『地球防衛少女イコちゃん』『日本以外全部沈没』『いかレスラー』『大怪獣モノ』『電エースシリーズ』など、数々の特撮コメディ映画を世に送り出してきた"バカ映画の巨匠"河崎実監督による最新作『三大怪獣グルメ』の舞台挨拶が、6月8日に行われた。

新型コロナウイルス感染予防のため延期になっていた本作だが、6日6日より無事に公開することが叶った。8日に行われた舞台挨拶には河崎実監督をはじめ、主演の植田圭輔、ヒロインの吉田綾乃クリスティー(乃木坂46)らが参加。登壇者も感染予防のため、フェイスシールドを着用し、場内動員制限のため通常の半分の座席に制限しての実施となった。遠方からの来場が難しい人のため、ニコニコ生放送ライブ配信と、舞台挨拶では史上初となるZOOMを使用して、全国のお茶の間からファンが舞台挨拶に参加する試みも行われた。

『三大怪獣グルメ』とは、映画監督・河崎実が43年もの構想を経て実現させた特撮怪獣コメディ映画である。

  • イカラ、タッコラ、カニーラ

東京湾から突如出現した2匹の巨大怪獣は「タッコラ」「イカラ」と名付けられ、本能のおもむくままに凄絶な対決を繰り広げる。やがて「カニーラ」と呼ばれる3匹目の怪獣も姿を見せ、東京は壊滅の危機に。政府は「シーフード・モンスター・アタック・チーム(海鮮怪獣攻撃隊)」=通称「SMAT」を結成し、新兵器「酢砲(すほう)」を導入して三大怪獣に挑む。途中、攻撃で切り落とされた怪獣の肉が思いのほか"美味しかった"ことから、世間ではたちまち「怪獣肉ブーム」が巻き起こるが、SMATの対怪獣作戦はことごとく失敗。そしてついに、国立競技場を舞台にした最後の作戦「海鮮丼作戦」が実行される……。

河崎監督は、『ゴジラ』(1954年)、『モスラ』(1961年)などの東宝特撮映画で世界的に有名な"特撮の神様"円谷英二特技監督を尊敬し、映像製作の道に進んだ筋金入りの特撮ファンである。大学在学中の1977年に河崎監督が初めて作った8㎜特撮映画『フウト』は、東京湾から豆腐の怪獣フウト、牛肉の怪獣クーニ、ネギの怪獣ギーネが出現し、自衛隊が後楽園球場を巨大な鍋にして「スキヤキ作戦」を行うという、壮大なスケールとギャグが盛り込まれた作品だった。

このように本作『三大怪獣グルメ』は河崎監督による『フウト』への、43年越しのセルフリメイク作ということができるが、これに加えて円谷英二監督の"怪獣"への熱い思いまでも汲み入れた、熱烈なる「オマージュ」作品でもあるのだ。

日本における特撮怪獣映画のパイオニアであり、現在では世界じゅうにその名をとどろかせているキング・オブ・モンスター=ゴジラのデビュー作『ゴジラ』(1954年)の企画は、東宝映画『ハワイ・マレー沖海戦』(1942年)などの戦記映画で優れた特撮技術を披露した円谷監督の存在なくしては成り立たないものだった。当時の東宝プロデューサー・田中友幸氏が「水爆実験で眠りから覚めた恐竜の生き残りが東京を襲う」という企画を提案したことにより『ゴジラ』の製作はGOが出るのだが、この企画が立ち上がる以前より、円谷監督の頭の中ではずっとあたためられていたひとつの「怪獣映画」のアイデアがあったという。

アートンから発行された円谷監督の評伝『特撮の神様と呼ばれた男』(鈴木和幸著)によれば、円谷監督は『ハワイ・マレー沖海戦』の時期から同僚の犬塚稔監督と共同で「とてつもなく巨大なタコが南洋に現れ、船舶を沈める」という企画を作っていたのだ。

  • アートン発行『特撮の神様と呼ばれた男』書影(著者私物)

同著には、その大ダコ映画の具体的なストーリー展開までが、おおよそ次のように記載されている。タコは酢に弱い、との判断で日本軍が「酢鉄砲」なる新兵器を開発し、弱ったタコを船で日本へと運ぶ途中、タコが目覚めて東京を舞台に大暴れ。富士山へと登ったタコは飛行機による攻撃でついに倒れ、巨大な酢ダコとなって食糧難の日本国民を救った……。

このあらすじからもわかるように、円谷監督が構想していた「ゴジラ以前の怪獣映画"企画"」はなんともユーモラスで、コメディタッチな内容であった。河崎監督はこの「大ダコを酢で攻撃する」というアイデアを膨らませつつ、街角グルメブームにわく令和の現代日本で「もしも巨大怪獣の肉が美味しかったら」といった奇想天外な問いかけを盛り込んで、前代未聞の特撮怪獣映画を作り上げたわけだ。河崎監督にとっては、パイオニアに対するオマージュ&自らの映像製作の原点という、まさに映画人生の決定版的作品。それが『三大怪獣グルメ』なのである。

