新型コロナウイルスの感染拡大により在宅ワークをしている人が増えていることを思えば、今後は会社における上司や先輩との関係が希薄になっていくと推測できます。ただ、日本の企業においては、これまで「仕事は上司や先輩から教わるもの」という考え方が根強いものでした。そう考えると、若いビジネスパーソンはどのように仕事術を学んでいけばいいのかという疑問が生まれます。「プレゼンのスペシャリスト」としても知られる、株式会社圓窓代表取締役・澤円さんにお考えを聞きました。

スポーツカーとSUV、両方の特性を併せ持つ

いま、在宅ワークをしているみなさんの上司や先輩は抜群のパフォーマンスを発揮できていますか? もしそうであるのなら、やはりなんらかのかたちで上司や先輩とコミュニケーションを図り、仕事術を学んでいくことも大切でしょう。

でも、おそらくは……以前よりパフォーマンスが落ちている上司や先輩が多いかもしれませんね。これまでの環境でなら力を発揮できても、働く環境が大きく変わっているなかで同じように力を発揮することは簡単ではないからです。

ひとつ、たとえ話をしましょう。最近、わたしはスポーツカーを購入しました。馬力はあるしスピードは出るしコーナリング性能は最高なので、高速道路ではめちゃくちゃ快適な運転を楽しめる車です。ところが、車高が低くて車庫から出すだけでも底をこすりそうになって本当に大変(苦笑)。

高速道路以外のさまざまな道路でも快適に走れる柔軟性があるという点では、これまで乗っていたSUVのほうがはるかに優れているのです。

たとえとしてはちょっと格好よ過ぎるかもしれませんが、変化したいまの環境で力を発揮できない上司や先輩は、いってみればこのスポーツカーと同じということ。高速道路のような特定の環境では力を発揮できますが、そうではない環境では途端に力を出せなくなるわけです。

もちろん、そういうふうに、ある環境で抜群のパフォーマンスを発揮する力も大切なものです。でも、新型コロナウイルスによってあらゆるビジネスが危機に直面しているいまは、すべての道路が悪路になったようなものですよね。

そうであるならば、自分の強みを抜群に発揮できる環境や得意分野を持ちながらも、SUVのような柔軟性も併せ持つことが大切だと思います。

インターネット上で柔軟性を持つ人を見つけて学ぶ

では、そういう力をどこで学べばいいのでしょうか? もちろん、柔軟性を持っている人が上司や先輩にいるのならば、そんな彼らから学ぶこともひとつの手です。そのために、オンライン上で上司や先輩とコミュニケーションを取ってみましょう。

在宅ワークが中心となって、わたしが残念に思ったのは、会社での雑談がなくなったことでした。社内でたまたま出くわした人との雑談のなかでビジネスの新しいヒントを得ることも少なくないからです。

ですから、いまわたしは在宅で雑談をしています。「Teams」というコミュニケーションツールで、週1回1時間、わたしが必ずいる部屋をつくって、わたしのチームのメンバーには「雑談をしたくなったら、コーヒーを片手にきてね」と呼びかけました。

学びたいことがあるという会社の上司や先輩たちがいるなら、同じようなことをして学びの場を設けてもいいかもしれませんね。

でも、もしまわりにそんな人がいなくても心配無用です。インターネットであらゆる人とつながることができるいまなら、世界中の人のなかから柔軟性のある人を見つけて学べばいい。たとえば、「マイナビニュース」をはじめとしたニュースサイトもひとつの入り口です。

わたしがそうだといいたいわけではありませんが、いま、これからの時代の学び方や生き方について取材を受けるような人なら、少なくとも編集部からは、今後の世界でも生きていくすべや知見を持っている人だと判断された人です。

それらの記事を読んでピンとくる人を見つけ、その人が発信している情報を追いかけてみればいい。もちろん、著書を読むといったことでも十分に学びにつながっていくはずです。

誰かに教えることこそ、最上の学びへの近道

それから、なによりも自分から「教える機会」をつくることをおすすめします。これは、かの有名なピーター・ドラッカーさん(「マネジメント」の発明者として知られるオーストリアの経営学者)の「もっとも効率よく学ぶ方法は、人に教えることだ」という言葉に基づいた考え方です。

身近な人になにかを教えることでもいいですし、不特定多数の人に教えるつもりでブログを書くということでもいいでしょう。その内容も、なにもあなた自身がとくに詳しい得意分野のことである必要はなく、学んでいる最中のことでいい。

そうして、教える、あるいは教えるつもりで書くことで、学んでいる内容が整理されてより深く理解できます。

しかも、それだけにとどまりません。みなさんが教えた人、あるいはブログを読んだ人から、「こういう学び方もあるよ」「参考になるサイトがあるよ」というふうにアドバイスや情報をもらえることもある。誰かに教えることが、自身の学びを深めてくれるわけです。

これは、アウトプットの重要性を示している事例でもあります。アウトプットというと、それなりに体裁を整えてなにか価値のあるものを出さないといけないと考える人もいるかもしれません。でも、決してそうではない。

極端にいえば、「わたしはこのことがわかりません」「誰か教えてください」でもいいのです。そうすると、先の例のように誰かがアドバイスをしてくれたりなんらかの情報を提供してくれたりすることもあるでしょう。

そのように、アウトプットによって上質なインプットを得ることを考えてほしいですね。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/榎本壯三