新型コロナウイルス感染拡大の影響で、テレワークを導入する企業は増えています。感染拡大の前後で、テレワークの状況はどのように変わりつつあるのか。そして、パンデミック終息後も、テレワークという働き方は浸透していくのか。

テレワークをはじめ、働き方を変革するためのICT環境の提供を行っている、内田洋行 ネットワークビジネス推進統括部長の村田義篤氏(むらた・よしあつ)に聞きました。

  • アフターコロナ、テレワークは浸透するか(画像はイメージ)

「緊急事態宣言」が経営者の判断や働き方にもたらした影響

――これまでは日本において、テレワークという働き方が十分に浸透している状況、とは言えなかったと思います。どのような点が障壁となっていたのでしょうか

企業側、従業員側がテレワークの必要性を認識し、それを実践する意志が弱かったことが、最も大きな障壁であったと考えています。そして雇用・人事制度やICT環境の整備の遅れも、その要因であったと言えるでしょう。

また多くの企業では、リーマンショックにより内部統制が強化され、厳格な業務ルールが敷かれました。そして、その実行手段として「紙」と「印鑑」という物理的な手段を用いるケースがまだまだ主流です。

今回のパンデミックでも、こういった「電子化の遅れ」という課題に直面している企業が少なくないと思います。まさに「ハンコを押して請求書発行」や「FAXの送受信」のために、出勤せざるを得ないという状況が見られます。

――今回のパンデミックにより、テレワークを導入する企業は増えていると思います。なぜ前述された障壁を乗り越えることができたのでしょうか?

緊急事態宣言による外出自粛要請などを受けて、多くの企業で在宅勤務やシフト勤務が進みました。企業側が社員の安全や健康を優先し、人事制度や業務ルールの変更改善に動いたことが大きいと思います。

また、グローバル展開している大手企業やIT関連企業など、そもそもテレワークを実践していた企業が、2月中旬ごろから首都圏を中心に在宅勤務を推奨し、リードしていたことも背景にあると考えています。

一方で、対面による業務が多い業種や、工場勤務者、物流などの従事者にとって、テレワークの必然性は弱いのが現実です。また中小企業はテレワーク環境を導入する資金や人材・ノウハウに乏しくなりがちですから、さまざまな支援が必要になるでしょう。

――緊急事態宣言によって、半ばやむを得ない状況でテレワークを導入することになった企業もあると思います。経営者の視点・労働者の視点から、どのような効果があったと思われますか?

パンデミックに限らず、台風・大雨、地震などの天災に見舞われたときの「事業継続」は経営者にとって大きな課題です。

今回は国内の一部で起きる災害のような「局所的な発生」ではなく、世界で広がるウイルスの感染拡大という「同時多発的な発生」という極めて過酷な経験。今後対応すべき課題がかなり浮き彫りになっていると思います。

経営者の視点から見ると、これらの課題が浮き彫りになることで、「BCP」(事業継続計画)の整備など、持続的成長への対応策が本格的に実践しやすくなるでしょう。

また従業員側の視点では、今までテレワークを「やりたくてもやれなかった」「効果が分からなかった」方々を中心に「意外とできる仕事が多い」という実感があったと思います。「働き方改革」の狙いである「育児・介護」や「時短勤務」など、ワークライフバランスがとりやすい価値観へ一変するのではないでしょうか。

テレワーク導入企業が抱えがちな課題と対策

――急遽、テレワークを導入した企業では、ハード面・ソフト面双方でさまざまな課題が生まれていると思います。テレワーク導入当初に企業が抱えがちな課題とその対策について教えてください

最も重要な課題・対策は、セキュリティ・リスクの回避です。これまでも各企業でセキュリティ対策は講じられてきたと思いますが「テレワーク対応型の通信ネットワークやサーバ環境」というよりも「セキュリティを重視した、クローズドなネットワーク・サーバ環境」を前提とした対策が多くを占めていました。

またクライアントのPC環境もデスクトップが中心で、ようやくノートパソコンやタブレットに移行している、というところが近年でも少なくありません。つまり、「クラウド&モバイル」を前提とした統合的なセキュリティ対応が取れている企業はそう多くないのです。

そして実際にテレワークを実践する従業員側も、リテラシーの乏しいケースがあります。例えば「初めて自宅のWifiを使って仕事をしてみた!」という方は、Windows10のアップデートなど、自衛的にセキュリティ対策を行う必要があります。従業員のリテラシー維持も課題となってきます。

直近では、企業のテレワーク管理者側がテレワーク環境の拡大に追いつけていません。特にテレワーク用の機器(タブレットPCやヘッドセット)の在庫がほとんどなく、一時の「トイレットペーパーの品切れ状態」となっています。

アフターコロナ、テレワークの在り方はどう変わる?

