最初から相手の作戦を読んでも、確信を得ることができない。「相手の作戦をどっちが先に読み取るか」というのはすごく大事です。

土井 やっぱり現場のマインドは違いますね。宮脇選手にはビジネスマインドも知っておいてほしいから、経営者とかデキるビジネスマンといっぱい交流しておいてほしいな。ビジネスってメタファー(比喩)で考えるようになるので、伝えるときに伝わりやすくなる。

フェンシングが駆け引きの競技なら、駆け引きが関係するあらゆることに興味を持ってほしいですね。ビジネスの交渉もそうだし、ほかのスポーツ、映画にも駆け引きのシーンはありますよね。「駆け引きのことは全部吸収してやる!」くらいにしてほしいです。ちなみに、今はセカンドキャリアについて考えていますか?

宮脇 まだ「これ」というものは見つけられていません。今まで深く考えずにフェンシングをやってきたのですが、自分がやりたくて、自分のためだけにやってきたんです。でも今は、人のためになるような社会と関わりのある貢献型の仕事に惹かれています。お金では測れない幸せが、私たち世代には永遠のトレンドなんじゃないかと感じています。

土井 「人生のフェーズには2つあって、前半は『獲得』で後半は『貢献だ』」。先日読んだ本に書かれていたフレーズを思い出しました。今の若い子たちって、早くからそれを考えていて立派ですね。僕なんか最近になってやっと気づいたのに(笑)

宮脇 今は高度成長期のような勢いはないですから(笑)

土井 もしかしたら、今は獲得が昔ほど難しくないのかも。事業を引き継いでくれる人がいなくて困っている人もいますし、クラウドファンディングなど資金も集めやすくなっていますから。ガツガツ獲得するよりも、貢献して住みよい社会を作ったり、自己実現したりしていく方が意味のあることのように感じますね。「ファンが作れるか」「意義のあることをやっているか」ということの方が大切になってくる。

――宮脇選手もフェンシング界を牽引する選手のおひとりですが、ファンを作り、世の中を牽引して旗を振る方々について、土井さんはどのような共通点があると分析しますか?

土井 それはもう、「コンセプト」ですね。例えば、こんまりさん(近藤麻理恵: 土井氏がプロデュースした『人生がときめく片づけの魔法』の著者)の場合は、片付けのコンセプトを変えちゃったんです。「必要か必要じゃないか」ではなく、「ときめくかときめかないか」でモノを捨てることに変えた。

自分の人生を輝かせないのに、「使えるから」という理由で置いておくというのをやめることで、人って輝ける――。それを物質過多の時代に言ったことが新しかった。片付けの世界を変えるコンセプトだったんです。

スティーブ・ジョブズがiPhoneで電話を再発明したみたいに、「再開発する」「再発明する」ということが必要なんですよね。きっと宮脇さんもフェンシングを新しいコンセプトでリノベーションすることで、トップになるんじゃないかと思っていますよ。

宮脇 コンセプトの旗、振っていきます!

宮脇花綸

5歳からフェンシングをはじめ、2014年南京ユース五輪にて銀メダルを獲得。18年にはグランプリ大会で日本人選手として13年ぶりとなる準優勝、ジャカルタ・アジア大会では日本史上初の団体優勝を勝ち取る。19年よりマイナビに所属。

土井英司

秋田県出身。慶大時代にギリシャに留学。大学卒業後、ゲーム会社を経て編集者・取材記者・ライターとして修業。2000年に米アマゾン・コムの日本サイト立ち上げに参画し編集者・バイヤーとして幾多のベストセラー本を輩出。2004年にはエリエス・ブック・コンサルティングを設立し、著者プロデュースなども行っている。