いま、Twitterやインスタグラム、FacebookなどのSNSや、ブログなど、ネットでの誹謗中傷が後を絶ちません。タレントやスポーツ選手、芸能人といった有名人はもちろん、企業や一般人もターゲットとなります。

一度誹謗中傷に巻き込まれると、被害が長引くこともあり、悪意あふれる匿名の書き込みに心を痛め、心身を病み悲しい結果を招いてしまったり、普通の生活が送れなくなってしまったりなど、トラブルが多発。誹謗中傷は今や、現代社会の抱える大きな社会問題となっています。

このネット上の誹謗中傷ですが、匿名だから、個人が特定されないから、と安易に書き込みやすいものですが、実は逮捕されることがあります。

  • 誹謗中傷は犯罪だと理解していますか?

警察は誹謗中傷を積極的に事件化

今、警察はネット上の脅迫的な誹謗中傷を積極的に事件化し、取り締まりを強化する傾向にあります。

警察がこのように動き出しているのは、ネット上のこういった書き込みを、犯行予告あるいは犯行の前兆事案として捉えているから。これには、重大な事件に発展することを防止する目的があるのです。

ちなみに、誹謗中傷がどの時点から犯罪として成立するのかというと、SNSやブログのコメント欄などへ誹謗中傷を書き込んだり、ダイレクトメッセージを送ったり、あるいは口頭や文書で、誹謗中傷した時点です。悪質な文章が被害者に届き、被害者が目にした時点で既遂となります。

誹謗中傷による罪名と実刑

では、誹謗中傷がどういった犯罪に認定されるのかというと、考えられる罪名は、例えば、「脅迫罪」「名誉毀損罪」「侮辱罪」などでしょう。

脅迫罪

刑法222条では、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。」とあります。

そのため、個人の「生命、身体、自由、名誉又は財産」に関して脅迫した場合は、脅迫罪に問われます。また脅迫罪には、未遂処罰規定がないので、脅迫の対象となった相手が、実際にその書き込みを認識した時点で犯罪が成立します。 

脅迫となり得る文言は、例えば、「死ね」「ナイフでメッタ刺しにして殺す」「家に放火する」「家族の命を狙う」「●●(名前)を殺してほしい、レイプしてほしい」などがあります。

名誉毀損罪

誹謗中傷は、また、名誉毀損罪も該当します。刑法第230条には、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず3年以下の懲役もしくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければならない」とあります。

昨年、愛知県豊田市の市議が、あおり運転とは無関係だった女性の画像入りで「犯人だ」と決めつけた情報を自身のFacebookに掲載し「早く逮捕されるよう拡散お願いします」と書き込みました。現在、被害者より名誉毀損罪で訴えられ、刑事と民事で裁判中です。

侮辱罪

刑法231条では、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。」とあります。これが侮辱罪です。

例えば「バカ野郎」や「デブ」などとののしること、「あいつは仕事ができない」「性格が悪い人間だ」などウワサすることが、侮辱罪に該当します。

誹謗中傷の文言や内容、状況などにより、罪名は変わりますが、いま警察は、誹謗中傷の事件化に積極的に乗り出しています。そのため、犯罪として立件され、投稿者は逮捕される可能性が非常に高まっています。

投稿された内容はデジタルタトゥーとして残る

報道されているように、女子プロレスラーの木村花さんを誹謗中傷したSNSの投稿が削除されたり、アカウントが削除されたりして、証拠隠滅を図る者が多数いるといいます。

しかし、投稿やアカウントを削除したとしても、証拠は消えません。サイトの管理者のサーバーに記録されていたり、投稿した内容を他人がキャプチャやスクリーンショットで撮影していたりする場合があるからです。

それらの情報から警察の捜査が及んだり、弁護士の情報開示請求により、投稿内容や投稿者の情報は明らかにされたりします。

一度ネットに投稿したものは消えることはない、と認識しましょう。誹謗中傷は犯罪です。

誹謗中傷は絶対にしてはいけない。また、野放しにしてもいけない。そう、心に刻みましょう。

執筆者プロフィール:佐々木成三(ささき・なるみ)

1976年、岩手県生まれ。元埼玉県警察本部刑事部捜査第一課の警部補。デジタル捜査班の班長として、デジタル証拠の押収解析を専門とし、埼玉県警における重要事件において携帯電話の精査各種ログの解析を担当。現在はTV番組にコメンテーターとして多数出演するほか、学生を犯罪リスクから守ることを目的に設立された一般社団法人スクールポリスの理事を務め、学校や企業での講演など幅広い活動を行っている。著書に『あなたのスマホがとにかく危ない』(祥伝社)、『捜査一課式防犯BOOK』(アスコム)などがある。