コロナ禍を機に、半ば強制的に急速に広まった「リモートワーク」。実際に導入した企業からは、数々のメリットと共に、同じくらいの悩みが浮き彫りになってきています。その一つが、リモートワークにおけるマネジメントです。
そこで今回は、2015年の創業時から組織運営のすべてをリモートワークで行っている企業、ロコタビの代表椎谷豊さんとスタッフ2名に、それぞれの立場から、リモートワークという働き方の良し悪しについて話を伺いました。
リモートワークでの社員コミュニケーションの方法
同社には椎谷さんの外に7名の社員が在籍し、それぞれが、日本で、海外でと、自分の好きな場所で働いています。よって、仕事のスタイルは必然的にリモートワークに。全社員が一堂に会するのは、年にたった一度だけだそうです。
椎谷さん 「当社では、社員間のコミュニケーションには主にSlackを活用しています。ミーティングは、全社員で行う進捗報告会が週に2回、各1時間くらいと、チーム単位が週1回程度。その他、必要に応じて個別に話すこともありますが、チャットでのやり取りの方が多いです。
私としては、スタッフの時間を使ってしまうミーティングはできるだけ減らし、最終的には、ミーティング不要の状態になればいいなと思っています。
リアル会議は年末に1度東京で開催します。いわゆる本格的な会議として、翌年の方向性について1日中協議し、その後はみんなで忘年会。社員全員がリアルに顔を合わせる唯一の機会ですね」。
リモートワークに従来型のマネジメントは通用しない
リモートワークの課題によく挙げられているのがコミュニケーションロス問題。画面越しでのやり取りやメール、チャットだけではマネジメントがしづらいと悩む上司が多いようです。この問題について、椎谷さんに伺いました。
椎谷さん 「そもそも社員間の上下関係があまりありません。そして、代表の私自身、組織運営という視点でのマネジメントをあまり意識していませんね。前職の経験から従来型のマネジメントには慣れており、以前それっぽいことをしたところ、リモートワークにはなじまないということが分かり、少しずつ権限を手放していきました」。
具体的には、社員のモチベーションややる気に会社が合わせていくようなスタイルにシフトしていったとのこと。すると、マネジメントしなくても仕事がうまく回るようになったと椎谷さんは言います。
椎谷さん 「何かを決めたり新しいことを始めたりする際に、社員全員のコンセンサスを取るようなことはあまりしません。話は聞きますが、私が判断をしないように心がけています。会社のミッションから大きくずれていなければ、各自がしたいことを優先し、やりたいと言った人にある程度の権限を渡して進めてもらっています」。
社員を細かく管理せず、彼らの自律性を引き出す。それが、椎谷流リモートワークマネジメントのコツのようです。
リモートワークには向き不向きがある
「リモートワークは、人によって向き不向きがあると思うんです」と、コミュニケーションロス問題には別の課題もあると椎谷さんは指摘します。
ロコタビは採用もオンライン。でも、面接、即採用可否ではなく、必ずインターン期間を設け、そこでリモートワークの適正を見極めているのだそうです。
椎谷さん 「リモートワークの難しいところはやはりコミュニケーション。出社すれば存在確認できるオフィスワークと異なり、リモートワークでは、自分の存在を自らアピールできないと完全にその場から消えてしまう。自律的に動き、積極的に仕事をしないと、その組織にいる理由がなくなってしまうのです。また、いろいろな人とコミュニケーションを取れることも大事。最低限それができないと、リモートワークには向かないでしょう」。
オフィスワークの会社が一気にリモートワークに変えるとなると、きっと、できない人が出てくる。そこをどう考えるかが課題だと椎谷さん。
椎谷さん 「私の感覚では経営者の思い切りしかないかな。それでもやる、やりきるという気合いがないと、リモートワークへの転換はかなりハードルが高いでしょうね」。
さらに椎谷さんはこう続けます。
椎谷さん 「リモートワークは、会社の目的とか組織の在り方によっても向き不向きがあると思います。当社は業務内容的にリモートワークが適しているから導入していますが、何かタイミングやきっかけがあれば、オフィスワークに変えるかもしれない。決して、すべてにおいてリモートワークがベストだとは思っていません」。
リモートワークのメリット・デメリット
ところで、日頃フルリモートで働いているロコタビの社員は、リモートワークという働き方に対し、どんな意見や見解を持っているのでしょうか。
まず、新卒で入社した広報PR担当の岡慧隼(おか・けいじゅん)さんに聞きました。
岡さん 「分かってはいたものの、入社当初は、社会人として身に付けるべきことを近くで教えてくれ、サポートしてくれるメンター的存在の人がいないことに戸惑いを感じたこともありました。でも次第に、リモートワークでは、何でも自分から聞いたり学んだりしていかなきゃいけない世界だということを感覚的に学び、徐々に慣れました。
『仕事終わりに会社のみんなで飲みにいく』体験を一度してみたいとは思いますが、オフィスワーク前提の働き方には興味がないですね」。
中途入社した平林磨衣(ひらばやし・まい)さんはこう言います。
平林さん 「前職で3年くらいオフィスワークをしていて、フルリモートでの仕事は憧れだったので、転職当初はすごくうれしかったです。ただ実際にやってみると、ちょっと聞きたい、しゃべりたい時にできない。何か伝えたい時にも、きちんと準備をしないと何も伝わらない、それが一番ストレスに感じました。
でもそれ以上に、どこで働いてもいという点は大きな魅力ですし、自律にもつながるので、あまりオフィスの必要性は感じていないですね」。
コロナ後の「ニューノーマル」になると言われているリモートワーク。ロコタビの経験に基づく事例や、椎谷さんの経営者視点のコメントは、リモートワークに悩む多くの人々の課題解決の糸口になるのではないでしょうか。
取材協力:椎谷豊(しいや・ゆたか)
株式会社ロコタビ 代表取締役
2013年、海外在住日本人に活躍の場を提供したいという思いから、日本人向け海外マッチングプラットフォーム「トラベロコ」α版を公開。翌年にβ版、そして2015年1月に本サイトを開始する。同年12月に株式会社「トラベロコ」設立。2020年1月に本サイトの名称を「ロコタビ」に変更。さらに5月に社名を株式会社「ロコタビ」に変更。