『三大怪獣グルメ』には『帰ってきたウルトラマン』(1971年)『ウルトラマンA』(1972年)『ウルトラマンダイナ』(1997年)といった円谷プロの特撮テレビ作品を想起させるネーミングのキャラクター(木之元亮演じるヒビキ司令、小林さとし演じるコウダ副隊長、岸田隊員、山中隊員)が登場。さらにはグルメレポーターの彦摩呂をはじめ、パラダイス山元、ウクレレえいじ、ケイ・グラント、泉麻人、HEY!たくちゃん、いまみちともたか、武田康廣、吉田照美、村西とおる、堀内正美、きくち英一、福本ヒデ&山本天心(ザ・ニュースペーパー)など、なんとも濃厚なキャスティングで画面をにぎわせているのも大きな見どころである。

そして映画の目玉である「特撮」シーンは『魔進戦隊キラメイジャー』(2020年)などの東映「スーパー戦隊シリーズ」でも活躍する「特撮研究所」が手がけており、ダイナミズムに満ちた怪獣バトルが大胆な映像表現によって具現化された。漫画家・加藤礼次朗氏による愛嬌満点かつ巨大感に満ちた三大怪獣のデザインワークと、生々しさを過剰に感じさせない造型も注目ポイントといえる。三大怪獣に立ち向かうべく、クライマックスでイキナリ人間側の"秘密兵器"が出動するシーンでは、往年の東映特撮テレビ作品の傑作が見事にパロディ化され、小気味よい"驚き"をもたらしてくれる。

  • ソーシャルディスタンスを取りながら写真撮影に応じる河崎実監督(左)、植田圭輔(中央)、吉田綾乃クリスティー(右)

現在、映画館で新型コロナウイルス感染拡大防止のため様々な対策がとられている中、今回の舞台挨拶は「公開延期になったけど無事に公開できて、見に来てくださって本当にうれしい」と、河崎監督の観客への感謝から始まった。

  • ZOOM画面から寄せられるファンからの熱い声援を聞いて感激する3人

舞台上を最少人数にするため、河崎監督がMCを兼任し軽妙にトークを始める。舞台挨拶は互いに距離を取っての登壇となり、「フェイスシールドしたままのソーシャルディスタンス舞台挨拶は世界初めてじゃない?」と、つぶやく河崎監督。劇場内からは拍手、ZOOMを使って舞台挨拶に参加できるという初の試みによる全国からのファンの声援に、登壇者はうれしそうに手を振って答えた。まずは自粛期間中の過ごし方について。主演の田沼雄太役を演じた植田圭輔は「ギターを練習したり、作曲したり。ゲームばっかりしてる自分もいました!」、ヒロイン星山奈々を演じた吉田綾乃クリスティー(乃木坂46)は「ゲームして猫に遊んでもらったりしていました!」とマイペースに過ごしたことを報告。

この映画の企画を初めて聞いたときの感想について、植田は「なんだこれは! 僕でいいのかなと思った」と驚いたとのこと。吉田は「なんでこの発想になったんだろうって意外に思いました! でも戦う系をやってみたかったので楽しかったです!」と二人とも笑顔を見せながらコメントした。

映画『三大怪獣グルメ』は、巨大怪獣イカラ、タッコラ、カニーラを食べることで、これからの食料危機を救えるのか、という真面目なテーマも含まれている。3匹の中では一番何が好きかという話題に。植田も吉田も二人とも3匹の中で一番"高価"なカニの怪獣カニーラを選んだ。

昨年夏の撮影当時を振り返ったトークでは、SMAT隊員を演じた二人のアクションに話が及んだ。吉田が「見えないものと戦う大変さを思い知りました!」、植田が「監督が見えない怪獣の大きさをディレクションしてくれて撮影は楽しかったね」と後から合成される特撮怪獣映画ならではの感想を述べた。監督のことをどう思っているかと聞くと、植田は「天才と変人は紙一重!ていう風に思っております!」、吉田は「あの、すごい発想が豊かですよね!」と笑顔で回答。この言葉をい受けた河崎監督は「こっちは43年もバカ映画をやってるからね!」と自信たっぷりに応じた。

最後に植田が「何を観に来たんだ?と逆に思ってもらえるくらい、バカが突き抜けてる映画です。やってる側は一生懸命演じました。楽しんでいってください」とコメント。吉田も「無事に公開をむかえることができて、すごくうれしいです。たくさん笑って、たくさん食べて、また気が向いたら見に来てください」と観客に感謝の気持ちと、リピート鑑賞を強くアピールした。河崎監督は「わたしはバカ映画を43年映画も作り続けている。映画は映画館で観てもらって初めて映画になるので、頑張っていきましょう!」と映画への応援を求めていた。

  • 竹書房発行・コミック版『三大怪獣グルメ』書影(著者私物)

『三大怪獣グルメ』は渋谷ユーロスペースにて現在好評公開中。今後の上映スケジュールは、ユーロスペースのWEBサイトをご確認してほしい。また、映画とはストーリー展開が大幅に異なるコミカライズ版『三大怪獣グルメ』(漫画:ほりのぶゆき/原作:河崎実/監修:久住昌之)が竹書房より好評発売中。特撮怪獣映画へのマニア的「愛情」が、映画とは違った方向からぞんぶんに込められたこのコミカライズも、ファン必読の作品である。あなたは読んでから観るか、観てから読むか!?

(C)2020「三大怪獣グルメ」製作委員会