――パンデミック終息後も、テレワークという働き方は浸透していくでしょうか?

テレワークは定着していくと思いますが、出社して仕事をする方は増えると思いますし、すべての業務がテレワークに変容することはないと思います。

今回の事態を受けて「テレワークで代替できる業務は何か?」という事象を全体で共有できたことで、「出勤・対面で行うべき職務」「テレワークでできるタスク」は明らかになってきました。

例えば、お客様とのやりとりで「既にご依頼いただいた内容を直近1カ月、どのように展開していくか」というお話はWEB会議でもできるかもしれません。しかし、夏以降、もしくは秋以降、どういった新たな戦略をもって展開していくか、という話になると、WEB会議では難しい、と私自身考えています。

いくらWEB会議で顔が見え、話が出来ると言っても、表情の機微は感じ取りにくいですし、込み入った議論がしにくく、話がまとまりにくいように感じます。

――テレワークが定着する中でも、会って話すことが必要な仕事は対面で行うなど、使い分けられていくということですね

テレワークでできる仕事には限界がありますし、やはり「Face to Face」が基本。相手と対面できない今だからこそ、出社してする仕事の意義を再確認できるとも思います。

そして、仕事を行う"時間"や"場所"は何が最適か、自律的に考えて行動できる方がビジネスの世界では生き残っていくでしょうし、そのように進化しなくてはならないと私は考えます。

――結果として、テレワーク導入で生産性が落ちてしまったという企業や部署もありそうですが、生産性を高める運用ができるよう、どういった対策が今後は必要になってくるでしょうか?

今回課題となった事象を整理し、暫定措置であった場合も含め、雇用・人事制度や業務ルールの見直しを行う必要があると思います。

それに伴って、IT環境(クラウド化やネットワークやセキュリティ)を強化すること、そして人手で行っていた業務の電子化(ワークフローシステム、RPA、電子印鑑など)を急ピッチで進めることも求められます。

また、弊社ではリモートワークのツールである「Microsoft Teams」のWEBセミナーを開催したのですが、250名という定員いっぱいのご応募がありました。カメラの位置設定や、顔がきれいに映るライトの当て方といったツールの活用法から、「こうすればセキュリティ上問題なく使える」という使い方まで、基本的な内容ですが、非常にニーズを感じます。

  • 内田洋行テナントにおける「Microsoft Teams Web」会議実施件数の推移。平均の実施数と比較し、最大で10倍以上の件数となっている

WEB会議自体は現在相当数増えているものの、「初めてなので使い方が分からない」「正しい使い方が分からず、機密情報が漏れないか不安」といった声がまだまだありますので、こういった正しいツールの使い方も周知していく必要があるでしょう。

組織や人材も変わっていきます。社員教育やBCP演習など、運用面でも持続的に注力していけるといいですね。

内田洋行 ネットワークビジネス推進統括部長 村田義篤

内田洋行にて12年間、営業部門でオフコンや勘定系システム販売に従事し、事業企画から経営企画に3年間、携わる。その後ネットワーク系エンジニア部門を9年の統括を経験し 現在に至る。現在は、ネットワークビジネス推進部を担当し、テレワークをはじめ、働き方を変革するためのICT環境の提供を行っている。主にコラボレーションやコミュニケーション分野でグループウエアを熟知し、徹底的に使いこなすための対応ハードウエアや連携ソフトウエア、サービスそしてオフィス什器を含めた最適な場の提案をおこなっている。その代表となるクラウドサービスSMARTROOMSは、大手企業を中心に400社11,000室の導入実績である(2020年3月現在)。