日本の工場経営は決して容易なものではありません。新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るういま、より顕著にそれがあらわれていると言えるでしょう。工場が生き残っていくためにはどうすればよいのか、本稿では税理士でありながら幾つもの事業を立ち上げてきた連続起業家のSAKURA United Solution代表・井上一生氏が専門家と対談。
前回に続き、「工場再生と100年企業創り」というテーマで、職人の情熱とこだわりがつまった語れる商品を提供するメイドインジャパンの"工場直結"ファッションブランド・ファクトリエの山田敏夫氏に話をうかがってきました。
正しさより楽しさ
井上一生氏(以下、井上)――「ファクトリエでは、具体的にはどんな商品があるんですか?」
山田敏夫氏(以下、山田)――「わかりやすい機能面で言うと、ずっときれいなコットンパンツや"座る"を快適にするパンツ、デイリーウォッシャブルジャケット、永久交換保証ソックスなどがあります。
ずっときれいなコットンパンツは、しょうゆをこぼしてもはじくんです。糸自体に加工していて、これは特許を取っています。白いデニムは白いままです。
"座る"を快適にするパンツは、3Dパターンで身体に合わせたつくりになっています。ずっと座っているエンジニアやタクシードライバー、トラック運転手の方に好評です。
デイリーウォッシャブルジャケットは、出張のときに無造作にスーツケースやバッグに突っ込んでも大丈夫。シャワーで洗えるので出張のときにホテルで洗っても良いですし、焼き肉を食べたあとでも洗えちゃいます
永久交換保証ソックスは、万が一穴が開いたら返品交換できるんです。その名のとおり永久保証です。これまで数万足売れていて、ほとんど返品はありません。安全靴を履いた人が擦れて交換ということはありましたが。永久交換保証ソックスは、自分でも毎日履いてツイッターで公開してます。良かったらみてください(笑)」
井上――「どれも面白い商品ですね。アイディアが面白いし、機能性も高い。それを実現しているのは、やっぱり工場の力ですね」
山田――「そうですね。アイディアと機能性と工場。どれが欠けても、ファクトリエの商品はできません。私は、正しさより楽しさだと思っていて、楽しさを忘れないようにしています。関わっていることが楽しくて、いつの間にかモノづくりを一緒に盛り上げる仲間になっている。そんな関係性が良いですね」
アパレル工場に経営の原理原則を伝えたい
井上――「自然と仲間が集うのは理想的ですね。私も仲間に入れてください。ファクトリエでTシャツをつくってほしい(笑)
私の知人に、同じ黒のTシャツをずっと着ている医師がいるんです。黒Tシャツの上に白衣を羽織るのが彼の定番。同じブランドのものをずっと着ているそうです。スティーブ・ジョブズも、ずっと同じ服を着ていましたよね。フェイスブックのマイケル・ザッカーバーグもそうですね。彼らのように、自分の定番をつくるというのは良いかもしれない」
山田――「私は会社を資本金50万円で設立したんですが、設立当初はボランティアで手伝ってくれていた人たちがいるんです。その人たちには今でもすごく感謝していますし、会社に持続性がなければ、どんなに夢を描いてもお客様やボランティアで手伝ってくれていた人たち、工場を裏切ることになる。だから、ドカンと一発ホームランを打つよりも持続性が大事。そのためには、定番商品をつくり続けること。面白いと共感してくれる仲間やファンをつくることだと思うんです」
井上――「長く残すこと、長く続くことに価値があるんですよね。私のメンターは、サイゼリヤの正垣さんなのですが、正垣さんは経済民主主義という言葉を使っていました。大衆向けの価格だけど、メニューによっては一流ホテルの質と同じものを提供する。単品商品ではなく、テーブルに並ぶコーディネーションを考えて経営している。
経営者のためのプレジデントアイデンティティ(※【前編】参照)で、スタイリングやトータルコーディネートをファクトリエさんでしても良いかもしれない。最高級の品を着られる幸せも、適正価格で提供できますし。アパレル工場を再生して、その後も長く残す。生存対策のためにできることは、もっとありそうですね」
山田――「そうですね。長く続けるための法則や経営の原理原則があるはずです。それを工場に伝えたいですね。今は高利益商品をつくることをしていますが、将来は一つひとつの工場の経営状況に合わせてアドバイスをすることもしていきたいと考えています」
工場の後継者問題を解決するには
井上――「工場の持続性を高め、長く続けるためには、どうしても世代交代の問題、後継者問題を乗り超える必要があります。工場に後継者がいないなら、お客様(消費者)がみんなで出資してオーナーになっても良いですね。ファクトリエファンドみたいな形で。オーナーには譲渡制限付きの劣後債を発行して、配当は、Tシャツやデニムパンツ、ジャケット、シャツなどの現物。株主総会は工場でやるとか」
山田――「それはおもしろい。新しい資金の集め方ですね。『オレたちの定番商品を守るために出資する』みたいな。SNSでオーナーみんなで発信したり、PR活動をしたり。自分の出身県の工場を応援したいという人が出たりするかもしれませんね」
井上――「オーナーを募ることで、決算書もオープンになります。それで、工場再生(事業再生)ができる。山田さんには、工場の可視化をやってもらって、私は経営の可視化をやる。オーナーだけステッチの色が違うとか、ボタンが違うとか、商品にナンバリングするとか、みんながワクワクする商品や仕組みをつくりたいですね」
山田――「昨年から開始した『コットンプロジェクト』の山梨のコットンファームからオーガニックコットンでTシャツをつくる、"今年の配当は2019年に収穫したコットンでつくるTシャツ"とか、"誕生年のコットンでつくるTシャツ"とか、ワインと似たようなコンセプトでおもしろいことができるかもしれませんね。ちなみに昨年収穫したコットンで作ったTシャツは、間もなく出来上がりますよ」
井上――「それはおもしろいですね。ぜひファクトリエファンドを実現したいです。アパレル工場だけでなく、お酒やしょうゆ、インテリアなどの工場にも応用できるかもしれない。日本の再生につながりますね。まずは、知人の医師がずっと着ている黒のTシャツを今度持ってきますね。本日はありがとうございました」
執筆者プロフィール : 井上一生
税理士、行政書士、ロングステイアドバイザー。税理士でありながら、幾つもの事業を立ち上げてきた連続起業家。SAKURA United Solution代表(会計事務所を基盤に、国税出身税理士・税理士・社会保険労務士・行政書士・弁護士・銀行出身者などを組織化した士業・専門家集団)。SAKURA United Solutionのビジョンである「経営の伴走者 ~日本一の中小企業やスタートアップベンチャーの支援組織になる~」という言葉の基、"100年企業を創る"という壮大な目標をアライアンス戦略で進めている。