日本の工場経営は決して容易なものではありません。新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るういま、より顕著にそれがあらわれていると言えるでしょう。工場が生き残っていくためにはどうすればよいのか、本稿では税理士でありながら幾つもの事業を立ち上げてきた連続起業家のSAKURA United Solution代表・井上一生氏が専門家と対談。
前回に続き、「工場再生と100年企業創り」というテーマで、職人の情熱とこだわりがつまった語れる商品を提供するメイドインジャパンの"工場直結"ファッションブランド・ファクトリエの山田敏夫氏に話をうかがってきました。
コロナ時代に求められているもの
井上一生氏(以下、井上)――「前回に続き、アパレル業界の信用や信頼について、山田さんにお伺いしたいと思います。新型コロナウイルス感染予防のため、非常事態宣言が出され、外出自粛が続いていますが、アパレル店も影響を受けますよね」
山田敏夫氏(以下、山田)「そうですね。ここは銀座8丁目にありますけど、人の少なさはハッキリとわかると思います。もちろん、お店も影響を受けますよね。ただ、アパレル店ってオーバーストア状態だったんです。新型コロナで問われているのは、お客様との信頼残高だと思います。
こんなときでも、お店に来てくれる。オンラインでも買ってくれる関係性。どんなに業界内の競争が激しくても、どんなに不況な環境下でも、生き残れるお店はあるわけです。
だから、大切なのはお店の立地や広さじゃない。商品の原価を下げたり、お店の床面積を広げたりすることに躍起になるのではなく、大切なのはお客様との信頼関係なんです。私たちは、ただの店員ではなくコンシェルジュと呼んでいます。
信頼関係やコミュニケーション重視。新型コロナの影響は深刻ではありますけど、今だからこその原理原則の源流を感じています」
井上――「なるほど、お客様との信頼関係を築くという原理原則ですね。確かに、1,000円カットの床屋さんとカリスマ美容師では、やっぱりコミュニケーション力に差がある。カット代が6倍になっても、あの人にやってもらいたいっていう心理はありますよね。コト消費という言葉がありますが、最近は"ヒト消費"と言っても良いかもしれない」
山田――「だれから買うか? というのも大切ですよね。『この人から買いたい』と思ってもらえるか、ですね」
ロゴじゃないブランドストーリー
井上――「私はすでに、山田さんとお話をしていてなにかここで買いたくなってきています(笑)」
山田――「ありがとうございます(笑)。私たちは、洋服という商品を売っているのですが、同時にストーリーを売っていると考えています。ロゴじゃないブランドストーリー。アパレル工場から発するストーリーですね。
これまで、アパレル工場はブランドの下請けだったんです。マジョリティは、ブランドの名前で買う人。ブランドとの守秘義務があったので、『○○の商品をうちの工場でつくっている』ということはできない。だから、工場で働く人は自分の家族や子どもにも言えない。子どもが親の仕事を知れないとか、親が子どもに仕事のことを伝えられないとか、それってすごく寂しいじゃないですか。
ファクトリエの場合は、すべての商品に工場の名前がついている。価格も工場が決めます。工場に光をあてて、価値をぶらさない」
井上――「アパレル工場にスポットがあたるって、今までなかったことなんですね。だから工場の再生ができる。本当にすごいことですね」
山田――「価格も工場が決めますから、ブランドの下請けをやるよりも利益率が高いんです。それと、ファクトリエに来れば定番商品が買えるというのも大きいかもしれません」
井上――「というと?」
山田――「たくさんものを持つと、家の中がもので溢れかえり、ものにコントロールされているような気分になる。こんまりさんの片づけ術や断捨離、最近は最小限のものしか持たないミニマリストが流行ったりしましたが、整理すると本当にほしいものだけが残ると思うんです。それっていわゆる"定番商品"だと思います。
アパレル業界って、トレンドに合わせて変えることが当たり前になってしまっているので、『そろそろ買い換えたいな』と思っても、同じ商品がなかったりしませんか?」
井上――「あ~、ありますね。同じものがほしいのに、形や色も変わってしまったとか。自分に合う洋服を見つけられたときって嬉しいんですけど、また買おうと思ったときにないのは確かに悔しい」
山田――「そうですよね。だから、定番商品が必ずあることはすごく大切なことで。それって、工場の雇用が維持されるということでもあるんですよ。定番商品をつくり続けることで、工場の持続可能性を高めることができます。定番商品のファンになってもらえれば、定期的に買い換えてくださいますから。
お客様は、定番商品も含めてほしいものがあるから買ってくれる。当たり前のことだしシンプルなことなんですが、そういう顧客メリットが最初に来ることを忘れてはいけないと思います。
工場直販の服、産直の服を着たいと思う人は稀です。心が優しい人だと思うんです。そんなお客様のために、定番商品をつくり続けることも、工場の使命だと思います」
(次回に続く…)
「中小ベンチャーの成長マネジメント」の書籍化決定!
本連載の著者井上氏が、『会社を辞めて起業する前に読む本』(井上一生 著 / ファストブック 税込990円)を出版しました。
<井上一生氏からのコメント>
起業や副業、複業についての関心が年々高まってきておりますが、起業は決して簡単に成功するものではありません。会社を辞めて起業したものの、失敗して借金だけが残り、会社員に逆戻りしてしまう人が少なくないのが現状なのです。会社を辞めて起業する前に、まずは本書を読んでみてください。それも、ただ読むだけでなく、書き込みをしながら能動的に本書と向き合ってみてください。退職前にも、起業成功のためにやれることは実は多くあることが実感できるはずです。
「会社を辞めて起業することを考えている」
「起業して数年経ったけどまだ軌道に乗っていない」
「なにがなんでも起業で成功したい!」
本書は、こんな人にこそ役立つはずです。私は、税理士として、また経営者として多くの起業家・経営者の方々をみてきました。経営の原理原則、考え方を知っていただければ幸いです。
執筆者プロフィール : 井上一生
税理士、行政書士、ロングステイアドバイザー。税理士でありながら、幾つもの事業を立ち上げてきた連続起業家。SAKURA United Solution代表(会計事務所を基盤に、国税出身税理士・税理士・社会保険労務士・行政書士・弁護士・銀行出身者などを組織化した士業・専門家集団)。SAKURA United Solutionのビジョンである「経営の伴走者 ~日本一の中小企業やスタートアップベンチャーの支援組織になる~」という言葉の基、"100年企業を創る"という壮大な目標をアライアンス戦略で進めている。