NHK「よるドラ」枠で好評放送中の『いいね!光源氏くん』(総合 毎週土曜23:30~)。「よるドラ」枠と言えば、これまでもLGBTや地下アイドルなど“いま”をテーマに斬新なドラマを生み出してきたが、本作はえすとえむ氏による同名コミックを原作に、平安時代から現代に突然次元ジャンプしてきた『源氏物語』の主人公・光源氏(千葉雄大)と、彼をいぶかしがりながらも光を受け入れていくOL・沙織(伊藤沙莉)との交流を描いた物語だ。劇中では、ほのぼのとした光と沙織のやり取りをはじめ、『仮面ライダーW』ネタなど遊び心も満載で、自粛が続く現在の人々の癒やしになっている。そんな本作の秘話を制作統括の管原浩氏に電話取材で聞いた。
■こだわった平安の時代考証
――本作の制作経緯をお聞かせください。
2018年から「よるドラ」枠が始まりましたが、NHKとしては遅めの時間帯の枠(毎週土曜23:30~23:59)ということで、これまであまりNHKに接していなかったような層に向けてインパクトのある企画を……という趣旨がありました。そのなかで、タイムスリップものというのはよくある話ですが、だいたいは実在の人物なんですよね。でもこの作品は、紫式部が書いた『源氏物語』のなかの架空の人物がタイムスリップならぬ“次元ジャンプ”するというのが面白いと思ったのが最初の発想です。
――企画はすんなり通ったのでしょうか?
前のシリーズが(前田敦子主演の)『伝説のお母さん』という作品だったので、ファンタジーものが2作品続くのはどうか、という意見もありました。でも光源氏という一目瞭然のビジュアルはインパクトがありますし、沙織という普通のOL目線で物語が進んでいくことで、ファンタジックすぎることもないのかなと思ったんです。さらにいままで見たことのないような世界で、平安貴族、しかもイケメン……うまくいけば面白くなるのではということでGOサインが出ました。
――架空の人物が主人公、しかも平安貴族ということで、実写化ではどんな部分を意識しましたか?
まずはどんなに良いキャスティングになったとしても、光源氏がそれらしく見えなければ絶対ダメということですね。その意味で、脚本家が書かれたセリフについても、大河ドラマで時代考証していただいている方にチェックしてもらったり、光源氏の芝居や所作、立ち振る舞いも、指導の先生に見ていただいたりしました。毎回出てくる和歌の詠み方も、現代風ではなく、しっかりと指導していただきました。軽く観ることができるドラマですが、平安らしさはかなり意識しています。
■「仮面ライダーW」ネタ誕生秘話
――光源氏役の千葉雄大さんがハマっていると大きな話題になっていますね。
原作の光源氏は、とてもピュアでキュート。単に女性をグイグイ口説いているキャラクターではなかったので、可愛らしい感じは欲しかったのです。千葉さんは2019年に『盤上の向日葵』というドラマで、とても真面目な役をやっていただいたのですが、彼の素の部分では、人とじゃれるのが好きで、面白いものへの貪欲さも感じていたので、コメディ作品としてどこまで成立するのかは未知数でしたが、適役だと思いました。すごくハマったと思います。うれしかったですね。
――千葉さんのキュートでホッコリするお芝居にプラスして、作り手の遊び心も感じられる作品です。特に中将役で登場している桐山漣さんの登場回で出た『仮面ライダーW』ネタはSNSでも大いに盛り上がりました。
桐山さん演じる中将が、スカウトから言われた「あなた正義の味方に向いていると思う」というセリフは、原作から変えさせてもらった部分です。制作の若い女性スタッフにライダー好きな子がいて「昔ライダーをやっていた桐山さんに、スカウトが『正義の味方に向いている』と発言したら面白がってくれる人がいるかもしれません。もともと原作にフィリップという名前のキャラクターもおり、それも(桐山と共に『仮面ライダーW』でライダーを演じた菅田将暉の役名と共通していることに)つなげてくれるかも」と話していたので、やってみようということになりました。
――そういう遊び心も「よるドラ」の魅力なんですね。
原作自体、遊び心でいっぱいの作品なので、実写化するときも、そこは大切にいろいろなところに突っ込んでみようという思いはありました。夜11時過ぎた枠なので、あまりかしこまったものではなく、若いSNS世代の人が笑って喜んでもらえるようなテイストは意識しています。
■平安時代のラブと現代のラブの違いで見えてくることも!?
――「よるドラ」と言えば、そういった遊び心にプラスして、押しつけがましくない社会的なメッセージも内在している作品が多いように感じます。
本作はこれまでの作品ほど、そういった社会的なメッセージはないのですが、あえて言うなら『源氏物語』はラブストーリーなので、ラブによってどんなことを人は得ていくのか、またラブを通じて相手とどう向き合っていくのか……ということが第七絵巻、最終絵巻(最終回)で、より色濃く出てくると思います。平安時代のラブと、現代のラブは違うのですが、その違いを意識するなかで、なにかを感じていただければと思っています。
――本作に癒やされている視聴者が多数いますが、現在までの反響はどう見ていますか?
撮影は1~2月までに終わっていたのですが、当初ここまで社会情勢が深刻な事態になると思っていませんでした。世の中が不安でいっぱいのなか、『いいね!光源氏くん』のホンワカした世界観が、人々の癒やしになっているというのは、すごくうれしいですね。脚本を作っている段階で面白いドラマになるのでは……という思いはあったのですが、光と沙織を観て和んでいただけているのは、制作者冥利に尽きます。
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