大橋六段はこれで藤井七段に通算成績で勝ち越し! 藤井七段は一瞬だけ訪れたチャンスをつかめず
第68期王座戦二次予選決勝(主催:日本経済新聞社)の▲藤井聡太七段-△大橋貴洸六段戦が6月10日に関西将棋会館で行われました。両者は2016年10月に四段昇段を果たした同期で、これまでの対戦成績は2勝2敗と互角です。また、通算勝率は藤井七段が8割4分5厘、大橋六段が7割3分0厘と、ともに高勝率を残しています。この注目の同期対決を制したのは、大橋六段でした。
振り駒で後手番となった大橋六段は、横歩取りに誘導しました。直近の2局は、大橋六段が横歩取りの後手番を持って連勝しており、今回も相性のいい戦型を選択した形です。
横歩取りという戦型は、近年プロの公式戦では減少しています。それは「青野流」と呼ばれる、先手の攻撃的な布陣に後手が苦戦しているためです。ところが最近では風向きが変わりつつあります。「青野流」に対抗するための有力な手段が発見され、結果を残しています。この対策を得意としているのが飯島栄治七段で、先日の王座戦本戦では羽生善治九段を破っています。
本局、大橋六段もこの最先端の布陣を採用しました。これに対して藤井七段は序盤から持ち時間の投入を余儀なくされます。31手目を指した時点で、すでに5時間ある持ち時間の半分以上を消費することになりました。
そのかいあってか、形勢は難解なまま将棋は進行していきます。藤井七段が飛車2枚、大橋六段が角2枚を保持し、どちらがより有効に大駒を使えるかが焦点の将棋となりました。9一にいる藤井七段の竜を間接的ににらむ形で、大橋六段は2八に角を打ちます。これに対して藤井七段は9二飛と打ち、二枚飛車で大橋陣を切り崩そうとしましたが、これが良くなかったようです。ここからの大橋六段の指し回しが見事でした。
まず自陣の左桂を跳ねて相手玉に迫りつつ、自玉の退路を広げます。次いでその桂の利きを生かして角を打ち込み、馬を8四に作りました。そして、それらを一気に自陣に利かせる△7四歩が絶好の一手。これにより8四馬の利きが6二の銀へ、2八角の利きが相手の9一竜へと通り、藤井七段の攻めを封じ込めてしまいました。
しかし、これで簡単に負けてくれないのが藤井七段。押したり引いたりの玄妙な指し回しで大橋六段にプレッシャーを与えます。いつしか大橋玉には詰めろがかかりました。この瞬間藤井玉は詰みません。速度が逆転したか?と思われましたが、ここで大橋六段はしっかりと時間を使い、持ち駒の銀を投入。これが完璧な受けで、大橋六段が優勢をキープしました。
藤井七段は働いていなかった竜を切り、なおも大橋玉に迫ります。ここで大橋六段がずっと狙っていた△3七香という反撃手を放ちました。しかし、実はこの瞬間のみ、藤井七段に大チャンスが訪れていたのです。
この香打ちに対する手段は3つ。玉で取るか、桂で取るか、玉をかわすかです。桂で取るのは簡単な詰みなので論外。本譜、藤井七段は玉で取りましたが、大橋六段の巧みな攻めで大橋玉への詰めろを消されてしまい、以下押し切られてしまいました。
正解は最後の手段、玉をかわすでした。危険極まりないように見えますが、なんと藤井玉は詰みません。相手玉には詰めろがかかっているため、これなら逆転だったのです。しかし、この選択を迫られた局面で、藤井七段はすでに秒読みに入っていました。序盤の研究で藤井七段に時間を使わせ、中盤では素晴らしい指し回しでリードを奪った大橋六段のこれまでの積み重ねが、逆転を許さなかった勝因と言えるでしょう。
この勝利で大橋六段は挑戦者決定トーナメント最後の進出者となりました。1回戦では斎藤慎太郎八段と対戦します。これまで若手棋戦では2回優勝している大橋六段ですが、8大棋戦では挑戦に絡むような活躍を見せられていません。藤井七段を破った勢いそのままに、挑戦者決定トーナメントでも快進撃を見せるのか、注目です。