就寝しようとベッドに入った際や、寝転んで本を読もうとしたときにズキズキと歯が痛んだ経験はないだろうか。虫歯などの歯のトラブルを抱えていないにも関わらず、不意にこういった歯の痛みが襲ってくるようだと不安にさいなまれてしまうが、実はこのようなケースでは、必ずしも痛みの原因が歯にあるわけではないのだ。
本稿では、口腔外科専門医の梯裕恵医師の解説のもと、歯の痛みを分類するうえで重要な考え方となる「歯原性歯痛」と「非歯原性歯痛」について詳しく紹介していく。
「歯原性歯痛」とは
歯に痛みを伴う疾患としては虫歯が広く知られている。虫歯とは口の中の細菌が作り出した酸によって歯が溶けた状態であるが、この虫歯のように痛みの原因が歯そのものにある歯痛を「歯原性歯痛」を呼ぶ。歯原性歯痛の主な種類は以下の通りだ。
歯髄炎
歯髄炎とは虫歯や歯の打撲、歯の破折といったさまざまな原因で歯髄に炎症が生じたものをさす。
歯根膜炎
歯根膜炎とは歯周組織を構成している歯根膜に炎症が生じた疾患のこと。歯の打撲や咬合性外傷(ある部分だけ咬み合わせが強く当たったりすることが原因)などが該当する。
根尖性歯周炎
根尖性歯周炎とは神経が死んでしまった根の先に炎症が生じたものをさす。
智歯周囲炎
智歯周囲炎とは親知らずの周りの炎症のこと。
歯の痛みに波がある理由
梯医師は、歯の痛みは歯髄という歯の神経の炎症から起こると話す。虫歯などで神経が露出すると感染を起こし、根っこの先まで感染するようなこともある。こういったケースでは、歯の内部への圧力のかかり具合によって痛みの程度に波がある。圧力がかかると脈を打つような拍動性のズキズキした歯の痛みが出現する。
夜になると歯が痛くてストレスに! 原因は?
夜になると歯痛に悩まされてストレスを感じるという人は、姿勢が原因になっている可能性がある。ベッドやソファで横向きになって寝ると、口腔内にある歯の内部へ圧力がかかってしまい、結果として痛みを招くからだ。
一方で、デスクワークや歩行時など、頭部を上にしている状態ならば、圧力がかかっていないため痛みが若干和らぐこともあるだろう。昼夜で痛みの程度に波があるという人は「歯への圧力」という点に注意してみよう。
「非歯原性歯痛」とは
歯そのものに痛みの原因がある歯原性歯痛とは対照的に、歯に原因がないにもかかわらず、歯に痛みを感じる疾患として「非歯原性歯痛」がある。
「人は痛みを感じた際、痛みの信号が神経を通じて脳に送られているのですが、神経は身体のさまざまなところから脳へと複雑につながっています。中には神経と神経が近い部分もあるのですが、別の所から送られてきた痛みの信号がそういう場所を通過する際に『混線』してしまう可能性があり、結果として痛みが発生している場所を勘違いしてしまうことがあります」
つまり、歯以外の部分から生じた痛みのサインを誤って脳が受容してしまい、「歯が痛む」と誤認識してしまっているというわけだ。では、具体的にどのような非歯原性歯痛の種類があるのだろうか。以下にまとめてみたので参考にしてみてほしい。
・筋・筋膜痛による歯痛
・発作性神経障害性疼痛による歯痛(数秒間発作的に生じる)
・持続性・神経障害性歯痛
・神経血管性頭痛による歯痛(群発頭痛や片頭痛などに伴って生じる)
・上顎洞疾患による歯痛
・心臓疾患による歯痛
・精神疾患または心理社会的要因による歯痛
・特発性歯痛(X線画像などには明らかな異常が認められない原因不明のもの)
非歯原性歯痛で最も多いものが筋・筋膜痛による歯痛。慢性的な筋肉への負担により、痛みの発生源となる「トリガーポイント」が形成され、患部となる歯の特定が困難な自発性の鈍痛や持続性の痛みが発生するという。
「いつもは痛みを起こさないような小さな刺激で強い歯痛が発生する『発作性神経障害性疼痛』や、帯状疱疹に関連する痛み、歯科治療に関する痛みが持続するもの、群発頭痛や片頭痛などに伴って生じるもの、頭蓋骨の中の鼻の左右両側に位置する空洞である上顎洞疾患による痛みなどあります。その他にも狭心症や心筋梗塞などの心臓疾患により、下顎や歯に痛みが生じるケースもあります。多くの場合は胸痛と顔面の痛み、歯痛が同時に生じますが、まれに歯痛のみが症状として現れることもあるので要注意です」
精神疾患または心理社会的要因(ストレス)による歯痛や、さまざまな疾患(悪性腫瘍、血管炎、良性腫瘍、頸椎の異常、迷走神経反応、薬の副作用など)により体が歯の痛みと勘違いして非歯原性歯痛を引き起こすこともあるという。
非歯原性歯痛の診察と治療法
上記のように、非歯原性歯痛を引き起こす要素は非常に多岐にわたる。そのため、非歯原性歯痛が疑われる場合、まずは原因となる疾患がないかしっかり臨床所見をつかみ、画像検査や血液検査などで疾患を鑑別していくことになる。
「筋・筋膜痛による歯痛が考えられれば筋の圧痛検査を行い、疼痛発生源と思われるトリガーポイント注射を行うなどして診断します。その他、頭痛専門医や精神科医師の診断が必要と考えられる場合は、速やかに受診を促します。原因疾患が考えられるならば、それに対する治療を行います。非歯原性歯痛は抗うつ薬や抗てんかん薬が奏功する場合も多いので、専門医での治療をお勧めします」