ソフトバンクグループは5月18日、2020年3月期 決算説明会をオンラインで実施しました。それによれば、過去最大となる1兆3,646億円の大赤字を記録。主な原因として、投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(以後、SVF)」で投資しているグローバル企業の価値が下がったことが挙げられます。

  • ソフトバンクグループ決算

    決算発表に登壇したソフトバンクグループ代表取締役会長 兼 社長の孫正義氏

真の“ユニコーン”登場に期待

ソフトバンクグループの2019年度通期の売上高は(前年同期比916億円増の)6兆1,851億円ながら、営業収益は(同3兆4,382億円減の)マイナス1兆3,646億円、当期の純損失は9,616億円でした。登壇したソフトバンクグループの孫正義氏は、営業利益について「通信事業のソフトバンクは順調に利益を伸ばしていますが、SVF事業が大きくマイナスとなり、経営の足を引っ張りました」と総括します。

  • ソフトバンクグループ決算
  • ソフトバンクグループ決算
  • 連結業績と営業利益。営業利益。SVF事業が足を引っ張り、「創業以来、最大の赤字を出した」と孫氏

  • ソフトバンクグループ決算

    株主価値について

これまでSVFでは、評価額10億ドル以上・非上場で設立10年以内のベンチャー企業(いわゆるユニコーン企業)に投資を行ってきました。SVF1にはARM、WeWork、OYO、Uber、Grab、DiDi、OLAなど、グローバルの88社が名を連ねています。

  • ソフトバンクグループ決算

    SVF1で投資対象となったユニコーン企業は、グローバルの88社

こうしたユニコーン企業について、「コロナ禍によって大きく苦戦している状況です。需要(売上)が急減した。例えば、旅行業では90%以上も業績が下がりました。資金繰りについても大変苦しい状況」と孫氏。「ユニコーンが、次々とコロナの谷に落馬している大変な危機です。しかし、そのなかから翼が生えたユニコーンが現れ、谷を超えていくのではないか。羽ばたくユニコーンが現れることを信じています」と話します。

歴史を紐解けば、世界恐慌(1929年)から回復した企業が、その後の新産業(自動車、電化製品、石油、食品加工など)を大きくして新しい時代を牽引しました。それと同様に、新型コロナから回復した企業が、オンライン会議、フードデリバリー、オンライン教育、オンライン医療、オンラインショッピング、動画配信サービスなどを通じて、「新たなテクノロジーを牽引してくれるはずだ」と期待を寄せました。

  • ソフトバンクグループ決算

    企業をユニコーンに例え、コロナの谷に落ちる様子を図で説明

ユニコーン企業、生きるのは何社?

質疑応答では、記者団から寄せられた質問に孫氏が回答していきます。

2020年2月の決算説明会では「潮目が変わった」「春が来た」と相好を崩していた孫氏。個人投資家から資金調達を行っている手前もあり、あえて楽観的に説明していたのでは、という指摘には「3カ月前の決算は業績も良かったし、潮目が変わった、これから大きく改善するだろうと心の底から思っていました。あの時点で、これほどコロナの影響が世界経済を真っ逆さまにするとは(思わなかった)。多くの人々と同じく、私も楽観する1人だった。新たに感染する方々の数値は、現状の報告では改善傾向が見られますが、秋、冬には第2波の広がりがあるのかも知れませんし、(いまは)決して楽観していません。いつワクチンや医療用の抗体ができて、世界中の人々が安心して日常を過ごせるようになるのか。これは様子を見てみないと分からない」と説明しました。

ユニコーン企業のうち、落ちる企業と超えていく企業、その勝敗の見通しはと聞かれると「88社のうち、15社くらいは倒産するのではないか。また15社は崖を飛び越えていく。残り60社近くは、まぁまぁの状況となるのでは」と予想。そして「5年後、10年後には崖を飛び越えた15社が、我々が投資した株の90%くらいの価値を持ってくる。インターネットバブル(ITバブル)が崩壊したときも、アリババ、ヤフーなど、ほんの一部の会社が生き残り、のちに価値の90%を生み出しました。当時も多くの会社が倒産、生き残ってもまぁまぁという状況だった。今回も同じことが起きるのだろうと思っています」との見方を示しました。

またSVF1の投資先で、倒産する可能性のあるのは比較的小さな会社で、大きな投資先はコロナの状況を受けてもこれから伸びていくとしたうえで「例外はWeWork。これは私が馬鹿でした。見損なっていた。それは正直に頭を下げているところです」と付け加えました。

なお、現在進行しているSVF2については「ソフトバンク自身の手がねで投資を継続しています。ほかの出資パートナーからの資金集めは、しばし控えます。SVF1の業績が誇れるものではないので。SVF2について『資金は大丈夫か』という質問が寄せられますが、『大丈夫ではない』というのが答えです。SVF2への投資は、大上段に構えてガンガンいくのではなく、用心しながらということです」と説明しています。

過去の状況と比べてコロナ禍のインパクトは

過去の厳しい状況と比較して、今回のコロナ禍はどのくらいのインパクトか、という質問には「事業家として長い人生を歩んできましたけれど、ネットバブル崩壊直後に味わった苦労、そのときYahoo! BBを始めたんですが、もう本当に倒産するかしないかギリギリ、崖っぷちだった。もう身体が半分以上、崖の外に落っこちそうな状態で指2本で身体を支えていた。そのくらいの危機感だった。リーマンショックのころは、腕1本で支えていた。今回は世界的な危機ではありますが、その気になれば4.5兆円を1年以内に確実に現金化できる状態。そうして財務改善できる状況です。すでにアリババ株式を活用して、アリババの株価にはほとんど影響を与えないカタチで1.25兆円をサクッと調達できた。崖から転げ落ちそうだった過去の状況と比べると、今回は余裕で崖の下を覗いている状況ではないでしょうか」と、孫氏は答えます。

  • ソフトバンクグループ決算

    アリババ株式を活用して1.25兆円を調達しています(2020年4月以降)

アリババグループの創業者、ジャック(ユン)・マー氏がソフトバンクグループの取締役を2020年6月25日付で退任する予定であることについて聞かれると「マーは、私にとって欠かすことのできない人生の友であり、志を分け合った同志であると感じています。すでに彼は、半年くらい前にアリババ本体の会長職から引退しました。CEOから引退して、後任のダニエルに任せ、自身は経営の前線には携わらないことを発表している。ソフトバンクグループの社外役員から降りるのも、彼の人生観であると説明を受けていますし、私もそのように受け止めています。彼とはコロナショック前まで毎月フェイス・トゥ・フェイスで直接会って食事して、人生観や経営について語り合ってきた。これからも生涯に渡って友情が続くと思っています」と述べました。

社外取締役2名を4名に増やすことについては「創業者の私がワンマン経営していると見られがちですが、実際の取締役会では議論百出ということで、喧々諤々の議論をしています。多くの株主の皆さまの資金を預かり、債権の市場、金融機関からも多くの資金を調達しながら事業を運営している公開会社ですから、立場をわきまえて、襟を正してしっかりと受け止めていきたいと思っています」と回答しました。