コロナ禍で国内の多くのホテルが休業などに追い込まれているなか、「ホテルシェルター(HOTEL SHE/LTER)」の取り組みが注目を集めている。

「ホテルシェルター(HOTEL SHE/LTER)」は稼働率が低くなっているホテルと、家が安全ではなく、自宅以外に安全な仮住まいが必要な人をマッチングさせるプラットフォームで、様々な理由で自宅以外の拠点を求める人に客室を低価格で提供。文字通りホテルをシェルターとして活用してもらうというプロジェクトだ。

  • ホテルの客室を低価格でシェルターとして活用する「ホテルシェルター」

    ホテルの客室を低価格でシェルターとして活用する「ホテルシェルター」

CHILLNNは関連会社が運営する大阪・弁天町のホテル「HOTEL SHE, OSAKA」にて、5日1日より「ホテルシェルター(HOTEL SHE/LTER)」としての運用を開始し、感染対策を前提とした運営を行っている全国のホテルが提携している。

大きな転換が必要とされているホテル業界

「運営しているホテルは、4/5のチェックアウトを最後に全て休館。4月の売上は例年と比べ半減。予約もいただいていたため営業を続ける選択肢もありましたが、『STAY HOME』を企業として呼びかけ、従業員とゲストの健康と安全を守るためにも、休館に踏み切りました」と語るのは、CHILLNNの代表取締役の龍崎翔子氏。

「ホテルシェルター」の取り組みについて、「『STAY HOME』が叫ばれる一方で、外出自粛は家族のトラブルを増幅させている現状を受け、そのようなストレスから逃げ出したい、距離を置きたいという人や自宅に帰ることがリスクになっている人が安心して過ごせる場として『ホテル』という安全な空間を提供する、というのが大きな目的です」と紹介した。

5月1日からシェルターとしてゲストの受け入れを開始した「HOTEL SHE, OSAKA」では、最低5泊以上の利用が前提となるが、1泊税込3,300円~(2名1室は税込4,400円~)で利用できる。

  • ホテルの客室を低価格でシェルターとして活用する「ホテルシェルター」

    一時的な別居、リモートオフィスなど様々なニーズに対応する

電車通勤などを余儀なくされている会社付近のホテルを借り上げたい会社員、高齢者と同居中で一時的にでも別居をしたい人、家庭内環境の問題で自宅にいること自体が精神的苦痛となる人のほか、従業員のリモートオフィスとして活用する法人利用もあるという。

「世の中の多くの経営者は、従業員やその家族の生活維持と安全確保の間で葛藤しています。できることなら、安全を考えて全て在宅に切り替えたい。しかし、事業が止まってしまえば、会社関係者の生活を守ることができない。なんとか二兎を追う方法を模索している状況下で、経営者の方にとってもホテルシェルターは一つのソリューションになりえます。企業や医療法人が主体となってホテルシェルターの客室を借り、希望する従業員に貸与するなど社員寮のような使い方も可能です」

先月15日にオープンした公式サイトから自宅や職場近くのシェルターとなるホテルを即座に予約でき、事前申込の段階で個人450名以上、法人複数社、全国150以上のホテルから提携を希望する連絡があったそうだ。

  • 滞在中の感染症予防対策にも力を入れている

    滞在中の感染症予防対策にも力を入れている

「ホテルシェルター」のサービス開始にあたっては、感染症専門医でKARADA内科クリニック院長の佐藤昭裕氏監修のもと、非対面チェックインや事前決済、防護服等を着用しての清掃など、安心・安全にホテルを利用してもらうための運営ガイドラインを策定。ホテル運営のノウハウをかけあわせ、「ホテルシェルター」化を検討する他社ホテルとも共有する。

「滞在中の体調不良などに対して、オンライン診療を受けられる体制を整え、ホテルごとの利用時にカスタマイズできることを前提に制作しました。『ホテルシェルター』ではご利用いただくゲストのご協力も欠かせないため、ご利用にあたって厳守いただきたい要項をまとめた同意書を配布しています」

また、かねてよりホテルプロデュースに力を入れてきた同社だが、ホテル業界ではより大きな転換が今後必要とされているとも龍崎氏は語った。

「今までのホテル業界は観光業における装置産業として存在していましたが、コロナに適応し生き残るには、個人や法人に長期的に空間を賃貸する『不動産業的』な産業構造へと変化するか、あるいは衣食住を包括するサービスであることを活かした『福祉施設的』なサービスへと変化していく必要があります」

「ホテルシェルター」としての自社ホテルの運営は休業期間の5月29日までを想定しているが、継続可否については今後の状況に応じて判断するという。